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二週目は誰も失いたくないので、婚約破棄を目指します。  作者: もち


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 ノエル君がきて一ヶ月が経った。

 城での生活は早々に慣れ、なんなら可愛さを使って城の人々を次々と魅了した。陛下たちにもすぐに気に入られ、今では僕と一緒によくお茶会に招かれている。


「ノエル君は本当に可愛いわね」

「えへへ、ありがとうございます」

「皇后の言うとおり本当に可愛い。孫がいたらこんな感じなんだろうなぁ」

「そうですわね陛下。本当、シリルによく似ているから孫ができたようですね」

「ぼく、お兄ちゃんそっくり?」


 ノエル君が小首を傾げて尋ねる。両陛下はいつもの威厳はどこへやら、めちゃくちゃデレデレしている。


「ああ、目元なんか瓜二つだ。ノエル君もこのままシリルと一緒に城に住めばいい」

「あら、それはいい案ですわ陛下。ノエル君もそうしたいでしょ?」

「んーシリルお兄ちゃんと一緒にいれるなら、ぼくは何でもいいよ」

「あらあら、ノエル君はシリルのことが本当に好きなのね」

「うん、大好き!」

「あらー」

「そうかそうか大好きか」


 楽しく談笑する三人を眺めていると、近くで控えていたクロードが話しかけてくる。


「シリル様、そろそろ」

「もうそんな時間?」

「はい、アレク様とデートの時間です」

「デ!デートって……そんなんじゃないから」


 デートなんて大した話じゃない。ただ二人で近くの森に散策に行くだけ。北部での事件があったから、城から近い範囲とはいえ護衛付きだけど。


「おお、シリルはこれからアレクとデートか。よし、ノエル君は私たちが見ておくから、ゆっくりしてくるといい」

「えっ、いやそれはできません。ノエル君はクロードに見てもらうつもりなので、二人は仕事に戻ってください」

「「「えー」」」


 えーって……国で一番多忙な人たちなのに、そんな子供みたいな言い方……。ん?今、三人分の声が重なったように聞こえたけど。


「ぼくも一緒に行く!」

「ノ、ノエル君?」


 ぎゅっと僕の身体に抱きついてくるノエル君。まずい、またいつものが始まってしまった。でも流石に今日はアレク様に、ノエル君を連れて行かないと約束したから断らないと。


「ダメ。この前一緒に行った時約束したでしょ。次はクロードと一緒にお留守番するって」

「……っ、してない!」

「したよ。だから今日は一緒に行けないの」

「〜〜〜っ」


 大きな瞳に涙を浮かべるノエル君。たった数時間、離れるだけだから大人しく待っていて欲しいんだけど。


「やぁだ……」

「やだじゃない。約束はちゃんと守って」

「いっしょがいい……」

「ごめんね、流石にまた連れては行けない。アレク様と約束したから」

「……」

「お土産買ってくるから、いい子で待ってて」

「……」

「ノエル君」

「シリル様、そろそろ向かわないと」

「分かった。クロードノエル君をお願いね」

「かしこまりました」


 俯いたままのノエル君の頭を撫でる。


「いい子で待っててね」


 小さな手がぎゅっと僕の手を握る。不安と寂しさに濡れた瞳を向けながら。


「いかないで……」

「……ごめんね、今日は一緒に行けない」


 まっすぐ目を見つめて伝える。


「……分かった」


 ようやく出た言葉にほっと胸を撫で下ろす。良かった、納得してくれて。


「分かってくれて嬉しいよ」

「……お兄ちゃん、ぼくいい子で待ってるから……一つだけ約束して」

「約束?」

「絶対に、一人にならないで……お願い」


 切実な言い方に胸が締め付けられると同時に、どうしてそんなことを言うんだろうと疑問が湧いてくる。


「……分かった約束するよ」

「絶対だよ。絶対、絶対一人にならないで……!」

「うん、じゃあいい子で待っててね」

「うん……」


 優しく別れの挨拶をしたのに、ノエル君はまだ不安そうにしていた。一体何がそんなに不安なのか、聞く時間はなくアレク様との待ち合わせ場所まで急ぐ。

 それにしても、ノエル君の僕から離れたがらない癖、いい加減どうにかしないと。このままじゃ友達ができるのか危うい。

 いくら義理の兄弟とはいえ、ずっと一緒にいられるわけじゃない。僕もノエル君もいつかは結婚して、新しい家庭を築かないといけないから。

 分かっているのに、どうしてそれが寂しいと思ってしまうんだろう。


「はぁ……」

「どうした?ため息なんかついて」


 いつの間にか近くにいたアレク様に驚く。


「!アレク様……すみません、何でもありませんので気にしないでください」

「気にせずにはいられない顔をしているのにか?」

「……」

「ここで話せないなら、馬車の中で聞く。行くぞ」


 手を取られ、馬車の中へと連れられる。

 椅子に座りしばらくすると馬車が進み始める。流れる景色を眺めながら話すかどうか悩んでいると、アレク様が口を開く。


「話しにくいことなら無理して聞かない」

「……話しにくいわけでは」

「ならば、なぜ何も言ってくれない?俺はそんなに信用できないか?」

「そんなことありません!」

「っ!」


 つい大声を出してしまった。アレク様も驚いてこちらを見つめ返す。


「す、すみません……」

「いや、俺も嫌な言い方をした」

「……」

「……」


 気まずい沈黙が流れる。

 ああもう、こんなつもりじゃなかったのに。せっかく久しぶりに二人きりに慣れたのに、相談ぐらいすればいいのに……。

 伏せていた顔を上げると、アレク様は何を考えているのか分からない顔で外を眺めていた。

 ……今さらか。あれだけ渋っておいて、今さら悩んでいたことを話すなんて。

 もう話す気分になれないだろうと思い、黙っていると。


「っ!」


 突然馬車が大きく揺れた。


「大丈夫か!」

「は、はい」

「良かった……俺は外を見てくるからシリルはここで待っていろ」

「あっ……」


 馬車から出て行こうとするアレク様の服を思わず掴んで引き留める。

『絶対に一人にならないで』

 外に行こうとするアレク様を見た瞬間、ノエル君の言葉を思い出した。どうして今思い出したのかは分からないけど、引き留めないといけない気がしてならなかった。


「シリル……っ!」


 突然アレク様に抱きしめられた次の瞬間、馬車がぐらりと大きく揺れ身体が馬車の中で宙に浮いた。


「〜〜〜っ!」

「シリル!俺を絶対に離すなよ!」


 ぎゅっとアレク様を抱き返したのを最後に、僕の意識は途切れてしまった。

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