43 sideアレク
力が上手く入らない足で、血まみれの姿で倒れるノエルに近づく。
「ノエ、ル……?」
ゆっくり抱きかかえた身体は冷たく、腕はだらんと力なく下がっている。
一体誰がと犯人を考えるよりも、守れなかったことの絶望が強い。
「すまないノエル……」
「……っ…………ごめん……なさい……」
「ノエル!よかった……!まだ息があったんだな」
弱々しいが吹き返した息に希望が見え、ノエルに語り続ける。
「もう大丈夫だぞ。俺が助けるからノエルはもう無理するな」
「……なさい…………まもれな……」
「謝ることじゃない。ノエルに酷いことをしたやつは俺が必ず」
「……ち、がう……と…さま……たすけ……」
何が違うんだ?
いつもならすぐ聞き返すのに、何故か言葉が出てこない。まるで誰かに聞き逃すなと言われているように、身体がノエルの言葉に集中する。
「シ、リル……とう……さま……たす、け……」
「シリル父様……?」
ノエルの発した言葉が引っかかるが、詳しく聞いている時間はない。重症の二人をどうやってここから出すか考えなければ。
いや、考えている暇はない。同時に地下牢から脱出してユリウスとシリルのところに行かないと。
「アレク、様……俺はいいんで……ノエル、様を……」
ノエルを抱き抱えたままクロードに近づき、まっすぐ見つめて答える。
「そんなこと言うな。二人とも必ず助けるから、死なないことだけ考えてろ」
「しかし……」
「いなくなったらシリルが悲しむ」
「……」
「俺はもうシリルを悲しませたくないんだ。だから必ず二人とも助ける」
「欲張りな人……」
「ああ、俺はシリルのことになると欲張りになるんだ。悪いが支えるから自力で歩けるか?」
「……それぐらい……余裕ですよ」
「さすが、シリルの護衛だな」
ノエルをあまり動かさないよう気をつけながら、クロードの腕を俺の肩に回す。
掛け声をして同時に立ち上がり、ゆっくりと歩き出す。
「うっ……」
「すまないクロード。もう少しゆっくり歩く」
「だい、じょうぶ……です……早くノエル様の……手当を……」
「大丈夫じゃないだろ」
「だめ、です……早くしないと……ノエル様が……」
「大丈夫だ。こいつはそんなにヤワじゃない。だからお前は自分のことだけ考えてればいい」
「……はい」
喋るのも辛いのだろう。黙り込んだクロードと階段をのぼり続け、地下牢をようやく抜けた先。
「お疲れ様です」
不気味な笑顔を浮かべたセドリックが立っていた。背後に大勢の騎士を連れて。
「お前……」
「やはりあの話は本当だったのですね」
「いったいなんの……」
「アレク皇太子殿下が、シリル様の身内を殺そうとしてるという話です」
妄言にも程がある。とうとう頭がイカれたか。
反論したいが、今はこいつの相手をしている暇はない。一刻も早くノエルとクロードに治療を。クロードはもう立っているのもやっとだ。
「悪いが今はお前に付き合っている暇はない」
「おや、二人をどこへ連れていくのですか?亡骸を葬りに行かれるのですか?」
怒る暇はない。こいつの妄言は聞き流さないと、相手にしては大切なものを取りこぼしてしまう。
「なにも反論されないと言うことは、肯定と受け取れますね───ねぇ、シリル様」
「っ!」
足を止めて振り返ると、騎士に囲まれたシリルが青ざめた顔で立ちすくんでいた。
俺がやったと思われた?そんなことない。シリルは俺を信じるって言ってた。
でも怖い。俺は本当にシリルの信用を得られているのか……自信がない。
ならば言葉でしっかり否定しなければ。
「……っ……?」
声が出ない。なにかに口を塞がれてしまったような、違和感が、言葉を奪っていく。
違うのに、傷つけてないのに……だがそれを証言してくれる人も言葉も、今の俺にはない。
「では、怪我人は私が責任をもってあずかるので、騎士達はその罪人を捕らえてください」
「はい……」
虚ろな目をした騎士たちに捕われる。
普段なら抵抗するが、重症のノエルとクロードを優先し大人しくした。
声が出ない俺達を置いて、奴はペラペラと喋り出す。
「私の言った通りでしょう?アレク皇太子殿下はシリル様に大切なものを奪う酷い方だと。ああ、騙されるなんて可哀想なシリル様。でももう心配ありません。私があの悪魔を倒してみせますから」
胸焼けするほどの甘ったるい声で語りかける奴に吐き気がする。
分かっていたが俺は嵌められたんだな。声が出ないのも、騎士たちが虚ろなのも奴のせいだろう。
なるほど、お前の正体がわかったよセドリック。
「悪魔め……」
ようやく出た声は掠れ、誰にも届くことなく消えていった。




