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二週目は誰も失いたくないので、婚約破棄を目指します。  作者: もち


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3

酷い雨の日だった。


『……いま……なんて…………』

『セドリックが亡くなりました。シリル様に会いに来る途中で事故にあわれたようです』

『うそだ……』


セドリックが死ぬはずない。僕の冤罪を晴らすために必ず会いに来るって約束してくれた。セドリックが約束を破ったことなんて一度もない。だから、だから―――。


『事故にあった馬車の近くにこれが……』


見せられたそれは、僕がセドリックの誕生日に送ったオーダーメイドスーツの一部であるジャケット。

大量の血と泥で汚れたそれを見た瞬間、力が抜け膝から崩れ落ちる。


『嘘だ……セドリックが……セドリックが……』

『遺体の損傷も激しく、到底お見せできるものではありません。見つかった遺品もそのジャケットだけで―――』


淡々と語られるセドリックの最期と今後の流れ。何一つ頭に入ってこない言葉を理解する気力はなかった。

雨の音だけが、やけに大きく響いた。




***




「あんな思いは二度としたくない……」


一度経験しているとは言え、忙しさに慣れず中々検証ができない日々が続いた。景色や歴史の内容から十年前である確認は取れたが、確証には至らなかった。

しかし先日ふと気づいた。今が十年前かどうか、簡単に確認できる方法を。


「今って何年?」


何人かにそう聞くだけで済む話。十年前にしか無いものや、証拠を探すのではなく僕がまず聞けばいいだけだった。あと帳簿の年の確認。

これだけで良かったのに、あまりの出来事に混乱して今更思いついてしまった。我ながら酷い。


「シリル様、今日はどうされたのですか。何度も皆に年の確認をするなんて」

「えっ、そ、そうかな?気のせいじゃないかな!」

「そうですか?」

「気のせいだよ!ほら、そろそろ殿下が来るから準備しないと」

「分かりました。でも、大丈夫ですか?」


心配そうにこちら見つめるセドリック。安心してもらうため、口角を上げて笑顔で答える。


「……大丈夫だよ」


いつまでも避けれないし、婚約破棄するにしても一度は殿下とちゃんと話さないと。


「俺の前で無理しないでください」

「無理してないよ」

「してるじゃないですか。シリル様は作り笑い下手なんですから、俺といる時は無理して笑わなくていいですよ」


セドリックの呆れたような、でも優しい笑みに張っていた気持ちが解けていく。

案外平気だと思ってたけど、本当は無理してたんだな僕。情けないな。戻る前はいくら罵倒されても、涙も怖い気持ちもなかったのに。セドリックがいるだけで、弱い僕が出てしまう。


「セドリックがいたらダメだなぁ……」

「えっ、なにか気にさわりましたか?違うんです、俺はただシリル様には無理して欲しくなくて」


狼狽えてるセドリックが少しだけおかしくて、つい笑みが零れる。


「大丈夫、分かってるから。ありがとう」

「なら良かったです。じゃあ旦那様に言って今日の相手は代わって……」

「ううん、予定通り僕が殿下の相手をするからいいよ」

「えっ……しかし」

「今度は大丈夫」


また心配そうにしているセドリック。その不安を少しでも取り除くために、まっすぐ目を見つめて答える。


「セドリックがいるから大丈夫。だからそんなに心配しないで」

「……分かりました。では一つだけ約束してください」

「なに?」

「絶対に無理はしないでください!」


両手を握られながら言われ、あまりの勢いに少し後ずさる。


「もし嫌な目にあったらすぐに俺を呼んでください!この命にかえてもシリル様を」

「やめて!」


棺にすら収められなかったセドリックの最期を思い出し、大きな声で強く否定する。

嫌だ。セドリックが僕を庇って死ぬなんて、そんなの嫌だ。僕を見捨てもいいから生きて欲しい。シワシワになるまで長く、セドリックには生きて欲しい。


「なぜ、ですか……」

「命にかえてなんて言わないで。俺に命はかけなくていいから生きて……お願い……」

「……」

「僕のことを考えてくれてるのは嬉しいよ。でも、命はかけないで、そんなことされても嬉しくない……」

「申し訳ありません……」

「うん……もう二度と言わないで」


返事はない。それだけセドリックの忠誠心が強いのだろう。そういう人だから僕のお願いもきっと意味はない。

もし僕に命の危機が迫ったら、きっとセドリックは躊躇うことなく僕を庇っていなくなる。


「えい」


セドリックの頬を僕の両手で挟む。


「シ、シリル様」

「返事は?」


それでも、セドリックに生きて欲しいから無理にでも約束させる。こんな口約束、意味はないってわかってるけど。


「……嫌です」

「セドリック」

「……」

「お願い、約束して」

「……じゃあ約束するんでシリル様も俺のお願い聞いてください」

「なに?」

「俺の前では素直になって下さい。楽しいことも辛いことも泣きたいことも、全部俺が受け止めるので」


あまりの真剣な眼差しに少しだけドキッとする。

セドリックってこんなにカッコよかった?


「……分かった約束する」

「では頑張ってきてください!今日は先日の件で俺は同席できませんが、終わったらいくらでも愚痴を聞きます」


ニコッと今度は爽やかな笑みを向けられ、コロコロ変わる表情につい笑顔が零れる。


「ふふっ、ありがとう。頑張ってくるから、終わったらセドリックが淹れる紅茶が飲みたい」

「かしこまりました。とびきり美味しい紅茶を淹れて待ってます」

「じゃあ、行ってくるね」

「はい、行ってらっしゃいませ」


セドリックに見送られ、殿下が待つ応接室へと向かう。

扉の前に立ち、深呼吸を一つ。


「―――大丈夫、まだ誰も失ってない」

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