2-2話 ここは世にも恐ろしき猫又国――!
妙に個性的だったハロウィン・タウンも含め、ゴシック様式が主だった周辺地域とは、一線を画す特殊な建築。
瓦屋根を帽子のようにかぶった家々が立ち並ぶ、いわゆる〝和〟の風情が立ち込める街並みには、開け放たれた店や茶屋が賑わっている。
けれど、それが人間のためと思うなかれ――此処は、モンスターの支配する国!
住まうは猫、店先を賑わわせるは猫、行き交うも猫――右を見ても左を見ても猫。
下を向けば時には足の間をスルリと抜けて、屋根の上を得意げな顔をして歩く猫。
上下左右、どこもかしこも――猫、猫、猫の群れ!
往来を堂々と歩き、しゃん、と誇らしげに立てる尾は、二又に分かれている。
そう、此処に住まうは、猫又――人間のために非ず、此処は猫又のための国なのだ。
哀れなる人間は、猫又たちに支配されるしか、生きてゆく術はない。
そう――ここは世にも恐ろしき猫又国――!
そんな猫又の支配する国に足を踏み入れ、ぽかん、とトゥーナが口を開ける。
「う、うわ、うわー……ほ、ホントに猫だらけだわっ。他所のモンスターが支配する国なんて初めてだけど、実際に見てみると変わってるわね~……」
「住人はコスプレがデフォなハロウィン・タウンも相当だと思うが、まあ全く違う文化に初めて触れて、初めて分かることもあるからな。旅の醍醐味だな、うんうん」
「なるほど、猫又って尻尾が二本に分かれてんのね……わっ、あの子なんて二足歩行で歩いてるし、服着てる子もいるわっ。毛皮もあるのに暑くないのかしら……ていうかオープンカフェ? みたいなとこに座って何か食べてる子もいるし。皆、猫又なのかしら……あっ、尾が一本の子もいるわね、普通の猫もいるのね……」
興味津々といった様子のトゥーナが、キョロキョロと辺りを観察していると――『ニャニャーン!』と数匹の猫が駆け付け、アインたち一行を取り囲む。
どの猫も尾が二又に分かれており、猫又と分かるが、その内の一匹が口を開いた。
『ニャーン! われらは猫又国の警邏隊、怪しい入国者とはおまえたちのことか! いったい何者か、疾く答えよ! ニャーン!』
「ぇ……しゃっ喋った~!? 猫又って喋ることも出来るのっ!?」
『ムム、魔力を感じるということは、魔女……モンスターのご同輩かニャア。しかし世間知らずなお嬢さん、ここから近い街には喋るカボチャのモンスターが支配するタウンもある、と風の噂にも聞きますニャのに。ニャフン』
「えっ、カボチャが喋るのって珍しいの? アタシが魔力を籠めれば、パンプキン・ソルジャーとか簡単に出来るのに……まあ自然栽培のカボチャが必要だけど」
やはり客観視されて初めて気付けることもあるのだろう。絶賛、学びを得ている真っ最中のトゥーナの横から、アインが改めて紹介する。
「どうも。俺たちは旅人一家で、俺はただの人間のアインだ」
「マスター・アインの忠実なるメイド、ロゼと申します」
「い、一家にされてる、なんかむず痒い……あ、アタシはハロウィン・タウンの魔女娘、トゥーナ=スクウォッシュ=ウィッチ・ガールよ」
『ほほう、旅人とは珍しいニャ。されどわれらが猫又国の敷居をまたぐこと、即ち猫またぎの如く見過ごして欲しければ、どうすべきか……分かってるかニャア~?』
なるほど、どうやら袖の下を要求しているらしい。なかなかがめついが――ふむ、と顎下に指を添えたアインが、荷物入れから何かを取り出す。
「では、これを……こちらのトゥーナが作った、実の部分を焚き込んで柔らかくした、カボチャの保存食です」
『ほほう、カボチャ……ぺろっ。ちゃくちゃく、んまんま……ンニャッ! ようこそ猫又国へ、通ってよーし!』
「いいの? そんなんで入国とか出来ちゃっていいわけ!? ていうか猫にカボチャも大丈夫なの!?」
「ああトゥーナ、心配はいらない……人間用の濃い味付けはせず、柔らかく煮たり炊いたりして与える分には、大丈夫だ。ただ、種とかワタは消化不良になりかねないから、与えないように気をつけないとな」
「そ、そお、詳しいのね、フランケン博士ってそんなことまで知ってるもんかしら。……ていうかカボチャは分かったけど、入国のほうは?」
「フフッ!」
「大丈夫なの? ねえホント大丈夫? ねえアイン答えなさいよコラ、オイコラ」
ややウケているアインに軽くイラッときていそうなトゥーナが詰めるも、彼女の疑問には猫又の隊員がニャンと答えた。
『まあ基本お客さんとかには緩いからニャ、猫ニャので。まあ縄張り荒らしの侵略者とかには厳しいからブチ殺しますニャンけど。あ、一応ここ支配してる女王様には、しっかり挨拶しとけニャンよ。ほな、ごゆっくりニャ~ン。もちゃ、もちゃ……』
言いつつ既に背を向け、カボチャの保存食を食べながらニャンと去っていく猫又。
アイン達が、それを見送り終えると――直後、居並ぶ店の中から――
『――いらっしゃいませ、久しぶりのお客様~~~!!』
『『『ニャ~~~~~~ン!!』』』
「へ……きゃっ!? な、なによ、急に大歓迎ムードなんですけど~!?」
『いらっしゃいませニャ~ン♡』
「くっ……あ、あざといわね……!」
あざとい、されどその効果は抜群なのか、少しばかりやられてしまっている模様のトゥーナに――看板娘、いや看板猫? 看板猫娘……?
……とにかくエプロンをつけた二足歩行の猫又が「ニャフフ」と笑って言う。
「あちしら猫又、基本的に楽しいことニャら大歓迎ですからニャ♡ まあでも飽きたらそれまでニャので、明日いきなり塩対応と化してもご了承くださいニャン。猫にでも化かされたと思って」
「そこハッキリしすぎじゃない!? ま、まあ猫らしいっちゃらしいけど……とりあえず緩い分には安心だわ、のんびり過ごせそうだし――」
「おっとお客さま~? お忘れですかニャ、あちしらは恐るべきモンスター! 魔女さんといえど余所者なら人間と対応は変わりませんニャ……もしこの国で狼藉でも働こうものなら。……既に支配を受けているニンゲンどもと同じく、過酷なる苦役に従事してもらいますニャンよ~……?」
「! か、過酷なる苦役、ですって……!? 一体、何をさせる気よ……!?」
「ニャッフッフ、それは……あちらをご覧くださいニャ~ン♡」
「くっ、何か軽く感じるけど……あちらって? ……ハッ、あ、あれは――!?」
看板猫娘のいかにも柔らかそうな肉球ハンドで示された方角、それを目撃したトゥーナは――!?
……ところで、これは完全に余談だが、アインは今このように思っていた。
〝トゥーナが律儀にツッコんでくれるから話が早くて楽だな〟と――




