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朝一に北部を離れ僕とアレク様は急ぎ皇城へと向かっている。馬車は皇族が使う物のこともあり、乗り心地が良くさっきから眠気が酷い。
「ふぁ、んっ……」
「眠いのか?」
「あ、すみません」
「謝るな。遅くまで俺の仕事に付き合わせたからな、眠くて当然だ。ほら」
「で、殿下?」
対面に座っていたアレク様は立ち上がり僕の隣に座る。そして僕を引き寄せ、アレク様の膝に寝かせられる。
「まだまだ時間がかかるから寝ていろ」
「そ、それはありがたいですが、この体勢は……」
「嫌か?」
「いえ、嫌というより……恥ずかしいです」
こんな子どもが甘えるような姿、誰かに見られたら恥ずかしすぎる。それにいくら婚約者でも、皇太子殿下にひ、膝枕はダメな気がする。
「何か言われても俺が無理やりさせたと言うから、安心して眠ればいい」
「眠るなら窓に寄りかかりますから……」
「それじゃあ休まらないだろ。どのくらいで終わるか分からない呼び出しだ。今はちゃんと休まないとな」
「殿下……」
「ふふっ、シリルの髪はキレイだな」
アレク様は僕の髪を触りながら返事をする。なぜか上機嫌で。僕が起き上がろうとするも肩を優しく押され、起き上がることはできない。
「殿下くすぐったいです……」
「んー?」
「殿下」
「殿下じゃないだろシリル」
「……城に着くまでに戻さないといけませんから」
「シリルは俺の婚約者なのだぞ。殿下と呼ぶ必要はないだろ」
「……」
優しく甘い声で囁かれ、何も言えなくなる。
こんなことになるなら、触れられることを許すんじゃなかった。優しく触れられたところが熱くて仕方ない。
「シリル」
「……なんでしょう」
「名前で呼んでくれないのか?」
「…………アレク様」
「ふふっ」
チラリと下からアレク様の顔を見ると、心底嬉しそうに笑っていた。その顔に心臓がドキドキと鳴り響く。うるさくて仕方ない。
名前を呼んだだけでこんなに嬉しそうにするなんて……。もういいや、大人しく眠ってしまおう。昨夜は遅く、朝も早かったから……甘えて……しまおう……。
「すぅー……すぅー……」
「やっと眠ったな。おやすみ、俺の愛しいシリル」
***
「…………様、そろそろ」
「……かに。シリルが寝ているんだぞ」
話し声が聞こえる。アレク様と……。
「申し訳ありません。しかしそろそろ到着するので起こして頂きたいです」
「もうそんな所まで来たのか」
「ええ、ですから起きて頂かないと」
ぼんやりしながらゆっくり目を開けると、アレク様の服が視界いっぱいに広がっていた。眠る前に見ていた馬車の中じゃなくて、なんで服……あっ!
「っ!」
アレク様の腰に抱きついた体勢になっていることに気づき、慌てて飛び起きる。
「おはようシリル。すまない、起こしてしまったか?」
「お、おはようございます……あ、あのユリウス様違うんです……これは不可抗力で……」
見られた。皇太子殿下に膝枕をさせた上に熟睡してる姿、絶対に見られた!
「仲睦まじいようで良かったです。では、私はお邪魔なので失礼します。もう少しで着きますが、ごゆっくり」
穏やかな笑みを浮かべたユリウス様はそう言うと、馬車の窓を閉めどこかへ行ってしまう。
「あっ、ちがっ、違うんです!」
「何が違うんだ」
「っ、な、なんで起こしてくれなかったんですか!」
「なぜ起こす必要がある?」
「なぜって、ダメでしょ!いくら婚約者でも皇太子殿下にひ、膝枕させるって……」
「俺が勝手にしたんだから別に構わないだろ。それよりもほら、寝癖ついてるぞ」
「っ!」
優しい手つきで髪を梳かれる。
気のせいかもしれないけど……手を繋いでからアレク様、僕に触れすぎな気がする。……別に嫌じゃないけど、ドキドキするから少し控えて欲しい。
「自分で直せます……」
「シリルは不器用なんだから、俺に任せろ。それにどうせ面倒くさくなって適当にするだろ」
「な、なんでそれを知ってるんですか!?」
アレク様の言う通り僕は不器用だけど、それは一部の人にしか知られてないことだ。でも壊滅的って訳じゃなくて、不器用なのは少しだけだから知らないと思ってたのに……。それに面倒くさがりなのもなんで知ってるの?
「ずっと見てるんだから当然だろ」
「……っ!」
「よし、直ったぞ」
「……ありがとうございます」
ううっ、恥ずかしい。ずっと見られてるなら、もっと上手く振る舞えぼ良かった……。
「安心しろ」
「?」
「意外と不器用で面倒くさがりな所、俺は可愛いと思っているぞ」
「っ!も、もうっ、からかわないで下さい!」
「ははっ、可愛いぞシリル」
「アレク様!」
楽しそうに笑うアレク様。この方と言い合いが出来る関係になるなんて、二週目の最初は思ってもなかった。今は良い関係を築けているから、このままなにも無いといいんだけど。
「アレク様、シリル様」
じゃれあっていると、外からユリウス様に呼ばれる。そしてアレク様の雰囲気は、重く張り詰めたものになる。
「もう着いたのか?」
「はい」
「分かった」
返事をするとアレク様は馬車を降りる。その後に続こうとすると。
「シリル、手」
「いいんですか?」
「いいもなにも婚約者だろ。……それともまだ嫌なのか?」
「嫌じゃありません。ありがとうございます」
アレク様の手に自分の手を重ね、馬車を降りる。
ふと、見えたアレク様の耳は真っ赤に染まっていて、重かった空気少しだけが軽く感じる。
「シリル」
「はい」
「俺は本気でシリルを愛している」
「っ!?い、今言うことですか!?」
「今、言っておかないとダメなんだ。だから……」
重ねた手を力強く握られる。……アレク様?
「俺とまた、手を繋いでくれ」
「どういう意味ですか……?」
「そのうち分かる。行くぞ」
アレク様に優しく手を引かれながら城の中を進む。どこへ行くのかは知らないが、この道には覚えがある。
皇帝の間への道だ。
あの部屋で陛下に謁見したのは、確かアレク様との婚約を告げられたのが最初で最後だった。
……胸騒ぎがする。
「着いたぞ」
「はい……」
「シリル」
「はい」
「また、旅行に行こう。今度はちゃんと計画を立ててゆっくりしよう」
「ふふっ、確かに。アレク様ほとんど仕事してましたから」
「ああ、だから次はシリルとゆっくり過ごしたい。では、行くぞ」
「はい」
重い扉が開く。光り輝く皇帝の間、眩しさに目がくらむ。眩しさに慣れるように少しづつ目を開ける。
玉座には皇帝陛下と皇后陛下、そして玉座の前に佇む青年一人―――。
「…………セドリック?」
「お久しぶりですシリル様」
懐かしい笑顔、艶やかな黒髪、泣きそうになるほど聞きたかった声。
ずっと、会いたかった。会いたかったけど……。
「やはりお前が第二王子だったのだな。セドリック」
「ええ、皇太子殿下もお久しぶりです。私が第二王子のセドリックです」
どうしてセドリックが第二王子を名乗ってるの?




