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二週目は誰も失いたくないので、婚約破棄を目指します。  作者: もち


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 アレク様と別れた後、クロードと一緒に庭園に向かう。セドリック様と約束していたお茶会に行くために。

 陛下たちと約束した以上、アレク様とセドリック様のどちらが次期皇帝に相応しいか決めなければならない。僕がなってもいいとも言われたけど、僕は皇帝の器じゃない。それに先頭に立つよりも後ろでサポートをする方が性に合っている。


「はぁ……」

「乗り気じゃなさそうっすね」

「そういうわけじゃないよ」

「本当っすか?」

「本当だよ」


 嘘。本当は乗り気になれない。だけど公平を期すと決めた以上、会わなければならない。だけど、昨夜のことが気になって仕方ない。

 昨夜のセドリック様は怖かった……。そう思うのに、なぜ怖いと感じたのか言語化ができない。加害を受けたわけでも、脅されたわけでもない。むしろ好意を示された。

 ……そう言えば、あの時セドリック様が言っていた『今回こそ』の意味ってなんだろう。引っかかる言い回しだった。まるで僕と同じように……。


「シリル様」

「あっ、なに?クロード」

「到着しましたよ。俺はここから先の立ち入りを禁じられましたので、お茶会の会場には一人でお進みください」

「……分かった。案内ありがとう」

「シリル様」


 クロードにお礼を言ってから先に進もうとすると、腕を掴まれ引き止められる。


「なんかあったらすぐに呼んでください。俺はここで待機してるんで」

「うん、ありがとう」

「……一人で無理はしたらダメっすよ?」

「心配しなくても大丈夫だよ。ただのお茶会なんだから」

「……だと、いいっすけど」


 クロードは僕の腕を離すと、懐から短剣を取り出した。


「それ……」

「念の為に。使われないのが一番っすけど、声が出せない状況とか、俺が間に合わそうなら遠慮なく使ってください」

「どうして……?」


 クロードはセドリック様の紹介で僕の専属になった。二人がどんな仲なのかは知らないけど、浅い仲ではないはず。

 もし、二人が主従の関係だったら……この行為は許されないんじゃ……。


「……嫌な、胸騒ぎがするんっすよ」

「クロード……」

「俺の勘違いで終わったらいいんすけどね」


 少し悲しそうに笑うクロードから、短剣を受け取り懐にしまう。


「……分かった。ありがとう」

「お気をつけて」


 深々と頭を下げるクロードに送り出され案内された先へと進む。茂みのアーチを潜り奥へ奥へと。

 いくつものアーチを潜り抜けると、ようやくお茶会の用意がされたガーデンチェアとテーブルが見えてきた。

 そしてその脇には、セドリック様が待ち遠しそうに立っていた。


「お待たせしましたセドリック様……」

「シリル様」


 僕が声をかけると、セドリック様は嬉しそうに微笑む。そして僕の手を取って口づけを落とし、告げる。


「心よりお待ちしておりました。さぁ、こちらへどうぞ」


 セドリック様はそう言うと、僕の手を引き席へと案内する。

 椅子を引いて着席するよう促されたので従う。そして用意されていたお茶を目の前のカップに注ぐ。公爵家にいた時と同じ手つきで。


「ありがとうございます……」

「いえ、当然のことです」


 完璧なエスコートを終えると、向かいの席に座りお茶を淹れたセドリック様。

 人の気配がしないと思ったら、やっぱり誰も出てこないんだ。お茶を注ぐのも自分でするなんて、今は皇子の身なのになぜ?


「……侍従の方はいないんですね」

「ええ、シリル様とゆっくりできるせっかくの機会なので。それにお茶は私が一番上手く淹れられますから」

「……よく護衛の方や侍従の方から許可が出ましたね」

「丁寧にお願いしたら快く聞いていただけました」

「そう、なんですね」

「はい。シリル様、他人のことなんてどうでもいいじゃないですか。二人きりのお茶会なんですよ?温かいうちにお茶を飲んでください」


 にこりと笑いながら促される。言い方は柔らかいのに、なぜか従わないといけない……強制力を感じる。


「はい……」

「美味しいですか?」

「美味しいです」

「お茶菓子もシリル様が好きなものだけを用意したんです。ぜひ、召し上がってください」

「ありがとうございます……」


 テーブルを見渡すと、確かに僕の好物ばかりが並べられていた。その中から一つ選び手に取る。

 赤く輝くいちごが乗ったのタルトを一口食べる。甘酸っぱい味が口の中に広がり、思わず笑みが溢れる。


「美味しい……」

「ふふっ、お口にあったようで嬉しいです」


 あまりの美味しさに次々と手を伸ばす。どれも一口サイズで食べられるから、どんどん食べてしまう。

 夢中で食べながらふと、セドリック様の方を見ると、なにも手をつけていなかった。


「セドリック様は食べないのですか?」

「私は大丈夫です。シリル様が美味しそうに食べている姿を見るだけで十分です」

「食べないなんてもったいないですよ。ほら、これとかセドリック様好きだと思いますよ。はい、あーん」


 甘さ控えめのシナモンが効いたアップルパイをフォークに刺して差し出す。


「……シリル様?」

「美味しいですよ?」

「いや……お気持ちはありがたいですが……これはその……少々……」

「…………あっ」


 恥ずかしくなってフォークを引っ込める。甘いもので気持ちがほぐれてつい、やってしまった。

 さっきまで警戒してたのに、何をやってるんだ僕は……気を抜きすぎだろ!

 セドリック様は今第二皇子で、それに昨夜のこともあるんだから……公爵家にいた時のように接してはいけない。


「……シリル様」


 名前を呼ばれ顔を上げると、セドリック様は口を開いたまま待っていた。顔を少しだけ赤く染めて。


「えっと……」

「食べさせてくれないんですか?」

「……その……この行為は……不敬、ですよね……」


 握っていたフォークを置こうとすると、身を乗り出したセドリック様に手首を掴まれる。そして掴まれた手首は、セドリック様の口元に近づき。


「シリル様が仰った通り美味しいですね。私好みです」

「っ!」

「照れないでください。最初に煽ったのはシリル様の方ですよ?」

「あ、煽ってなんか……」


 さっきの行為は無意識だから、煽ってなんかない。気が抜けて、ちょっとだけ昔に戻ってしまっただけ……。

 手首を掴まれ逃げられない。せめてもの抵抗の意味を込め、目を伏せてセドリック様の視線から逃げる。


「シリル様」

「……」

「……私を、見てください」

「セドリック様……っ!」


 言葉に従い、伏せていた目を上げた瞬間。口に暖かいものを感じた。

 それはほんの一瞬、もしくは永遠の長さ、を思わせる。何をされたのか理解した時には、間近にあったセドリック様の顔は離れていた。


「な、なにを……」

「申し訳ありません。美味しそうだったので、つい」

「美味しそうって……そんな仲じゃないのに」


 こんなことで動揺してはいけない。一度目で学んでいたし、いつか僕もこういうことをするって分かっていた。

 そう分かっているのに、目から溢れる涙は止まらない。


「……っ」


 動揺するな。でも……だって、こんな……アレク様とだってまだ……。


「……泣くほど嫌でしたか」

「……」

「ああ、そうですか。やはり私はまた、ダメなんですね」

「……また?」


 また妙な言い回し。気になるけど、まだ混乱している頭のせいで、上手く言葉が出てこない。


「今日はお開きにしましょう。ご気分がすぐれないようですし」

「……はい」


 どう尋ねようか迷っているうちに提案されたので、悩むことなく頷く。


「出口までのエスコートは」

「一人で行けます」

「分かりました。では、お気をつけて」


 セドリック様に背を向けてきた道を戻る。一刻も早くこの場から離れたかった。

 長い茂みのアーチを進み、もう少しでクロードが待つであろう入り口近くまで来たが。


「っ、ううっ……」


 足が止まって動けなくなる。その場で蹲って、誰にも聞こえないよう声を押し殺して泣く。

 こんな姿、誰にも見せられない。情けない。たったあれだけのことに、心がこんなにも掻き乱されるなんて……。

 どうしてこんなにも悔しいのか、悲しいのか、涙が溢れてしまうのか分からない。


「……はやくもどらないと」


 クロードが心配している。それにこのあとは久しぶり父様と母様が来るから、準備もしないといけない。大事な話があるって手紙で言っていたから、こんなところでうずくまっていてはダメだ……。

 そう分かっているのに、身体は言うことを聞いてくれない。


「どうしよう……」

「シリルおにいちゃん、具合悪いの?」

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