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二週目は誰も失いたくないので、婚約破棄を目指します。  作者: もち


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8.5 sideセドリック

「公爵様、ご相談があります」


アラン皇太子殿下の訪問によりシリル様が倒れた翌日。俺は一人でシリル様の父上である公爵様の元を訪れた。


「おや、セドリックが私に相談なんて珍しい」

「本日はお時間を作っていただきありがとうございます」

「感謝されるほどのことではない。それで相談というのは?」

「俺……いや、私が第二皇子に戻るために協力して頂きたいのです」


公爵様の目を真っ直ぐ見つめて告げるが、その表情は固く険しい。


「セドリック様……」

「お願いします。今まで私の素性を隠し育て頂いたにもかかわらず、このようなお願いは大変不躾なことは分かっております。でも私は今すぐにでも元の立場に戻りたいのです!」


深々と公爵様に頭を下げて懇願する。

後ろ盾も何も無い俺が皇族に戻るには、助けが必ず必要になる。だが引き取られてからずっと公爵家で育った俺が頼れる人はないに等しい。

険しい道なのは分かっている。でももうこれしかない。シリル様を守るにはもう……これしか。


「セドリック様」

「はい」

「正体を明かす覚悟をされた理由を聞いてもよろしいですか?」

「……シリル様を守るためです」

「息子を?」

「はい」


頭を上げて公爵様の目を見る。


「俺……私はっ、シリル様を側で支えるのではなく、隣に立って守りたいのです。シリル様を苦しめる者と危険から私が守りたいのです」

「……」

「それを叶えるために、私は第二皇子に戻りたいのです」

「……なるほど。セドリック様の覚悟は理解しました」

「公爵様……!」

「だが」


今までの優しい声音から一変し、固く冷たい公爵家の主の声になる。


「シリルは皇太子殿下のアレク様と婚約中。婚約破棄は簡単に出来るものではない上に、派閥の問題もあります」

「……はい」

「婚約をしている以上、セドリック様の後ろ盾になることはできません」

「……」


公爵様の言うことは当たり前のことだ。いくら公爵家は代々中立を保ってきたとは言え、婚約は公に皇太子側に付くことを示す行為。

正式発表はまだないとは言え、噂されていれば公爵家が皇太子派閥なのは明白。

そんな公爵家が降って湧いた第二皇子の後ろ盾となっては、他家との力関係が狂ってしまう。


「そう悲しい顔をしないでください。セドリック様が決意した時のために、消えた第二皇子を待っている方々を調べております」

「……!」

「定期的に調べていたので最新のものです。この方を頼ってください。私にできることはこれだけです」

「っ、ありがとうございます……!」

「いいえ……しかし本当によろしいのですか?後ろ盾があっても、セドリック様が歩もうとする道は……」

「心配ありません」


シリル様に出会う前の私なら、皇族として生きることは考えたくもなかった。暗殺に怯え、尊厳を踏みにじられる毎日に戻りたくなかった。

でも今はシリル様の隣に立てる皇子の立場が欲しくてたまらない。あの方の笑顔を隣で見れるなら、私は以前のような毎日を送ることになっても構わない。むしろ喜んで受け入れる。


「そのようですね……」


私の覚悟が伝わったのか公爵様の目が優しいものになる。


「セドリック様と簡単に会えなくなるのは寂しくなりますが、貴方様が決めた道に祝福があらんことを」

「ありがとうございます」

「立場上セドリック様と話せるのはこれが最後かもしれませんから」


差し出された手を握る。今後は公爵様と気軽に話すことも相談することも出来なくなる。それはとても寂しいが、全てを投げ打ってでも手に入れたい人のためだ。我儘は言えない。


「公爵様……助けていただく身で申し訳ないのですが……」

「なんでしょう」

「私の後任についてですが―――」




***




「というわけで明日から頼んだぞクロード」

「了解っす。でもセドリック様一人で大丈夫なんすか?」


軽い調子で話しかけてくるクロード。

クロードは私が皇子の時から仕えてくれている。シリル様と公爵様を除けば最も信頼できる人間だ。こちらに逃げてきてからも生活や仕事面で多くのサポートをしてもらった。


「問題ない。後任が得体の知れない人間よりはいい」

「得体のしれないって……公爵家の一人息子に変な輩は付けないでしょ」

「それは分かっているが、心変わりするかもしれないだろ。シリル様の魅力に触れ続け変な気を起こす奴がいてもおかしくない」

「さすがに気にしすぎじゃ……」

「気にしすぎなわけあるか!その証拠にあの人に興味のない皇太子が贈り物を飽きずにしているんだぞ!シリル様の真の魅力に気づいたから今までしなかったことをしているんだアイツは」


城にいた頃に見たアイツの目。人に対して向けるそれは物を見るような眼差し。誰も近づけさせない威圧感。

だが今は打って変わり、初めてシリル様だけに見せる慈愛に満ちた眼差し。絶対王者の威圧感はなく、街にいる一人の男の子と変わりない雰囲気。

まだシリル様は城でのアイツを知らないから落差を知らないが、もし自分にだけ特別だと知ったら……。


「血反吐を吐いてでも直ぐに皇子に戻ってやる」

「こーわ」

「クロード」

「はい」

「私が皇子になるまでシリル様の心が誰かに向かわないようにしろ。皇太子なんて以ての外。もし俺の約束が守れなかったら……」

「はいはい分かってますって!てか口調戻ってるすよ」

「……」

「仕事はちゃんとしますから、セドリック様もちゃんと皇子として励んでください」

「分かってる」


シリル様を手に入れるため。何があっても皇子に戻ってみせる。その道がどれだけ険しくても必ず。


「シリル様と結ばれるのは私だ―――絶対に誰にも渡さない」

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