34 sideアレク
「なぁノエル」
「なんですか?」
「……どうすればシリルに好きになってもらえるんだ?」
「はぁ?」
俺の質問にノエルは心底呆れた表情をする。
ううっ……俺だって変な質問してる自覚はある。だけど仕方ないだろ。忘れる前のシリルにどうやって好きになってもらえたのか全くわからないんだから。
そもそもシリルには割とかっこ悪い姿ばかり見せてたし、贈り物だって成功した覚えがない。どちらかといえばシリルの方が強くてかっこいい。
だからどうすればまた好きになってもらえるのか、本気で分からない。
「冗談ですよね?」
「本気だ」
「はぁ……本当にあなたは情けない人ですね」
「し、仕方ないだろ!何がきっかけで好きになって貰えたのか分からないんだから!」
好きになって貰えたことだって奇跡みたいなことだったんだ。
最初はシリルは俺と会うだけで吐いて倒れるほど嫌がってた。だけど最近は「好き」と言ってもらい、花のような笑顔を何度も向けてくれた。触れることすら嫌がられていたのに、今では俺から握ると照れて……あの時のシリル本当に可愛かったな。
……自分で言っててあれだが、よく好きになってもらえたな俺。
「ちょっと、人に質問しておいて一人の世界に浸らないで下さい」
「ひ、浸ってなんか」
「ニヤニヤしたり落ち込んだりしてたくせに」
「す、すまない」
「……シリルお兄ちゃんはこんな情けない人のどこがいいんだか」
ぼそっと言ったつもりなんだろうけど、はっきり聞き取れたぞ。
「情けなくて悪かったな」
「ああ、聞こえてましたか」
「隠す気ないだろ」
「事実なんだからいいじゃないですか」
「俺に対して当たりキツくないか?シリルにはもっと可愛らしい感じだったろ」
シリルとノエルの戯れを近くで見たことが何度もある。ノエルの可愛らしい見た目通りの言動や仕草を見せていた。だが今は可愛らしい見た目からは想像できない、大人びた言動に冷たい眼差し。
違和感を感じるかと思いきや、なぜか今の方がしっくりくるから不思議だ。
「なにジロジロ見てるんですか」
「いや……そっちが本当のノエルなのかと思って」
「……色々あったんでやさぐれもしますよ」
「色々?」
「それに可愛い方がお兄ちゃんに好かれやすいんですよ。僕はシリルお兄ちゃんだけに好かれたいので」
「なるほど、シリルの好みは可愛いか」
「ちょっ、変なとこだけ聞き取らないでください!それは僕限定の話であってあなたは別ですから!」
「そ、そうなのか」
どうやってノエルのように可愛くなろうか、考えようとする前に止められてしまった。俺は可愛くなったらダメなのか……。
「はぁ……ほんと、あなたってお兄ちゃんが絡むと途端にバカになりますよね」
「バカは酷くないか……?」
「事実だからいいでしょ。情けなくてバカなあなた一人ではお兄ちゃんにまた好かれるなんて遠い話ですね」
「ううっ、言われなくても分かってる……」
シリルは俺にはもったいない程、優秀で可愛らしい婚約者。もし婚約者でなければ、国の次期皇帝に最も相応しい人だ。俺よりもよっぽど。
俺を好きになってくれたことは奇跡で、一生分の幸運だと思っていた。だからこそ、また好きになってもらえる自信がない。
「もう、仕方ないですね」
「ノエル……?」
俺の前に回り込んだノエルは、腰に手を当て仁王立ちになると自信満々に告げる。
「僕がお兄ちゃんとアレク皇子を結ぶ手助けをしてあげます」
「ほ、本当か!?」
「ええ、不本意ですが手伝ってあげます」
「ありがとうノエル!」
「うわっ!?」
ノエルを高く抱き上げてお礼を言う。
「ははは、ノエルが味方になってくれたらから百人力だ!」
「下ろしてください!」
「ありがとう!あろがとうノエル!」
「……ほんと、ぼくのことはすぐ信じるんだから。……ぼくだってお兄ちゃんの隣にいたいのに……ばか」
「?なにか言ったかノエル」
「バカだなって言っただけです」
「ま、またバカって……これでも皇国の皇子なんだが」
「知ってますよ。嫌ってほどね」
そう言って俺を見下ろすノエルの目が、なぜか少し寂しそうに見えた。




