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二週目は誰も失いたくないので、婚約破棄を目指します。  作者: もち


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15

 稽古の後の夕食も終わり、約束通りアレク様の執務室で仕事を手伝う。早く終わらせるために黙々と手を動かして処理しているんだけど……。


「っ!」

「……」


 そわそわとどこか落ち着きのないアレク様。先程から僕と目が合っては逸らされると言う、謎の攻防が行われている。

 なにか聞きたいことでもあるんだろうけど、こう目が会う度に逸らされては聞にくい。だけどずっとこのままでは僕も仕事に身が入らない。

 仕方ない。ここはちゃんと聞いてさっさと仕事に集中しよう。


「アレク様」

「な、なんだ」

「先程から僕のことを気にされているようですが、なにかありました?」

「っ!き、気にしてなどない!」

「気にされてます」

「証拠があるのか!」

「証拠って……何度も目が合ってるじゃないですか。気にしてなければ合いませんよね?」


 じっとアレク様の目を見つめる。別に尋問したい訳じゃないけど、早く解決して仕事に集中して欲しい。


「……」

「アレク様」

「…………あの従者とは……どういう関係なんだ……」

「クロードのことですか?」


 僕が聞き返すと、アレク様はぎこちなく首を縦に振る。


「クロードは僕の護衛兼従者です。二年前までいたセドリックの後任ですよ」

「……特別親しい仲ではないのか?」

「特別?他の使用人に比べたら一緒にいる時間は長いですが、特別親しいわけではありません」

「……ではなぜ、身体に触れることを許すんだ」

「え?」


 アレク様の言葉の意味がイマイチ理解できず聞き返すと、立ち上がったアレク様が僕の方へと近づいてくると。机の上に置いていた僕の手の近くに自身の手を置く。あと数センチで触れる距離に。


「お、俺だってシリルの手に触れたいのに……俺はまだ許されてないのに……ズルい」


 えっ、覚えてないの?

 初めて手を握ったあの時、高熱でずっと意識を失っていたから、アレク様の記憶が曖昧なのは分かる。でも結構やり取りしたし、ぼんやりでも覚えていないものなの?

 だってあの時は僕の腕を掴んで、手を握ることも要求してきた。それに答えたのに覚えてないの?


「アレク様」

「シリル……ほんの少しだけでいい……小指だけでもいいから……俺が触れることを許してくれないか?」



 ダメだ。段々アレク様がずっとお預をさせられている大型犬に見えてきた……いや、まぁ、ずっと拒否し続けてきた僕も悪い。悪いけど……覚えてないかぁ……もう、しょうがないなぁ。


「はい、これで満足ですか?」


 机の上にあるアレク様の手を躊躇いなく両手で握る。


「……」


 固まった。えっ、本当は握って欲しくなかったの? じゃあ離した方がいいのかな。

 そう思い手を離そうとすると。


「だ、ダメだ!」

「えっ」

「嫌だ!離さないでくれ!」

「わ、分かりました」

「いいのか!?」

「はい、気が済むまでどうぞ」


 僕がそう言うと、アレク様は嬉しそうに手を何度も何度も握り返しくる。

 手を握るだけでこんなに喜ぶんだ。……そういえばあの時も一生離さないとか言ってたから、そんなにも手を握りたかったんだ。僕の心の問題だけど、もう少し早くこうしてあげれば良かったかな。


「ありがとうシリル」

「アレク様……」

「ふふっ、ずっと黙っていたがいつの間にか俺の名前を呼んでくれることも嬉しい」


 心底嬉しそうな笑みがまるで太陽のようで、暗い部屋が少しだけ明るくなった気がした。

 ダメだ。さっき大型犬みたいと思ってしまったから、アレク様に耳としっぽが付いてるように……。


「シリル、ありがとう」

「ありがとう?」

「俺を受け入れてくれて嬉しい」

「……」


 どう答えればいいのか分からない。

 アレク様を受け入れているのは事実だけど、まだこの手を握り返す勇気が……僕には無い。


「……安心してくれ。俺とシリルが同じ気持ちだなんて思ってない。ちゃんと分かっている」

「ごめんなさい……」

「謝るな。俺が悪いんだから、シリルは謝らなくていい」


 アレク様は何も悪くない。悪いのは過去に縛られている僕。

 分かってる。一度目と二度目が違うってことは分かってる。分かってるからこそ、また拒絶されるのが怖い。だって今は、一度目よりアレク様のことが―――。


「シリル」

「は、はい」

「先程の質問の答えだが」

「質問?」


 僕が聞き返すと、アレク様は顔を反対に逸らしてから答える。


「ああ、俺がシリルを気にしていた理由だ。俺はシリルの従者に…………嫉妬、していたんだ」

「嫉妬?」


 耳が真っ赤だ。薄暗い部屋でも分かるほどに真っ赤ということは、反対側に向いている顔も相当赤いんだろうか。


「ああ、シリルに触れられて笑顔を向けてもらえるあいつが羨ましかった……狂いそうな程に」

「……」

「俺が一番、この世の誰よりもシリルのことを想っているのに」

「……」

「俺は二年かけてようやく名前を呼んでもらい、こうして触れることを許された。あいつはずっと前から許されているのに……」

「……あの、アレク様」

「アレク様、今お時間よろしいでしょうか?」


 僕の言葉を遮るように扉がノックされると、ユリウス様の声がアレク様を呼んだ。


「何の用だ」

「皇室から急ぎの連絡がありました。その報告です」


 ユリウス様の言葉を聞くと、アレク様の手は僕から離れる。


「はぁ……分かった。入れ」

「失礼します……あ、シリル様もいらしたんですね。ちょうど良かったです。シリル様にも関わることですから」

「シリルにも関係ある話?」

「僕にも?」


 皇室から深夜に、わざわざ北部まで連絡するような内容ってなんだろう。向こうで何かあったのかな?ユリウス様の雰囲気からしてあまりいい話では無さそうだけど……。

 緊張感が漂う中、ユリウス様が重々しく言葉を発する。


「読み上げます……“第二王子が見つかった。至急、婚約者と共に城へと戻れ。”……との事です」


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