1-14話 ロゼ=ザ・ゼロ
酒場の入り口に立っているのは、ただの人間の旅人を名乗る青年、アインだ。
彼はそのまま、内側へ踏み入る――背負った巨大な棺桶が、バキバキと音を立てて建物を壊してしまうのを、気にもしていない。
むしろ気にしているのは、無法の盗賊団であるオーガの方だった。
「オ、オイオイオイ……待て待て! 強引すぎんだろテメッ酒場が壊れちまうだろが! おれらのモンになる街で、好き放題してんじゃね――」
「おまえ達の街ではない。ここはハロウィン・タウン、パンプキン・モンスター一家の街だ。だからまあ、この場で怒る資格があるのは、トゥーナだけではないか?」
「ア、アアンッ? 何ほざいてやがる、この状況が目に入んねぇのか? もうこの街は、おれら盗賊団のモン――」
オーガが言い返そうとするも――トゥーナが食い気味に叫んだ。
「ッ、いいわよ! 建物なら、アタシたちの一家が魔法でまた造るからっ! だから……お願い……ただの人間に、無理は承知だけど……助けて! 隙を見て、アタシの拘束を外してくれれば、こんなヤツらっ……お願い……助けてくれたら、アンタの旅にでも何でも、付いていく……ううん、何だってする――」
「ああトゥーナ、キミもここに居たとは驚いた。でも別に、交換条件とか必要ないぞ。どうしても気が進まないなら、旅だって無理強いはしないし」
「えっ。……えっ、えっ……いやあの、えっと……?」
困惑するトゥーナに、アインは普段通りのように、平静な声で告げる。
「家族の頼みを聞くのに、交換条件も無いだろう――当然、助けるさ」
「! ……あ、ぅ……」
「厳密には、まだ家族候補だけどな。まあいいさ、サービスだ」
あっけらかんと言ってのける、ただの人間・アインに――そろそろ無視されることも堂に入ってきたオーガが、額に青筋を浮かべつつ口を開く。
「ぐ、へへっ……クソザコ人間風情が、エラそうにほざいてくれるけどよ……ただの人間が、どうやってコイツらを助けるって? なあオマエら、笑い話もここまでくりゃ、笑えなくなるよなぁ!」
『ケッ、全くだぜ!』
『捻り潰して引きちぎって、酒の肴にでもしてやっかぁ!?』
『……あの棺桶、どっかで……』
『おいイカれた人間のガキィ、後悔しても遅いぜェ!? ゴーブゴブゴブ!』
「おーし、野郎ども! 思い上がった馬鹿野郎に、身の程ってモンを教えてやれ!」
盗賊団の中心であろうオーガが合図するや、別のオーガ、荒々しい雰囲気のオーク、牙を剥きだす狼男――いかにも恐ろしい顔ぶれに、にじり寄られる。
対してアインは、特に感情の揺らぎもなく言った。
「ああ、そうだな。確かにただの人間の俺では、大したことは出来ないし。……というわけで、だ」
軽く顔を後ろに逸らし、アインは簡潔に語りかける。
「ロゼ、頼めるか?」
「……………………」
壊れた入り口と巨大な棺桶、その隙間を縫うようにして、彼女は現れた。
艶やかな長い銀髪と、神が造り出したかのような美貌を持つ、メイド――全くの無表情のまま、ロゼはなぜか酒瓶を一つ手に取る。
そのまま無造作に、呑気に座ってニヤけ顔をする、ゴブリンと思しきモンスターへ歩み寄った。
『ゴブ? なんだァ綺麗なネェちゃん、お酌でもしてくれんのかァ? へへ――』
「メイド・アタック」
『ゴブリュッ』
その脳天に、酒瓶が容赦なく叩きつけられ――ゴブリンは潰れたような奇声を発しつつ、一発ノックアウトされ、割れた酒瓶とアルコールに塗れた。
美しきメイドによる突然の暴力に、呆然としていた盗賊団の中から、ようやく非難の声が上がってくる。
『てっ、てっ、てっ……テメェいきなり何しやがる――!?』
「マスター・アインのことを、先ほど〝イカれた人間のガキ〟などと侮辱しておりましたので」
『だ、だからってそこまで容赦なくブチかませるか!? 躊躇いもなけりゃ全力だっただろ、どんだけキレてんだテメッ!』
「ただの挨拶がわりですが」
『このメイド、行動原理がチンピラみてぇなんスけど!?』
盗賊団が何かビビっている――が、行動がチンピラじみていると評判の美しきメイドの行動は、まだ終わりではない。
取り出したマッチに、シュッ、と火をつけると、酒まみれで倒れ伏すゴブリンに――無表情で、ぽいっ、と投げつけた。
『ぅ。……ぁ……アッチチチチチ!? アッヅァァァァなんだゴブリャァッ!?』
『ウッウワァァァァ!!? ご、ゴブザブロウーーーー!!?』
「……マスター、いまいち火の手が弱いです」
「飲料用だからな、アルコールは薄いのだろう。次からは油でも使うといい」
「かしこまりました、次からはそのように致します」
『オッウフフッふざけんじゃねーぞサイコパスかオメーら!? 人の心が少しでもありゃ、とてもじゃねーが出来ねーぞコレ!?』
モンスターに人の心を説かれる、なかなか珍奇な状況だが――いよいよモンスター達もいきり立ち、今にも飛び掛かってくる構えだ。
それでもなお、無感情な銀髪メイド・ロゼが――アインに言葉を求める。
「マスター、ご命令を」
「ああ、丁寧な挨拶も終わったようだしな。……では」
棺桶を背負ったまま、アインは美しきメイドへと、パーティーへ送り出すような声音で命じた。
「俺の唯一にして、最後のメイド。
フランケン・モンスター・ザ・ゼロ。
――――舞踏ってこい――――」
「ロゼ=ザ・ゼロ――命令受諾。
《殺戮人形》――舞います――」




