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お茶会を用意したから和やかな空気で進むと思っていた。だけどわざわざ人払いを済ませると言うことは、今からする話はかなり重要な事なのだろう。話の中心になるであろうアレク様とセドリックの同席を許さなかったってことは、二人にはまだしてない話を僕にするのだろう。
「さて、今後の皇位継承について先に結論を言おう。私はシリルが結婚したいと思った者を次の皇帝に指名する」
「……っ、ごほっ、ごほっ!」
予想だにしていなかった言葉に、飲んでいた紅茶を噴き出しそうになった。すんでのところで止められたが、代わりにむせたせいで咳が止まらない。
僕が結婚したいと思った方を……ってそれ責任重大では?この国を担う次の皇帝をそんな決め方をしたら、評議会の反発が凄いと思うんだけど……。
「あらあら、シリル大丈夫?」
「だ、大丈夫です……あのっ、陛下本気ですか?」
「ああ、評議会も納得している」
「なぜ……」
「簡単な話だ。シリルの家が中立なこと、時期王配としてなんの欠点も無いからだ」
確かに僕の家は公爵家なのにどの派閥にも属さない中立だ。中立の者が皇室に入った方が良いのは分かる。だが後継者が二人になったのならば、それぞれの派閥から婚約者を出したがりそうだけど。
「筆頭派閥の方から推薦はなかったのですか?」
「もちろんあったぞ。シリルが婚約破棄したいと言い出した時、セドリックが現れた時それぞれな」
「ではなぜ……」
「うふふ、単純なことよ〜」
ニコニコと朗らかな笑みを浮かべる皇后様。
「アレクもセドリックもシリル以外と結婚する気はないのよ〜。だから他の婚約者は見繕えないってわけ」
「で、ですが他の貴族からの強い推薦はあったのでは?」
「あったわよ〜。でも二人とも相手にしなかったのよ。だから他の方たちも諦めちゃったの」
「まぁ執拗い奴もいたがな。そこはもう一掃しておいた。そのような奴らは元々候補にも上がらない者たちだったせいか、色々と執拗い上に厄介だった」
「そのせいでしばらくシリルと会えなくて残念だったわ。ようやくこうしてお茶会ができて本当に嬉しいわ」
なるほど。僕の王配教育が止まった本当の理由はそれか。突然のことすぎて気になっていた。皇城にいた人の中に、よからぬ事を考えていた人もいたのだろう。僕を危険から遠ざけるために、しばらく呼ばなかったんだ。
……もしかして北部で起きた誘拐事件って。
「シリルには怖い思いをさせて本当にすまなかった」
「ええ、私たちの詰めの甘さであなたに怖い思いをさせてしまったわ」
「い、いえ陛下たちは何も悪くありません!もちろんアレク様も。元はと言えば、連れ去られたのは僕のワガママのせいですから」
僕が護衛を遠ざけ、お祭りを楽しみたいと言ったせいで誘拐されてしまった。謝るべきは僕の方だ。アレク様に傷を負わせ、残してしまった。
「謝るのは僕の方です陛下。お二人の大切なアレク様を危険な目に合わせ、傷を追わせてしまい本当に申し訳ありませんでした」
立ち上がり深々と二人に頭を下げる。本来なら謝るだけでは済まない。大切な後継者である皇太子殿下を傷つけた。その罪は重く、家が取り潰されてもおかしくない。
だが二人は寛大な心で僕を責めないでいてくれる。この行為はその心に感謝と、アレク様への心からの謝罪だ。
「頭を上げてくれシリル。お前は何も悪くない。アレクの傷もどうせ周りの忠告も聞かずに飛び込んだ結果なんだろ」
「そうよ、シリルが頭を下げること無いわ。騎士からちゃんと報告を聞きました。アレクが自分で招いた結果なのだから、貴方が謝ることないわ」
「しかし……」
「アレクが格好つけたかっただけだ。本当に気にしなくていい」
「ええ。はい、この話は終わり。ほらほら、シリルちゃん座って美味しいケーキを食べましょう」
パチン、と皇后様が両手を叩いて話の終止符を打つ。皇后様から言われたらこれ以上引き下がることはできない。……あとちゃん付けで呼ばれたら、大人しく言うことを聞いておかないと後が怖い。
素直に言うことを聞き、座ってケーキを一口。甘い生クリームと甘酸っぱい苺が口に広がり、気持ちが少しずつ和らいでいく。自然と笑みが出てしまう。
「うふふ、やっぱりシリルちゃんの笑顔は可愛いわね。沢山食べてね」
「はい」
「話が少し逸れたな。とにかく、次期王配はシリル以外考えられないから、どちらかを選んで欲しい。私たちもシリルの選択を尊重し、信じる」
陛下は真っ直ぐ僕の目を見て仰るが、その期待に応えられるか不安だ。
「……」
「シリルが結婚に乗り気で無いのは分かっておる。しかし私は我が子のように大切なこの国を、シリルとシリルが選んだ人物に任せたいのだ」
「そうね……シリルに任せるなら私も安心よ。貴方が誰とも結婚したくないなら、それも構わないしシリルが皇帝になっても構わないわ」
「それは……」
「でもね」
皇后様は陛下と見つめ合う。そして、手を重ね合わす。
「一人で人生を背負うには寂しくて、きっと苦しい。だから貴方には隣で一緒に歩んでくれる人がいて欲しいの。シリルは私たちにとって本当に大切な人だから、支えてくれる人が隣にいて欲しいのよ」
「そうだな……一人の人生も良いが、誰かが隣にいる人生も良い。永遠でなくてもいい、たった一時でも誰かと一緒に歩んでみて欲しい」
ああ、陛下たちには見透かされていたんだ。僕がいざと言う時は全てを捨てて生きようとしたこと。
そんな風に言われたら断れなくなる。お二人の気持ちが、想ってもらえている事が嬉しいから。
「はい、分かりました。次期皇帝の件、前向きに検討します。僕もこの国が大切ですから」
「ありがとうシリル。では早速だが」
「へ?」
あ、嫌な予感がする。
「一年間、アレクとセドリック、二人のことを知るために城で暮らしてくれ」
「ま、待ってください、なんでわざわざ城に?僕の家はすぐそこですよ!?」
「毎日往復するのは大変でしょ。だからね、城に住んで欲しいの。あ、ちゃんと部屋は別だから安心して」
「問題はそこじゃありません!」
「不便のないよう部屋は整えてある。交流もしやすいように三人とも隣同士だ」
「いや……本当に部屋のことが問題じゃなくて……」
頭が痛くなってきた……。いや、前向きに考えるとは言ったけど……城で暮らすことになるなんて思ってもない。しかも一年って……。
「せっかく一年もあるのだ。皇室の仕事を覚えてもらう」
「それは……忙しくなりそうですね」
「あ、でも二人のことを知るためにちゃんと公平に機会を設けるから大丈夫よ。もちろん私たちとの食事会もあるわよ」
「あはは……」
「楽しみだな皇后」
「ええ、楽しみですわ陛下」
仲睦まじく笑い合う皇帝陛下と皇后陛下。こうなったらもう誰も止められない。諦めて大人しくしておこう。……抵抗しても疲れるだけだから。




