1-16話 アイン=シュタイン=フランケン――フランケンの謎
尋常ではない身体能力を駆使し、アイン特製という兵器による火力で、銀髪のメイド・ロゼが、モンスターの盗賊団を一方的に蹂躙する。
フランケン・モンスターとは――伝説たるマッドサイエンティスト・フランケン一族の、今で言えば末裔たるアインによって創造、もしくは復活された元・人間だろう。
だからこそフランケン・モンスターは、人の持つべきリミッターが外れている。人間の限界を超越した運動能力を易々と発揮できるのは、それが理由だ。
まさにフランケンの怪物、人でありながらのモンスター!
仲間に命令を出していた、盗賊団の中心たるオーガも、焦燥に冷や汗を浮かべていた。
『な、なんだっつうんだ、アイツ……このままじゃ、壊滅……』
『……ブ、モォ……モッ!? ブ、ゴゴォ……!』
『ア? ミノタウロスの……オマエ、起きたのか? ん? なに指さして……』
それは初め、酒場に放り込まれたまま気を失っていた牛頭の魔物、ミノタウロス。ダメージが抜けていないのか喋れないようだが、人間の青年・アインへと、震える指を辛うじて向けた。
「ロゼ、オークの体は脂肪が異常に分厚い。銃弾も効果が薄いから、鈍器で脳天をブッ叩くといい」
「イエス・マスター。カチ割ります。カチ割り、カチ割り……アサルト・メイド・カチ割りアタック」
『あんまりでオーーークッ!!?』
先ほどからアインは、モンスターの特性を理解し、的確に指示を出してはいるが――自らは手出しをしていない。今も巨大棺桶を背負ったまま、突っ立っていた。
『! そうか……そういうことか、分かったぜ、へへっ……』
オーガは、ほくそ笑む。フランケン・モンスターたるロゼ=ザ・ゼロの実力は、モンスターすら凌駕するほどだ。しかし自らをただの人間と、ただの旅人と名乗っていたアインは、違うだろう。
思えば〝博士〟という呼称も、軟弱に響く要因だろう。ミノタウロスが指さす存在、アインへ向けて、オーガは己の両手をパキパキと慣らしつつ歩み寄る。
「あっちで暴れてんのが、オマエの忠実なメイドなら――オマエを人質にでも取れば、抵抗できなくなるよなァ? 違うかい?」
「? さぁ、試したことがないから。……だが人質になど、取る必要もない。俺が行動不能、あるいは死ぬなどすれば、ロゼは行動を停止するだろう。まあそれも試したことはないが、恐らくはな」
「オイオイオイ、ご丁寧に教えてもらっちまったぜ。天才マッドサイエンティストってのは、逆に馬鹿なのか? へへ、じゃあ遠慮なく――」
『ブッ、ブモッ、ゴフッ……ブッ……!』
「おお、分かってるって、おめぇの仇も取ってやっからよ」
モンスターじみた大口を、ニヤけ顔で歪めつつ、オーガが手を伸ばすと――瞬間、牛頭の魔物が叫んだ。
『ゴホッ……ち、違ッ……違うんだ! ヤベェのは……ソイツなんだよぉぉぉ!』
「は? ……あん? なんだオイ、人間のガキ、おれさまの手ぇ掴みやがッ――」
「――オイ、おまえ。俺の大切な家族の入る棺桶に、近づいたか?」
「へっ? ……ッ、ギッ!? ア、ガッ……グギギギギッ!!?」
オーガの野太い腕を、その剛腕の半分以下にも満たないと見える左手が、捻り上げる。
線の細いアインが、その左手一本で――重量級モンスターであるオーガに、悲痛な声を上げさせていた。
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時に、この世界における、フランケン一族の祖たる存在。
即ちファウスト=シュタイン=フランケン博士については、不可解な記録が残っている。
かつて彼はその天才的な頭脳と、人の倫理観をはみ出した行動原理で、〝始まりのフランケン・モンスター〟をたった一人で造り上げた。
そのモンスターの体躯たるや、オーガやサイクロプスをも凌駕する巨体であり、総重量にして、300㎏以上にも及んだという。
……明確とはいえないが、単純計算にして。
〝頭部・50㎏(通常の5倍ほど)〟〝腕を含む胴体・200㎏(通常の5倍ほど)〟
部位、その他……収集、実験……施術解体実践強行電極起動――
それを――たった一人で?
……更に言えば、後に暴走し、正しくモンスターと化した〝始まりのフランケン・モンスター〟を……素手の膂力のみで、馬や牛すら容易く引きちぎる、まさにモンスターたる力の持ち主が逃亡した際。
これをフランケン博士は追跡し、そして最後には――自らの手によって、討伐を成し遂げたという。
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フランケン一族だからとて、初代と同様の体質や能力が、子孫にも発現するとは限らない。
しかし少なくとも、ここにいる、末裔は――アイン=シュタイン=フランケンは、どうだろうか。
「俺と、俺の大切な家族が入る、棺桶に――汚い手を、向けるなら」
『ッ!!? ま、待てッ……待て待て待て! べ、別に棺桶に手ェ出すつもりは……いや悪かった! アンタにも近づかねェ、だからッ――あっ』
もはや命乞いの如く叫ぶオーガの声は、聞こえてもいないようだ。
長い前髪の隙間から、憤怒に燃える瞳を覗かせ、アインは右手を軽く引き――
――シンプルに振り抜いた――
『――――ェッ』
声が。
遠い。
自称ただの人間、アインの右手でぶん殴られたオーガは――木造りの壁を突き破り、屋外まで吹っ飛ばされてしまった。
もはやそのオーガには聞こえるはずもないが、その場にまだ立っている盗賊たちに向けてか、アインは勧告するように告げる。
「――――解体すぞ」
『ヒッ……ヒイイッ……』
モンスターたちが、怯え、後ずさる。
一方で、リリィを庇いながら静観していたトゥーナは、呆気に取られていた。
「あ、アイツ……あんなに、強かったの?」
「……あっ、そういえば……あの棺桶、ずっと持って旅してたって。アインさんは、軽いって言ってたけど……でも」
「あんなサイズの、どう贔屓目に見たって、軽いモンじゃないわよっ。っ……な、なによ、アイツ……アイン……す、すごいじゃないっ」
倒れてはいても、少しばかり声が弾むトゥーナ……だが、その場に介入する存在がいた。
『……フランケンの末裔……ヨクモ、暴れまワってクれたモノ、ダ……』
「! アイツっ……盗賊団の、ボス……!」
その異様な巨躯と佇まいに、身動きの取れないトゥーナは畏怖する。
しかしアインはといえば――
「よくも暴れまわってくれた、はオマエ達が言われるべき言葉ではないのか? まあ別に、どうでもいいが」
特に恐れもなく、ほとんどいつも通りのスタンスで返答していた。




