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二週目は誰も失いたくないので、婚約破棄を目指します。  作者: もち


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7

「暇が欲しい?」

「はい、明日からしばらくお暇を頂こうかと」


殿下が訪れる日の前日、セドリックから突然の要望に驚く。セドリックは公爵家のためによく働いてくれているから、暇を出すのはむしろ願ったりなんだけど……。明日は殿下が来るからできれば側にいて欲しい。


「……明日からじゃないとダメ?」

「はい、急で申し訳ありません。引き継ぎは済ませておりますので、シリル様が困ることはありません」


淡々と告げるセドリックに少し胸騒ぎがする。


『俺がシリル様を全てからお守りしますから、安心して待っていてください』


殿下が来たあの夜から、セドリックの様子が少しおかしい。

一日中側にいてくれたのにあの夜以降、一緒にいることは少なくなった。こっそりセドリックの様子を見に行った時、他の使用人に引き継ぎをしているのを見た。

僕について事細かくしていたから、なにかあるのは予想していた。だけどまさかこんなに早く暇を求められるとは思ってなかった。セドリックがいないのは凄く不安だけど我儘は言えない。


「……分かった。セドリックにはいつもお世話になってるし、ゆっくり休んできて」


不安な気持ちを押し殺して何とか言葉を出す。


「はい。俺の後続はクロードに任せてあります。きっちり教育しておきましたので、シリル様の負担にはさせません。クロード」

「はーい。シリル様これからよろしくっす」


セドリックに呼ばれ部屋に入ってきたのは、セドリックと同じ年かくらいの真っ赤な髪の子。公爵家の従者にしては、めずらしい砕けた話し方に呆気にとられる。


「よ、よろしく」

「クロード!教えた通りの丁寧な挨拶をしろ」

「えー俺らしかいないからいいじゃないっすか」

「良くない。シリル様にお仕えする以上、きちんと誠意をもって接しろ」

「僕は気にしてないから大丈夫だよセドリック」

「ほらーシリル様もいいって」

「シリル様はお優しいから、仕方なくお前の無礼を許してるんだ」

「えーそうなんですか?シリル様」

「ふふっ」


珍しく砕けた口調のセドリックと、クロードとのやり取りがおかしくてつい笑ってしまう。


「あっ、ごめんなさい。二人のやり取りがおかしくてつい」

「シリル様……」

「ん?どうしたのセドリック」

「……久しぶりに笑顔が見れたなと」

「そうかな?」

「はい……ずっと……張り詰めていたご様子でしたから」

「あー……色々あったからね」


処刑台から十年前に戻ったり、殿下に婚約破棄をお願いしたり。気を張り詰める場面が多かった。それにこんなにも楽しいと思えたのはいつぶりだろう。

ああそうだ、両親が亡くなる前までだ……。


「やはりシリル様には笑顔が似合います」

「セドリック……」

「おかげで覚悟が決まりました」

「何の覚悟?」

「まだヒミツです。楽しみにしていてください」


セドリックはイタズラをする子供のように笑っている。どうしてだろう僕は胸騒ぎがして仕方がない。


「大丈夫なんだよね……?」

「ええ」

「心配しなくても大丈夫っすよシリル様」

「お前の口調が大丈夫じゃない。直せ今すぐに」

「無理っすよ〜」

「ぼ、僕は気にしてないからそのままでいいよ。でも……」

「「でも?」」


重なった二人の声。息ぴったりの二人が少し羨ましい。僕は友達がいなかったから。


「明日は殿下の訪問日だから、殿下の前ではちゃんとした口調で話して。機嫌を損ねてしまったら何されるか分からないから」

「了解っす」

「訪問?俺は存じてませんが」

「ごめんね、急に決まった事だから伝えそびれてた」

「向こうへ行くのは明後日に……」

「ダメですよセドリックさん。もう決まったことなんですから、必ず明日出発しないといけません」


急にクロードの口調が砕けたものから硬いものに変わり驚く。


「……だが」

「急に決められたことをなんとか予定を合わせたんですよ?」

「……分かった。クロード」

「はい」

「シリル様を必ずお守りしろ」

「仰せのままに」


どうしてクロードはセドリックに対して、従者のような口調で話しているんだろう。……気になるけど、踏み込んではいけない気がする。


「シリル様」

「な、なにセドリック」

「嫌なことをされたら我慢せず、すぐにクロードを頼ってください。あと無理は禁物です。いくら体調が戻ったとは言え、また倒れてしまう可能性もあります。クロードはこれでも腕が立つ方なので遠慮なく盾にしてください」

「分かった、分かったってば」


セドリックの勢いに押され後ずさる。心配してくれるのは有難いけど、流石に過保護すぎる。

戻る前の年齢と合わせたらセドリックよりも長く生きている。剣の腕はないけど、自分の身を守るだけの知識はある。

そもそも殿下が簡単に危害を加えてくることはないと思う。一応まだ婚約者の立場だし。


「最後にこれだけは約束してください」

「約束?」


セドリックは僕の手を握りながら告げる。


「無理して戦おうとしないでください。俺が必ずシリル様を守ります。そのためにある命です」

「……そんなに心配しなくても大丈夫だよ」

「シリル様……」

「セドリックはセドリックのために生きて、幸せにならないとダメだよ」

「俺の幸せは……!」

「はーいそこまで。俺がいること忘れないでくれます?」


クロードが僕とセドリックの間に割って入ってくる。


「クロード」

「そろそろシリル様の講義の時間では?」

「……」

「あっ、本当だ。ごめんセドリック僕もう行くね。明日ちゃんと見送るからまたね」

「……はい」


セドリックに軽く手を振って部屋を出ると、通りすがりのメイドに話しかけられる。


「シリル様」

「な、なに?」

「お顔がとても赤いですよ」

「へっ!?」

「もしかしてどこか悪い所が……お医者様を呼んでまいります!」

「だ、大丈夫!大丈夫だから!」


本気で心配するメイドをなんとか宥め、今度こそ講義へと向かう。赤くなった顔を冷ましながら。


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