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陛下たちとのお茶会を終えた後、部屋がある場所へと案内される。重い足取りで進んでいると、廊下の先から言い合いの声が聞こえてきた。
「シリルの隣は俺だ」
「ダメに決まってるでしょ。シリル様は貴方の事が心底嫌いなのですよ。少しは嫌われている自覚を持って謹んでください」
「き、嫌われてなどない!お前がいた時とは違い、今は手を繋ぐ関係になったんだぞ!」
「シリル様はお優しいから我慢してるんですよ。はっ、そんなことも分からないんですか?」
「我慢などしてない!お前こそずっといなかったくせに今更……シリル!」
「うっ……見つかった」
二人の言い合いが収まるまで隠れていようと思っていたら、アレク様に見つかってしまった。
アレク様は僕の姿を捉えるなり、さっきまでの不機嫌が嘘のように笑顔になる。そして飼い主を見つけた犬のようにこちらに駆け寄ってくる。
「シリル!今日からずっと一緒だな!毎日会えるようになって嬉しいぞ!」
「そ、そんなに嬉しいんですか?」
僕が聞き返すと、アレク様は僕の手を握って答える。
「ああ!旅行以外でもシリルと毎日会える時間が欲しかったから、叶って嬉しい」
アレク様の真っ直ぐな言葉に顔に熱が集まる。手を繋ぐことを許してから、アレク様の感情表現が豊かになってる気がする。
一周目は何事にも動じない冷静な印象が強かった。だけど今のアレク様は……いや、バカにしてる訳じゃないんだけど……大きいわんこにしか見えない……。
「あの……アレク様……」
「北部旅行では結局忙しくてあまり話せなかったからな、ここでは存分に語り明かそう。ゆっくりでいいから、シリルの全てを教えて欲しい」
どう返事をするか悩んでいると、セドリックが来て僕たちの手を離す。
「押し付けがましい男は嫌われますよ」
「邪魔するな」
「シリル様がとてもお困りのようでしたので邪魔ではないかと」
セドリックはアレク様を冷たくあしらうと、僕の方に向き直り手を握ってきた。
「シリル様、また二人きりで深夜のお茶会をしましょう。眠れない夜は離れていた間の話をたくさんしましょう」
「し、深夜に押しかけるのはダメだろ!」
「何がダメなんですか。私はシリル様は何度もそうして眠れない夜を過ごしました。シリル様を想えばダメなことはないでしょう」
「今はお前も同じ立場だろ!いくらなんでも深夜、婚約者の部屋に押しかけるのはダメだ!」
「うるさい人ですねぇ。私はあなたと違いシリル様とは決め事に縛られない仲なので」
「そんな仲あるか!いいか、いくらお前が仲がいいと思っていても、俺と同じ立場なんだ。ルールは守れ!」
「はぁ?」
また始まった二人の口論に頭が痛くなってくる。今は二人の喧嘩を止めるよりも、放っておいて一人静かに休みたい。色々と整理したいこともあるし。でも、どうやって切り抜けたらいいんだろう……。
どうすればいいのか悩んでいると、誰かが僕を後ろに優しく引っ張った。誰だろうと思い顔を上げると。
「クロード!」
「すんませんアレク様、セドリック様。シリル様お疲れみたいなんで。失礼するっす」
「そ、そうなのかシリル」
「……クロード」
「色々あって疲れが少し。お二人とも申し訳ありませんが、夕食までは一人にしてください」
クロードのおかげで話の主導権を握れた。僕はこのまま部屋に籠らせてもらう。
「シリル、なにか欲しいものがあれば言ってくれ。すぐに持っていく」
「お気遣いありがとうございますアレク様」
「シリル様、後で私が疲れに効く美味しいお茶をします」
「あ、大丈夫ですよセドリック様。クロードに用意してもらうので」
「ですが……」
「第二皇子殿下にそれはお願いできません。お二人とも申し訳ありませんが、お先に失礼します」
二人に頭を下げ、宛てがわれている部屋の前まで向かう。
「ちなみに部屋は僕が真ん中で、お二人はどちらか選べ、と陛下が仰ってましたよ。では、失礼します」
陛下から預かっていた伝言を、アレク様とセドリック様に告げてから部屋に入る。
部屋は陛下が仰っていた通り、不自由は無さそう……というより僕の自室だ。完璧に再現されてる……。
あまりの再現度の高さに怖くなったが、それよりも疲れが上回っていた。部屋のソファーで横になり、クッションに顔を埋める
「はぁーーー……」
「でっかいため息っすね」
「ため息も吐きたくなるよ。こんな展開予想してなかったんだから……」
「確かに。セドリック様が第二皇子なんて驚きっすよね〜」
「……そういう割にはあまり驚いてないように見えるけど?」
「そりゃあ知ってましたから」
「えっ!?」
サラッ告げられた事実に思わず飛び起きる。知ってた?知ってたっていつから?
「い、いつから知ってたの?」
「最初から。セドリック様が公爵家で匿われた時、俺も護衛として一緒にいたんで」
「ええー……」
セドリック様が引き取られた際、僕への挨拶があったけどクロードはその時いなかったと思うんだけど。
「あー俺はセドリック様の身分がバレないよう、隠れてたんでシリル様が俺の事知らないのは当然っすよ」
「そうだったんだ……」
セドリック様やクロードのことと言い、今度家に帰ったら一度お父様に聞いてみないといけないかも。知らないことが色々と多すぎる……。
あと……そろそろお父様とお母様の事故が……あった……から……。
瞼が重くなったかと思えば、僕の意識は抗うことなく夢の中へ向かう。
「シリル様?寝てるんすか?」
「……」
「朝も早かったし色々とあったから、そりゃあ疲れてるよな」
「……」
「おやすみっすシリル様。良い夢を」
***
「んっ……あれ……寝てた?」
目を開けると部屋は真っ暗。どのくらい時間が経ったのか分からないけど起きないと。
肩にかけられていた毛布を取って、ソファーから立ち上がる。暗い部屋から出るために扉へと向かう。
それにしても今日は寝てばかりな気がする。城に来るまでも寝ていたし。疲れてるのかな……。明日、急ぎの用がないなら一日ゆっくりしようかな。
「あっ……そっか、皇城で暮らすことになったんだ」
廊下に出ると、家とは違う景色に陛下たちとの会話を思い出す。誰もいない廊下はひっそりとして少し怖い。
「クロード?」
時間が知りたいので、クロードを呼んでみるが返事がない。たまたまどこかに行ってるのか、それとも今は真夜中で誰もいないのか……。
「シリル様」
「わっ!」
考えながら歩いていると、後ろから声をかけられる。驚いて振り返ると笑顔のセドリック様がいた。
「セ、セドリック様でしたか……足音がしなかったから驚きました」
「失礼しましたシリル様。ところで、お一人でどうされたのですか?」
「あー……お恥ずかしながら眠っておりまして……クロードに時間を聞きたいのと、夕食会場までの案内を頼みたくて探してまして」
「なるほど。時間は夕食時です。クロードでしたら足りないものがあったらしく、一度シリル様の家に戻られています」
「そうなのですね。教えてくださりありがとうございます」
「よければ、夕食会場まで私が案内します」
「ありがとうございます。お願いします」
セドリック様の後ろを着いていく。皇子に道案内させるなんて不敬と言われそうだけど、誰も近くにいないのだから許して欲しい。
それにしても……セドリック様、変わったな。僕と同じくらいだった身長は伸びて大人っぽくなったし、雰囲気だってアレク様と同じ威厳もある。
……セドリック様はどういう気持ちで僕に仕えてたんだろう。嫌な気持ちになってたりとか。
「シリル様」
「は、はい」
「なぜ、後ろを歩かれるのですか?」
「セドリック様の方が身分が上なので当然のことですよ?」
「……あいつの隣は歩いていたのに」
「あいつ?」
僕が聞き返すとセドリック様は立ち止まって振り返る。
「第一皇子です」
「アレク様のことですか?」
「はい」
「あー……」
いつだったか、アレク様の後ろを一歩引いて歩いていたらすっごい嫌な顔されたんだよね。それでしつこくなんで隣に来ないんだ。そんなに俺の隣は嫌なのかってしつこく聞かれて、僕が折れたんだよね……。
「……それに私のことを敬称を付けて呼びますし、話し方も敬語なのは何故ですか?」
「セドリック様の方が立場上なので当然です。いくらセドリック様が僕の従者だった時とは違いま、すか……ら……」
突然、セドリック様に強い力で抱きしめられる。前振りのなかった行動に、上手く思考が出来なくなる。
「セ、ドリック……さま……?」
言葉も上手く出てこない。
「……」
「あ、の……」
「……以前のように接してください。シリル様を手に入れるために得た立場は、シリル様より上かもしれません。でも、そんなものは関係ありません―――」
セドリック様は僕を腕から解放すると、跪いて僕の手を取る。そして手の甲に口付けを。
「私の心と身体は、永遠にシリル様だけの下僕ですから」
廊下の窓から入る月明かりがセドリック様を照らす。その姿はまるで皇族で、僕の知っているセドリックではなかった。




