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二週目は誰も失いたくないので、婚約破棄を目指します。  作者: もち


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2

「やっと一人になれた……」


使用人を撒いて庭園にあるベンチに座る。

十年前に戻ったと思った僕は、確信を得るために色々と調べようとした。

だがセドリックの代わりにやってきた使用人に朝の支度をさせられた。そして朝食、講義と忘れていた日常に襲われ、ようやく一息つくことができのは午後になってから。


「十年前ってこんなに忙しかったんだ……」


両親とセドリックが亡くなってから処刑されるまでのことはよく覚えていない。

学園に通ってたけど楽しくなかったし、領地経営もしてたけど叔父上にほぼ任せっきりだった。あと、覚えのない罪を晴らすために戦ってたな。


「あんまり生きてた気がしないなー……」

「何の話だ」

「っ!」


突然かけられた声に驚いて振り返ると、婚約者の皇太子殿下がいた。


『俺はずっとお前のことが嫌いでたまらなかった』

『お前さえいなければ俺は幸せになれるのに』

『ありがとう。死んでくれて』


殿下から散々吐き捨てられた言葉と、処刑前夜にかけられた笑顔を思い出して吐き気が止まらない。


「うぇっ……なんで……ここに……」


口を手で覆って吐いてしまうのを必死に堪える。早く挨拶をしないと。吐いたらダメだ。家のために……。

嫌だ……誰か助けて。無理だ……誰も助けてくれない……僕のことなんて誰も……。


「おい顔色がわ」

「シリル様」


後ろから声をかけられるのと同時に、伸びてきた手に引き寄せられ抱きしめられる。殿下が僕の視界に入らないように。


「……セド、リック?」


不思議だ。セドリックに抱きしめられた途端、恐怖がゆっくりと解けていくようだ。


「ええ、遅くなり申し訳ありません。お許しください殿下、シリル様は朝から体調が良くありません。今日はここでお帰りください」

「……答えられないほど悪いのか」

「はい」

「そうか……無理はするな。今日は帰った方がいいな」

「……そうして貰えると助かります。昨夜のパーティーでシリル様はご苦労されましたから。誰かさんのせいで」

「貴様、俺のせいだって言いたいのか?」

「とんでもありません。私は殿下のせいだなんて一言も言ってません」

「ほう……俺にはそう聞こえたのだが」


殿下のその一言を聞いた瞬間、身体が咄嗟に反応する。


「アレク皇太子殿下にご挨拶申し上げます。っ、従者の失言は主である僕の責任です……不愉快なお気持ちにさせてしまい申し訳、ありません……」

「シリル様!」


深々と頭を下げる。本当はこんなことしたくない。でも、今は嫌でも下げないといけない。セドリックを守るために。


「申し訳ありません」

「もういい……体調が悪いやつに頭を下げさせる趣味はない」

「寛大な心遣いに感謝します」


顔を上げる。さっきまであった恐怖と吐き気はもう無い。


「……今日は帰る」

「お気遣いありがとうございます。ではお見送りを……」

「いらない。ここには少し立ち寄っただけだ。大事にするな」

「かしこまりました」


また頭を深々と下げて見送る。

殿下が見えなくなったであろうタイミングで顔を上げ、セドリックに向き直る。


「緊張した……」

「申し訳ありません……」

「なんで謝るの?」

「俺のせいでシリル様を危険に晒してしまいました……申し訳ありません……」

「違うよ」


泣きそうな顔をしているセドリックの頬に触れる。


「セドリックが来てくれて僕は助けられたよ」

「それはどういう……」

「頑張ったけど結構怖かったんだよ。ほら、手も震えてるでしょ」


空いている片手を見せる。僕のまだ震えてる手を見つめるセドリック。

こんな僕が毅然とした態度でいれたのは、セドリックが抱きしめてくれたおかげ。

セドリックを安心させるために笑いかける。


「セドリックが来てくれなかったら、僕は今頃酷い有様だったよ」

「シリル様……」

「だからね、来てくれてありがとう。嬉しかったよ」

「……お役に立てたのなら良かったです」


ようやく顔を上げてくれたセドリックに安堵する。


「でも、殿下に楯突くのはもう止めてね。今日は許して貰えたから良かったけど、次はないからね」

「……」

「セドリック」

「…………善処します」

「善処するじゃなくて、もうしないって言って」

「無理です。俺はシリル様が嫌な目にあってるのを、黙って見過ごせません」

「無理じゃない」

「嫌です」

「嫌じゃない。とにかく、僕のために危ない橋は渡らないでよね」

「……」

「セドリック」

「主が嫌な目にあってるのに見過ごせる従者なんかいません……」


痛みに耐えるような顔でセドリックは答える。その気持ちは凄く嬉しいけど、僕のせいでセドリックが危険な目に会うのは嫌だよ。


「ありがとう。僕はその気持ちだけで十分だから、セドリックは自分の身を大事にして」

「……」

「冷えてきたから屋敷に戻ろう」


冷えてしまったセドリックの手を握り屋敷に向かう。


「俺に資格があれば……」

「何か言った?」

「いえ、なにも」


何か言われた気がしたんだけど気の所為か。

結局、殿下に気を取られて何も調べられなかったな。……もしここが本当に十年前の世界なら、僕は殿下と婚姻を結ぶことはできない。声を聞くだけで身体が強ばり、顔を見るだけで吐き気がする相手と良好な関係を築ける訳がない。

なら、どうにかして婚約破棄しないと。


―――あんな結末を二度も繰り返したくない。

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