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二週目は誰も失いたくないので、婚約破棄を目指します。  作者: もち


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16

 朝一に北部を離れ僕とアレク様は急ぎ皇城へと向かっている。馬車は皇族が使う物のこともあり、乗り心地が良くさっきから眠気が酷い。


「ふぁ、んっ……」

「眠いのか?」

「あ、すみません」

「謝るな。遅くまで俺の仕事に付き合わせたからな、眠くて当然だ。ほら」

「で、殿下?」


 対面に座っていたアレク様は立ち上がり僕の隣に座る。そして僕を引き寄せ、アレク様の膝に寝かせられる。


「まだまだ時間がかかるから寝ていろ」

「そ、それはありがたいですが、この体勢は……」

「嫌か?」

「いえ、嫌というより……恥ずかしいです」


 こんな子どもが甘えるような姿、誰かに見られたら恥ずかしすぎる。それにいくら婚約者でも、皇太子殿下にひ、膝枕はダメな気がする。


「何か言われても俺が無理やりさせたと言うから、安心して眠ればいい」

「眠るなら窓に寄りかかりますから……」

「それじゃあ休まらないだろ。どのくらいで終わるか分からない呼び出しだ。今はちゃんと休まないとな」

「殿下……」

「ふふっ、シリルの髪はキレイだな」


 アレク様は僕の髪を触りながら返事をする。なぜか上機嫌で。僕が起き上がろうとするも肩を優しく押され、起き上がることはできない。


「殿下くすぐったいです……」

「んー?」

「殿下」

「殿下じゃないだろシリル」

「……城に着くまでに戻さないといけませんから」

「シリルは俺の婚約者なのだぞ。殿下と呼ぶ必要はないだろ」

「……」


 優しく甘い声で囁かれ、何も言えなくなる。

 こんなことになるなら、触れられることを許すんじゃなかった。優しく触れられたところが熱くて仕方ない。


「シリル」

「……なんでしょう」

「名前で呼んでくれないのか?」

「…………アレク様」

「ふふっ」


 チラリと下からアレク様の顔を見ると、心底嬉しそうに笑っていた。その顔に心臓がドキドキと鳴り響く。うるさくて仕方ない。

 名前を呼んだだけでこんなに嬉しそうにするなんて……。もういいや、大人しく眠ってしまおう。昨夜は遅く、朝も早かったから……甘えて……しまおう……。


「すぅー……すぅー……」

「やっと眠ったな。おやすみ、俺の愛しいシリル」




 ***




「…………様、そろそろ」

「……かに。シリルが寝ているんだぞ」


 話し声が聞こえる。アレク様と……。


「申し訳ありません。しかしそろそろ到着するので起こして頂きたいです」

「もうそんな所まで来たのか」

「ええ、ですから起きて頂かないと」


 ぼんやりしながらゆっくり目を開けると、アレク様の服が視界いっぱいに広がっていた。眠る前に見ていた馬車の中じゃなくて、なんで服……あっ!


「っ!」


 アレク様の腰に抱きついた体勢になっていることに気づき、慌てて飛び起きる。


「おはようシリル。すまない、起こしてしまったか?」

「お、おはようございます……あ、あのユリウス様違うんです……これは不可抗力で……」


 見られた。皇太子殿下に膝枕をさせた上に熟睡してる姿、絶対に見られた!


「仲睦まじいようで良かったです。では、私はお邪魔なので失礼します。もう少しで着きますが、ごゆっくり」


 穏やかな笑みを浮かべたユリウス様はそう言うと、馬車の窓を閉めどこかへ行ってしまう。


「あっ、ちがっ、違うんです!」

「何が違うんだ」

「っ、な、なんで起こしてくれなかったんですか!」

「なぜ起こす必要がある?」

「なぜって、ダメでしょ!いくら婚約者でも皇太子殿下にひ、膝枕させるって……」

「俺が勝手にしたんだから別に構わないだろ。それよりもほら、寝癖ついてるぞ」

「っ!」


 優しい手つきで髪を梳かれる。

 気のせいかもしれないけど……手を繋いでからアレク様、僕に触れすぎな気がする。……別に嫌じゃないけど、ドキドキするから少し控えて欲しい。


「自分で直せます……」

「シリルは不器用なんだから、俺に任せろ。それにどうせ面倒くさくなって適当にするだろ」

「な、なんでそれを知ってるんですか!?」


 アレク様の言う通り僕は不器用だけど、それは一部の人にしか知られてないことだ。でも壊滅的って訳じゃなくて、不器用なのは少しだけだから知らないと思ってたのに……。それに面倒くさがりなのもなんで知ってるの?


「ずっと見てるんだから当然だろ」

「……っ!」

「よし、直ったぞ」

「……ありがとうございます」


 ううっ、恥ずかしい。ずっと見られてるなら、もっと上手く振る舞えぼ良かった……。


「安心しろ」

「?」

「意外と不器用で面倒くさがりな所、俺は可愛いと思っているぞ」

「っ!も、もうっ、からかわないで下さい!」

「ははっ、可愛いぞシリル」

「アレク様!」


 楽しそうに笑うアレク様。この方と言い合いが出来る関係になるなんて、二週目の最初は思ってもなかった。今は良い関係を築けているから、このままなにも無いといいんだけど。


「アレク様、シリル様」


 じゃれあっていると、外からユリウス様に呼ばれる。そしてアレク様の雰囲気は、重く張り詰めたものになる。


「もう着いたのか?」

「はい」

「分かった」


 返事をするとアレク様は馬車を降りる。その後に続こうとすると。


「シリル、手」

「いいんですか?」

「いいもなにも婚約者だろ。……それともまだ嫌なのか?」

「嫌じゃありません。ありがとうございます」


 アレク様の手に自分の手を重ね、馬車を降りる。

 ふと、見えたアレク様の耳は真っ赤に染まっていて、重かった空気少しだけが軽く感じる。


「シリル」

「はい」

「俺は本気でシリルを愛している」

「っ!?い、今言うことですか!?」

「今、言っておかないとダメなんだ。だから……」


 重ねた手を力強く握られる。……アレク様?


「俺とまた、手を繋いでくれ」

「どういう意味ですか……?」

「そのうち分かる。行くぞ」


 アレク様に優しく手を引かれながら城の中を進む。どこへ行くのかは知らないが、この道には覚えがある。

 皇帝の間への道だ。

 あの部屋で陛下に謁見したのは、確かアレク様との婚約を告げられたのが最初で最後だった。

 ……胸騒ぎがする。


「着いたぞ」

「はい……」

「シリル」

「はい」

「また、旅行に行こう。今度はちゃんと計画を立ててゆっくりしよう」

「ふふっ、確かに。アレク様ほとんど仕事してましたから」

「ああ、だから次はシリルとゆっくり過ごしたい。では、行くぞ」

「はい」


 重い扉が開く。光り輝く皇帝の間、眩しさに目がくらむ。眩しさに慣れるように少しづつ目を開ける。

 玉座には皇帝陛下と皇后陛下、そして玉座の前に佇む青年一人―――。


「…………セドリック?」

「お久しぶりですシリル様」


 懐かしい笑顔、艶やかな黒髪、泣きそうになるほど聞きたかった声。

 ずっと、会いたかった。会いたかったけど……。


「やはりお前が第二王子だったのだな。セドリック」

「ええ、皇太子殿下もお久しぶりです。私が第二王子のセドリックです」


 どうしてセドリックが第二王子を名乗ってるの?

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