1-15話 フランケン・モンスター《殺戮人形》のアサルト・ダンス
フランケン・モンスターと、ロゼは、そう呼ばれた。
艶やかな銀髪の、無機質なまでに無表情な、それでもなお美しきメイドが――無造作に行動を開始する。
「…………」
裾にフリルのついた長スカートを、ドレスでもつまむようにして、捲っていった。
黒ストッキングに包まれた、細長い足が露になり――太ももまで、露出する。
『オッ、へへへ、今度こそサービスして……へっ?』
『何だ……何か隠してやがるぞ? 武器、か?』
『ありゃ確か……弱っちい人間が、モンスターに対抗するため、開発した……武器だか、兵器だかっつう』
『――――銃?』
美しきメイドの太ももに括りつけられていた、レッグホルダーに備えられていたハンドガンを抜き放った。
――その瞬間。
『え。……消え、た――』
「舞踏、開始――まず一匹目、でございます」
『えっ。……ゴエアッ!!?』
人間よりよほど優れた動体視力を持つ、モンスターですら、その姿を見逃す。
人間の限界を超えた、異常の敏捷性!
盗賊団の一人に背後から銃弾を叩き込んだロゼは、けれど既に、その場にいない。
仲間が成す術もなく倒れたところで、愚鈍なまでに今さら、警戒を強める有象無象。
『っ、気をつけろオメェら! コイツ、タダモンじゃね――えばらッ!?』
『なっ、オイッ、どっから撃って……いたぞ、あそこ――オガァッ!?』
『ンだよ、チョコマカと、このっ……ゴブハァッ!?』
一か所に留まらず、移動しながら――というレベルでは、ない。
酒場という広い空間を、それでも所詮は屋内だと、嘲笑うようだ。
床を、壁を、天井すらも、蹴り上げて跳躍し――目にも止まらぬ速さで、休むことなく高速移動を続ける!
たった一人のメイドが、ハンドガン一つから放つ銃弾が、まるで全方位から叩き込まれる機関銃の如し!
それでも、この状況はおかしいと、モンスターの一人が叫ぶ。
『そっ、そんなわきゃ、ねぇだろっ……銃なんて、軟弱な代物はッ! 大昔に人間共が開発してから、強いモンスターの皮膚は貫けねぇ、役立たずって結論が出たろうが……オークの鼻に当たってポトッと落ちたなんて、有名な笑い話だぞ! それが何で、おれらモンスターに……効くンだよッ――』
「大昔の話を持ち出すとは、笑わせてくれる。技術・革新は日進月歩。特におまえらのような無法者が力に胡坐をかいている間に、いくらでも進化するものだ」
『! な、なんだ、テメッ……』
いまだ入り口付近で棺桶を担いだままのアインが、挟んだ口そのままに続ける。
「特に、ロゼに使わせているのは、俺の特製銃弾――人間の持つ今の技術では、オーガなど重量級モンスターの皮膚を貫くには心許ない、というのも事実だろう。だが、衝撃は防げるかな――受け取れ、ロゼ」
「イエス・マスター」
どこから、いや、いつの間に取り出したのか。アインが放り投げたのは、ハンドガンよりロングバレル、更には大口径の銃だ。
即ち、ショットガン――美しきメイドがそれを構えると、アインが告げる。
「物足りない貫通力ではなく、重量による衝撃に特化した、徹甲弾ならぬ鉄鋼弾だ。反動が馬鹿げているので、ロゼくらいにしか扱えないが、まあ」
「アサルト・メイド・ショットガン……発射。――んっ」
ロゼがトリガーを引くや、ゴバッ、と銃声と呼ぶも躊躇われる、吐き出すような音が響いた。
散弾の如く飛翔する、鉄鋼弾の群れが、モンスター達を襲い――
『ぇ。……グ、グヴォエェェェェッ!!?』
『ゲッエ……ンだ、この……ドラゴンの尻尾、叩きつけられたみてぇな威力……』
『――――(チーン)』
射線に存在した者、全てが薙ぎ倒されたのを見届け、アインは簡潔に述べる。
「モンスターといえど――充分、効くだろ?」
効く、どころか戦闘不能に陥った盗賊団の仲間を見かねてか、狼男がロゼへと迫る……が、しかし。
『っ、舐めんなよ、銃だのっつうオモチャでイキったって……おれさまの牙と爪で引き裂いちまえば、関係ねぇ! ウオォォォン!』
「ロゼ。狼男はモンスターの中でも、反射速度が並外れていて、接近戦に強い。距離を取って遠くから射ち込んでやれ」
「イエス・マスター。ふっ――」
『あれっ。ちょ、えっ……ウォン……』
取り残される形となった狼男に構わず、ロゼはメイド服の隙間から何やら取り出しつつ、身を翻して後方へ跳躍した。
「顔面、失礼いたします」
『あ? ……ぶべっ!?』『オゴッ!?』
右足でオーガの顔面を、左足でオークの顔面を――重量級モンスターを踏みつけて開脚した体勢で、それでも一切揺るがぬ、絶妙なバランス感覚!
しかもそうしている内に、組み立てていた銃は、完成していた。
「アサルト・メイド・ライフル――発射」
『ウ、ウオンッ……ウワォーンッ!? ほ、誇り高き狼男のおれさまがぁ――!?』
「ジョークが上手いな、盗賊団に身をやつしている分際で。本当に誇り高い狼男というのは、国の王として君臨していると聞くぞ」
『アォン……スンマセン、落ちぶれて……ガクッ』
アインが容赦なく言葉で切り捨てると、そのまま狼男は倒れ伏す。
……それにしても、だ。
全く、これは一体、どうしたことか。
つい先ほどまで暴虐を揮い、無法の享楽に耽っていた盗賊団たちが、有象無象のモンスター達が――
踊るように、舞うように、殺戮舞踏を繰り広げる、たった一人の銀髪メイドに蹂躙されている。
この〝モンスターの世界〟では、信じられぬ光景だろう。
しかし盗賊団の一人は、思い出したように叫んだ。
『あ、あ、あ……あああああ!? 異常なデカさの棺桶を背負った人間の男と……異常な強さの銀髪メイド! お、思い出した、コイツら……十日くらい前から急に現れ始めたっつう、闇の世界のお尋ね者! 旅しながらモンスターの盗賊団を潰して回ってるってウワサの、自称・旅人!』
事情通のゴブリン、かなり倒しているのでEくらいだろうか……そんなゴブリンEが無遠慮に、アインとロゼを指さし、声高に明かす正体とは!
『あの伝説の、人間の中に生まれた怪物――
天才マッドサイエンティスト、フランケン一族の末裔!
アイン=シュタイン=フランケン!!
そして、そいつの造り出した、フランケン・モンスター!
《殺戮人形》――ロゼ=ザ・ゼロ――!?』
叫んだゴブリンEに、瞬間、アインは睨みながら、平坦だった声に威圧感を籠める。
「オイ、俺をフランケンなどと呼ぶな。
その名は捨てた。俺はただの旅人、アインだ」
『……ヒッ』
「大体、盗賊団を潰して回っているつもりはない。おまえらのようなのが襲ってくるから、返り討ちにしているだけだ。全く、ただの人間には、世知辛い世の中だ」
フンッ、とアインが吐き捨てる、その間にも酒場内では戦闘が続いていた。
「アサルト・メイド・ブレイドダンス」
『いやさっきから技名みたいなの、テキトーに言ってるだけじゃ――ギョエェェェ』
モンスターの盗賊団は、美しきメイドによって、瞬く間に打ち倒されていく。




