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二週目は誰も失いたくないので、婚約破棄を目指します。  作者: もち


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22

 窓からさす月明かりだけを頼りに、静かな廊下を二人で歩く。真夜中だから皆寝静まっているのだろう、人の気配がしない。

 前を歩くアレク様の背を見つめる。

 夕食前、セドリック様と歩いた暗い廊下は少し怖かった。でも、アレク様と歩く廊下は少しも怖くない。

 繋いでいるこの手だって、以前は触れることすら出来なかった。だけど今は繋いでいる事が自然で、安心感がある。


「……シリル」

「はい」

「その……あいつと何を話していたんだ?」

「アレク様が来られたので、あまり話はしていません」

「そうか……今更なんだが、俺の侵入は迷惑じゃなかったか?」


 予想外の事を聞かれ呆気にとられる。セドリック様に身体の自由を奪われていた状態だったから、アレク様は当然のことをしたと思ってるものだと。


「迷惑じゃありません。むしろ助かりました」

「本当か?窓を割ってシリルの部屋をめちゃくちゃにしてしまったのに?」


 前を向いていたアレク様が振り返り、向かい合わせになる。

 ああ、今日だけで何度思ったことだろう。

 美しい顔は月明かりに照らされ、誰もがうっとりとしたため息を吐いてしまいそうな光景。なのに僕はどうしても、イタズラしてしまった大きな犬が飼い主に叱られるのを待っているようにしか見えない。


「……僕が言うのもなんですが、壊れたのは窓ガラスだけです。家具は特に汚れもありませんでしたから、アレク様が気に病むことではありません。むしろアレク様が来てくれて助かったんですよ」

「本当か?」

「本当です。嘘なんかつきませんよ」

「シリル……」


 ぎゅっと強く手を握られる。


「アレク様?」

「早くシリルの正式な婚約者になりたい」

「へっ、」

「いや、結婚するまで待てない。今すぐ結婚してシリルは俺の伴侶だと世界中に知らしめたい」

「き、急になにを……」

「そうなれば……この、どうしようも無い不安が消えるのに……」

「不安、なのですか?」


 好意を抱いてくれているのは分かっていたけど、不安もあったなんて知らなかった。


「とても不安だ。シリルが俺の手から離れてどこかに行ってしまうんじゃないかって、ずっと不安だ」

「……」


 何も言えない。謝罪を言うのは違うし、アレク様だってきっと望んでいない。アレク様が欲しい言葉は決まっている。


「……余計な話をしたな。早く部屋に行こう」

「はい……」


 返事をすると、アレク様はまた前を向いて歩きだす。


「明日もきっと忙しくなるだろうから、眠れなくてもベッドに入った方がいい」

「そうですね。夜更かしはもうしないようにします」

「ああ、そうしてくれると安心する」


 黙って暗い廊下を歩く。なにか話さないと行けない気がするけど、なにを話せばいいのか分からない。

 僕はアレク様になにを伝えたいんだろう……。


「着いたぞ」


 考えているうちに到着し、重そうな扉が開けられる。


「本来なら俺が今日使う予定だったから、掃除やベッドメイキングは済んでいる」

「はい」

「メイド長には俺が今から伝えてくるが、必要なものがあれば一緒に伝えてくる。なにかあるか?」

「……いえ、もう寝るだけなのでなにもいりません」

「そうか、じゃあ俺はこれで……シリル?」


 離れようとする手を、僕は何故か離せない。


「あっ、す、すみません!あれっ?なんでだろ……」

「シリル」

「すぐ離します」

「いい」


 ふと、顔を上げると。窓からさす月明かりに照らされたアレク様の顔は、穏やかでとても嬉しそう。

 おかしいな。アレク様のこんな顔、見たことないはずなのに、どこか懐かしく感じるなんて。


「アレク様……」

「なんだ?」

「……僕からこんなことを言うのは大変烏滸がましいのですが」

「構わない。何でもいいから言ってくれ」

「今夜だけ……」


 一緒にいて欲しい。眠るまで側にいてほしい。

 そんな言葉が出かけたが、出てくる寸前で飲み込む。

 わがままは言えない。明日もきっと多忙なアレク様に言うことも、今さら甘えたことを言うのは許されない。


「……やっぱり、なんでもありません。引き止めてごめんなさい。今度お礼をさせて下さい」

「では、今からそのお礼をしてもらってもいいか?」

「今、ですか?」


 別に構わないけど、今できることってあるのだろうか?ここは僕の部屋じゃないから差し出せるものはないけど。


「今夜だけ、手を繋いで一緒に眠ってもいいか?」

「えっ……」


 どうして。どうして僕の願いが分かったんだろう。


「もちろん何かするつもりは全くもってないが、ダメか?」

「ダメ……じゃないです……」

「本当か!」

「はい」


 心がじんわりと暖かくなっていく。アレク様の笑顔見るだけで、嬉しそうな声を聞くだけで、こんなにも幸せな気持ちになる。


 そっか、僕はアレク様が好きなんだ。

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