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事故からどのくらい経ったのか。意識を取り戻してから、ずっとベッドの上で傷が治るのを待つ日々。
身体はまだ動かない。声もうまく出ないせいで、一番知りたいことはまだ知れてない。
僕が聞かなくても誰か教えてくれそうなのに、誰も教えてくれない。その違和感が僕の悪い予想を膨らませる。
嫌だなぁ……寝てばかりだと嫌な想像ばかりが頭を占めて……。
「シリル様」
名前を呼ばれ目を開けると、暗い部屋の中に佇むセドリック様がいた。僕の顔を覗き込みながら。
「……」
こんな夜中にどうして部屋に?それにどうやって入ったの?安静にしないとダメだから、この部屋には限られた使用人とクロードしか入れないはずでは……?
「おや、不思議そうな顔をされていますね」
「……どうしてここに?」
「お見舞いに」
「こんな夜中にですか?」
「……夜中でないと会わせてもらえないので」
「面会は限られた人のみ、らしいですね」
「……知ってたんですね」
知ってて現れたってことは、なにか良くない手を使って侵入してきた可能性が高い。なにが目的?
「悲しいですね。そんな目をあなたに向けられるなんて」
「……」
「昔は私のこと一番頼りにして、私が死んだ時はあんなに泣いてくれたのに」
「……死、んだ?」
まだ起きてないことを告げられ驚きを隠せない。
どうしてそのことを知って……。セドリック様が亡くなったのは一度目で経験したことで。一度目のことは誰にも言ってない。なのにどうして……。
「はい、以前の世界で私が死んだ時のことです。覚えておられるでしょう?」
僕が驚いていることなど気にする様子もなく、セドリック様は淡々と話を続ける。
「その反応、驚いて何も言えないんですか?ふふっ、でも良かった。ちゃんと全部覚えてくれていて」
「……」
「最近のシリル様は私が死んだことなど忘れたように、あれにばかり構っていたので気がかりだったんです」
「なに、いって……」
理解できていない僕を無視し、セドリック様はペラペラと話し続ける。
「今回だって最初は私のことを信用して、一番心を寄せてくれたのに。あなたはまた私から離れていくんですね」
目が合ったその瞬間、言いようのない恐怖に駆られる。さっきまで笑っていたセドリック様の表情は抜け落ち、何の感情も読み取れない。
「もう、我慢の限界です」
「……」
「シリル様がずっと知りたがっていること教えますね。アレク皇子はシリル様を庇ったせいで今も意識不明の危篤状態」
「っ!」
一番聞きたくなかった事実。
ああ、悪い想像が当たってしまった。誰も教えてくれなかったのはそう言うことだったんだ……。
居ても立っても居られなくなり、ベッドから転げ落ちるように這い出る。
「行っても無駄ですよ。あれとの面会はシリル様以上に厳しいので」
「そんなの、関係ない……!」
「そもそもシリル様行ったところで何ができるんですか?ただの人間のあなたが行ったところで回復するわけでもない」
「そうかもしれないけどっ……!」
何もできないのは分かってる。分かっているけど今は側にいたい。ここでじっとなんてできない。
「……そんなに好きですか?」
冷たい目が問いかける。
その問いの答えはきっと、この方に言っていけない。
本能が煩いくらい警告してくるけど、告げずにはいられない。真っ直ぐ、恐怖を堪えながら言い放つ。
「好きですよ。心からアレク様のことを愛しています」
「……あーあ、やはりその結末になるんですねぇ」
くしゃりと、苛立たしげに髪を掴むセドリック様。少しの間を空けてから、貼り付けたような笑みで僕に話しかけてくる。
「分かりました。それほどの想いを持っているのでしたら、取引しませんか?」
「……取引?」
「はい。危篤状態のアレク皇子を助けてあげる代わりに、シリル様がアレク皇子を愛する感情と記憶を下さい」
「……どういう、意味……そもそもどうやって助けるんですか?」
意味がわからない。取引でアレク様を助けるって。皇国中の医者が手を尽くしても危篤状態の人を助けるなんて……そんな神様みたいな所業……。
「私ならできますよ。いや、私にしかできないと言った方が正しいですね」
「……」
「だって、私」
にやりとセドリック様が笑うと、消えていたランプに明かりが灯される。
「悪魔ですから」




