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「シリル様、今日の予定が終わったら私と一緒に過ごしませんか?」
「シリル様のために昨日から仕込んでおいたんです。アップルパイ」
「シリル様、お庭に行かれるなら私もご一緒してもよろしいですか?」
「シリル様、よろしければ明日は私に一日をくれませんか?あなたの婚約者候補としての私をもっと知ってほしいのです」
「シリル様、シリル様、シリル様」
近頃セドリック様と過ごすことが多い気がする。一人でいると見計らったかのように必ず声をかけられるし、一日一緒にいることも多い。
アレク皇子とセドリック様のどちらが次期皇帝に相応しいのか。それを見極めるためにアレク皇子のことを知りたいのに、王の間で挨拶して以来顔を合わせていない。
今日こそは、と思っていたのにまたセドリック様と過ごすことになってしまった。
「……」
「お兄ちゃん?」
夜、部屋でぼんやりしているとノエル君に声をかけられる。手元にあったペンを取り、紙に文字を起こしていく。
『どうしたの?もう寝る時間だよ』
「お兄ちゃんが疲れたお顔してるから……」
小さな手が頬に触れる。
ノエル君には心配させないよう、明るくしてたつもりだったんだけど……見抜かれちゃったか。
セドリック様といると何故か少し緊張して、落ち着かないからその疲れが出たのかも。変だなぁ……セドリック様のことは昔からよく知っているから、緊張なんてしないはずなのに。
『大丈夫、疲れてないよ』
「ぼくには嘘つかなくていいんだよ。お兄ちゃん」
『嘘じゃ……』
嘘じゃない、と書き切る前に手を止められる。
「お兄ちゃん……」
今にも泣きそうな瞳に見つめられる。
……心配、かけたらダメだよね。ノエル君になら本当のこと言ってもいいよね。
『内緒にしてね』
「うん」
『セドリック様と一緒にいると、時々……苦しく感じる時があるんだ』
「うん……」
『どうしてなんだろうね。セドリック様とは幼い頃から一緒にいたのに』
こんなことノエル君に言っても仕方ないのに。どうしてかこの子を前にすると、素直な気持ちを言いたくなってしまう。
『本当はアレク皇子と……ってなに言ってるんだろう』
「本当はどうしたいの?お兄ちゃん」
まっすぐな目に見つめられると、思わず隠した本音がこぼれてしまう。
『一緒に過ごしてみたい……かな』
「なら、ぼくがいいものあげる。はい」
そう言ったノエル君から手渡されたのは、皇室の紋章で封された一通の手紙。
封を開け中を見ると、アレク様からの手紙が入っていた。
”シリル様へ
王の間で挨拶して以来、顔を合わすことがありませんがお元気でしょうか?俺はあなたにお会いすることができず寂しいです。
ノエルからお元気にされていると聞いていますが、やはり顔を見ないと気になって仕方ないです。
もっとシリル様の顔が見たい、知りたい、一緒に過ごしたいと願って止みません。
なので、以前お約束したお茶会をしましょう。本当は直接お誘いしたかったのですが、なかなかタイミングが合わないので手紙にて失礼します。
明日、庭園でお待ちしております。時間はシリル様の都合が良い時に来てください。詳しい場所はノエルに伝えてありますので、一緒にお越しください。
アレク“
書かれた文字を指でなぞる。どうしてこんなにも嬉しい気持ちになるんだろう。
アレク皇子って不思議な人だ……もっとよく知りたいな。好きなものとか、嫌いなもの、休日は何をして過ごすのかとか……どんな人が好きなのか……とか。
「大丈夫?お兄ちゃん顔赤いよ」
「っ!」
ノエル君に指摘され慌てて言葉を綴る。
『大丈夫!明日、お茶会への案内よろしくね』
「うん、まかせて。誰にもみつからない秘密の場所だから、二人でゆっくりできるよ」
『秘密の場所?』
「ぼくとアレク様で見つけたんだよ」
『そうなんだ、ノエル君はアレク皇子と仲がいいんだね』
僕が綴った言葉を読んだ途端、ノエル君の表情が微妙なものになる。
最近よく一緒にいるから仲がいいんだと思ってたんだけど、そうじゃないのかな?
「仲がいいと言うよりは……あの人がその、頼りないからで……ぼくがちゃんとさせないとずっとウジウジしそうだからで」
『ごめん、よく聞こえなかったんだけど』
「なんでもない。そんなことより早く寝ないと」
『そうだね』
ノエル君に誘われ一緒にベッドに入る。
入ってすぐにノエル君の瞼がうつらうつらとし始めたので、ぽんぽんと肩を叩いてあげる。
「とお……さま……」
ノエル君は眠る時、時々こうやって“父様”と呟くことがある。
まだこんなに小さいなら親が恋しいよね……。
気休めかもしれないけど。
「ふふっ……」
頭を撫でてあげると嬉しそうに口元を緩める。愛らしい姿に僕の気持ちも和らぐ。
ノエル君を見てると何故か守りたくなって、幸せを願わずにはいられなくなる。なんでだろう。
「しり……る……」
僕の名前?夢に僕が出てるのかな。
「……おねがい……いかないで……」
ノエル君の頬に涙が一筋こぼれ落ちる。
「とお……さま……いかないで……しりる……とおさま……」
いかないよ。そう言葉をかけたいのに、声は相変わらず出てくれない。小さな子の慰めることもできないなんて、なんて悔しいんだろう……。
父親の代わりにはならないかもしれないけど。
「……へへっ」
抱きしめて背中を小刻みに叩いてあげると、苦しそうだった寝息が穏やかなものに変わった。
落ち着いたみたいでよかった……。ホッとした瞬間、僕も眠気に襲われたので静かに目を閉じ夢の中へ向かった。




