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二週目は誰も失いたくないので、婚約破棄を目指します。  作者: もち


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37

 翌日、ノエル君に手を引かれアレク様の元へと向かう。


「あと少しで着くからね。お兄ちゃん?」


 繋いでいた手を引いて足を止める。今日のために用意したスケッチブックに、ペンを走らせ書いた文字をノエル君に見せる。


『服、変じゃない?髪も寝癖とかない?』

「変じゃないし、髪もちゃんと整えられているよ」

『本当?』

「ほんと。クロードはちゃんと仕事してるよ」

『でも歩いている間に乱れてたりしてない?』

「してない。いいからほら行くよ。」


 腕を掴まれぐいっと引かれる。身だしなみが変じゃないか気になって仕方ないけど、約束に遅れてしまってはいけないので大人しくノエル君に従う。

 庭園の奥の奥。人の手があまり行き届いていない狭い道を進んでいくと。


「ここだよ」

「シリル様!」


 開けた場所に出た途端、アレク様が大きな声で僕の名前を呼びながら近づいてきた。


「お待ちしておりました!来ていただけとても嬉しいです!ありがとうノエル!」


 目をキラキラさせながら矢継ぎ早に話すアレク様の勢いに驚く。けど、こんなに喜んでもらえるなんて思ってなかった。それに初めてお会いした時の雰囲気と違って……。


「ちょっと、嬉しいのは分かりますが少しは抑えてださい。お兄ちゃんがドン引きしてます」

「えっ、すっ、すまない、嬉しすぎてつい、興奮が抑えきれなくて……あっ、へ、変な意味じゃなくて」


 ノエル君の指摘にしどろもどろになるアレク様。その様子が少しおかしくて、つい笑いがこぼれてしまう。


「……っ、っ」

「!シ、シリル様、怖がらせてしまいましたか?震えるほど怖がらせるつもりはなかったんです……本当に嬉しすぎるあまり……」


 申し訳なさそうにしているアレク様。誤解しているのだとすぐに理解し、慌てて文字を綴る。


『怒ってないです。ころころと表情を変えるアレク様がおかしくてつい、笑っちゃいました。ごめんなさい』


 スケッチブックを見せた途端、アレク様の表情がまた笑顔に戻る。その顔に胸が少しだけ高鳴るような音がした。


「良かった……引かれなくて、嫌われなくて」

「?」

「はぁ……いつまでお兄ちゃんを立たせたままでいるんですか。早く案内してください」

「あっ……失礼、取り乱しすぎました。シリル様、お手を席まで案内します」


 差し出された手を取ると、繋いでいたノエル君の手が離れる。


「じゃっ、あとは二人でごゆっくりどうぞ」


 そう言ってきた道を引き返そうとするノエル君。慌てて引き留めようとすると。


「何言ってるんだ?ノエルの席も用意してるから戻ってこい」


 アレク様が投げかけた言葉に、思わず振り返ったノエル君は訳が分からないと言いたげな表情を浮かべる。


「な、なんで?」

「なんでって、ノエルも大事なゲストだからに決まってるだろ」

「いや、でも、お兄ちゃんとゆっくり話がしたいって……」

「?確かにシリル様と話がしたいと言ったが、ノエル抜きでなんて言ってないぞ」

「いや、でも」

「それにシリル様も俺といきなり二人きりになるより、ノエルがいてくれた方が安心するだろ。ほら、ノエルも行くぞ」


 そう言って空いている手を差し出す。アレク様にならい、僕もさっきまでノエル君と繋いでいた手を差し出す。

 ノエル君は二つの手を交互に見ると、泣きそうな顔をしながら僕とアレク様の手を取る。


「……仕方ないですねぇ。アレク様が心細いって言うならいてあげますよ!」

「こ、心細いとは言ってないぞ!」

「そうでしたっけ?」

「……言ってない、はず」

「はいはい、どっちでもいいんでさっさと座りましょう」


 僕とアレク様の手を力強く引っ張りながら、ノエル君は用意されていたお茶会の席に連れて行ってくれる。どことなく嬉しそうなノエル君。その姿に少しホッとする。

 最近のノエル君は気が張っている様子だったから、楽しそうにしてくれて良かった。

 それにしても……こうやって三人で手を繋いでいると、まるで親子になった気分に……って何言ってるんだか。

 でも、もしこんな未来が来たら……。


「シリル様?」

「お兄ちゃん?」


 二人が振り返る。太陽に照らされアレク様の濃い金色の髪と、ノエル君の柔らかな金色の髪が輝いて眩しい。

 ああ、どうして……どうして……二人を見てるとこんなにも胸が苦しいんだろう。


「お兄ちゃん……?」


 心配そうに僕を見つめるノエル君。安心させるために笑って、スケッチブックにペンを走らせる。


『ごめんね。お腹が空きすぎて足が止まっちゃった』

「ほんとう?」


 首を縦に振って答える。


「……分かった」


 納得していない様子だったけど、賢い子だから察してくれたんだろう。


「お腹が空いていらっしゃるならちょうど良かった。甘いものだけでなく、軽食も用意しておいたんです」


 席に着くと、どこからともなく現れた使用人の方たちがテーブルをセッティングしていく。

 並べられていく料理の中には、僕の好物のたまごサンドとアップルパイがあった。他の軽食やスイーツと比べて、その二つだけ明らかに量が多いように見える。


「ノエルからシリル様の好物を聞きました。たまごサンド、お好きですよね?あとアップルパイ。ノエルは苺タルトだろ」


 そう言いながらアレク様は僕のお皿にたまごサンドを置く。

 婚約者候補とはいえ、皇族の方に食事を取り分けてもらうなんて恐れ多い。慌てて役割を変わるために腰を浮かせると。


「俺がしたくてしている。シリル様はゆっくり座っていてくれ」


 そう言われても立場がある。甘えるわけにはいかない。伝えるためにスケッチブックを手に取ると。


「このお茶会は俺たちだけの会だから、立場は気にしなくていい。そもそもやりたくなかったら控えている者に任せる」

「この人の言うとおりです。お皿に装うのは任せて、ぼくたちはゆっくりしましょう」

「今日は堅苦しいのは無しで楽しむのが目的だから、シリル様は俺にもてなされて欲しい」

「じゃあ、ぼくにもお兄ちゃんのお皿によそったものと同じものください」

「ノエルは少しぐらい動いてもいいんだぞ」

「イヤです」

「お前っ……!」


 まるで友人のように軽口を交わす二人を眺めながら、大人しく椅子に座り直す。持っていたスケッチブックを指でなぞる。ここに何も書かなくても伝わった。

 声が出なくなって書くことには慣れた。文字は声のように思っていたことがちゃんと伝わらないことが多い。なのに、アレク様にはなにも書かなくても僕の思いがちゃんと伝わった。嬉しい……。

 手元に置く予定だったスケッチブックを背中と椅子の間に隠す。アレク様とノエル君の会話に耳を傾ける。この二人なら紙とペンがなくてもきっと、伝わるだろうから。


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