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部屋でユリウス様とアレク様の帰りを待っていると、突然ドアを叩かれ大きな音が部屋に響く。
「シリル様!今すぐここから出てください!危険です!」
何があったんだろうと思い、立ち上がろうとする僕をユリウス様が手で制止する。
「……妙な感じがします。私が対応するのでシリル様は動かないでください」
頷いて返事をすると、ユリウス様はドアに近づき声に応える。
「何があったのですか?」
「とにかく急いでください!ノエル様が危険なのです!」
「っ!」
外の言葉におぼつかない足取りでドアに近づく。
「罠かもしれません」
『しかし……』
「心配なのは分かります。私もノエル様とクロードさんのことは心配です。ですが外の者が何者か分からないのに、無闇に出てはなりません」
ユリウス様が言っていることは分かる。分かるけど……どうであれ二人の安否が知りたい。
それにアレク様のことも気になる。
アレク様達が来てから数時間経つのに、僕を訪ねに来た人は今まで誰もいなかった。扉越しではあるけど、こんなにも人の気配を感じないのはおかしい。
ペンを手に取りユリウス様に伝える。
『今が異常事態であることは分かっています。ですがこのまま部屋に閉じこもっているだけでは、取り返しのつかないことが起きる気がするんです』
「シリル様……」
『何者かの罠だとしても、今は従って状況を把握しましょう』
「……」
『大丈夫です。クロードに鍛えてもらったので、少しは役立てますよ』
「えっ……?シリル様もしや」
「早く出てきてください!」
ユリウス様の言葉を遮るように、再びドアを激しく叩かれる。
『話は後です。今は向こうの指示に従いましょう』
「かしこまりました」
『行きますよ』
ユリウス様と一緒に部屋を出ると、虚ろな目をした騎士が立っていた。
騎士は僕を目で捉えると、ユリウス様には一切目もくれず歩き出す。
奪われていた記憶が戻りつつあるせいで、頭が割れるほど痛い。
なるほど、とうとう強行策で来たんだね。奪われていた記憶が戻って来てるということは、アレク様に危害を加えた証拠。
僕との契約を破ってまでセドリック様……いや、セドリックが動いているなら……慎重に動かないと。
騎士が進む方向に大人しく着いて行った先には、大勢の騎士を背後に連れたセドリックが立っていた。
「お待ちしておりましたシリル様」
「一体何が……っ!何を!」
「アレク皇太子殿下の側近である貴方は拘束させて頂きます」
ユリウス様は抵抗していたが、あっという間に拘束されどこかへ連れていかれてしまった。
「お待たせしましたシリル様。では、参りましょうか」
嫌な笑みを浮かべたセドリックは僕に手を差し出してくる。その手に気づいていないふりをして、持ってきていた紙に言葉を綴る。
『ノエル君とクロードは無事なんですか?』
「……心配ですよね。早く参りましょう」
そう言ってセドリックは差し出していた手を戻し踵を返す。
まだ声が奪われたままでよかった。声が出る状態ならきっと、僕の敵意が声でバレてしまっていただろう。
何も知らないフリをしながら、黙ってセドリックについて行くと───血まみれのノエル君を抱えたアレク様がいた。
心配ですぐに駆け寄りたかったが、騎士が僕を囲むせいで叶わない。
アレク様とセドリックのやり取りを聞いていると、セドリック様が僕の名を呼んだ。
「なにも反論されないと言うことは、肯定と受け取れますね───ねぇ、シリル様」
それが合図だったのか、たくさんいた目の前の騎士たちは一斉に離れていく。
「っ!」
僕を捉えたアレク様はどこか怯えたような、怖がっているような表情を浮かべている。
なにか言葉をかけたいが、セドリックが近くにいるので下手に動けない。
ごめんなさい、今はノエル君とクロードの安否を優先させてください。
セドリックは何も反応しない僕がショックのあまり動けないと思ったのだろう。よく回る口で語りかけてくる。
「私の言った通りでしょう?アレク皇太子殿下はシリル様に大切なものを奪う酷い方だと。ああ、騙されるなんて可哀想なシリル様。でももう心配ありません。私があの悪魔を倒してみせますから」
今のセドリックはきっと勝利を噛み締めているんだろう。
戻ってきたのがアレク様との記憶で本当に良かった。
今はまだこの悪魔に勝利を味わわせておこう。そしてノエル君とクロードの安全を確保できたら───真っ先に悪魔の首を取ろう。




