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気弱なヴァンパイアハーフは多分バトルを頑張りたい〜事故物件ダンジョンで社畜しながら妹の命を救います  作者: 相木ふゆ彦
第四章 朱に交われば強くなる

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第93話 七月七日のスの実

 ヴァシリカは、華やかなムードに包まれていた。

 

 年に五回の収穫期、王族は城のバルコニーから挨拶し、他国の商人も大勢が出入りしている。

 ベアトリス王女が回復してから、閉じられていた交易は復活し、ヴァシリカの人々も活気を取り戻していた。

 

 繁華街や商店街も、ここぞと盛り上がっている。

 魔族の貴族たちがスの実を目当てに立ち寄るついでに、他の店にも足をのばす。

 国全体が、活気づいていた。

 

「アリアちゃんも、アクセサリーとか見ていく? 色々あるらしいよ」

 

「買ってみようかなぁです。ルクスさんは、どんなものが私に似合うと思いますですか?」

 

「観光もいいけど、ほどほどにね。宰相さんが、スの実を箱いっぱいつめてくれてるんだから」

 

 浮かれるルクスとアリアを、ケニーが水を差していく。

 それでも、いつも実を手に入れたら日本へ直帰だ。

 

 少しばかり脱線してもいいのかもしれない。

 露店のアクセサリーは、けして高くはないだろうがアリアとしては嬉しいだろう。

 

「ル・ク・スさま~~~~ぁぁ!! お待ちしておりました~~!」

 

 高い声が響いて、ルクスの背がギクリとこわばった。

 人の波がぱかっと開き、モーセの十戒のごとく進んできたのは、赤のゴージャスなドレスを着た若い女性だ。

 背後に護衛騎士を山のように連れていて、非常に目立つ。

 

「……お元気のようで良かったです、ベアトリス様」

 

 ルクスの言葉に、ケニーとアリアが目を見張る。

 

「この方が、ベアトリス王女?」

 

「なんか、なれなれしくないですか?」

 

 ルクスも、会ったのは魔核が外れてすぐ、ヴァシリカにとってかえして報告したときだ。

 その前は、魔核で苦しんで倒れているときしか知らない。

 こけた頬もバラ色に、華奢な体はまだ細いがだいぶ元気そうだ。

 

「さっ! ルクスさま、スの実をたくさん持って行ってくださいまし! 次にお会いするときは婚約式かしら?」

 

「……ルクスくん、まさか断り下手すぎてベアトリス様の結婚も受けちゃったの?」

 

 ケニーに疑いの眼差しを受けて、ルクスは扇風機のように首をブンブンと揺らす。

 その表情で、ケニーはベアトリス王女の一方的な感情だと分かった。

 アリアは、長身のルクスの前に乗り出して、挑戦的に腕を組んだ。

 

「ルクスさん、早く実を受けとったらユミエラちゃんのところに帰りましょうね! この国にはもう用はないですし」

 

「あら、どこの小娘かしら。わたくしのルクスさまに触らないでくださる?」  

 

「あなたのじゃありませんです!!」

 

 アリアがルクスの右腕を、ベアトリスが左腕を抱えてひっぱる。

 ケニーは面白くなってきたとばかりに、スマホで動画を取り始めた。

 

 泣きそうなルクスは、されるがままに困っている。

 大岡越前の前であれば、片方が手を離してくれるはずだがルクスは物理的に裂けることも可能な身だ。

 

「大体、ルクスさんはまだ二十四歳! 私は十九歳! お似合いのはずです~。ベアトリスさまは百十五歳じゃありませんか! 年増すぎますよ」

 

「小娘、なぜわたくしの年を……!!」

 

「私のドラゴンアイでは、年齢くらい丸見えですー」

 

 護衛騎士たちの間に緊張が走り、「言ってはならんことを……!」とささやき声があがる。

 どうやら、ベアトリス王女の禁句かつ地雷らしい。

 

「この小娘……決闘よ!」

 

「べつにいいですよ? 私勝てますし」

 

 動画を回しながら、ケニーは「侮辱罪とかじゃないんだ?」とかすかに呟いた。

 録音画面に、自分の爆笑が入らないように必死に耐えながら。

 

 ルクスはおろおろとしていたが、脱兎のごとく城へと走り出した。

 おそらく宰相カルシュテンを頼りに、逃げ出したのだろう。

 

 ケニーは動画を続けるかどうか迷いながら、ルクスを追った。

 長居をして、審判でもまかされてもしたら面倒だ。

 

「あ、ルクスさま! どちらに?」

 

「ルクスさーん!」

 

 二人を置き去りにしたルクスは、門に向かう。

 もう顔もしれた門番にすんなり城へ通されながら、ルクスはじっとりとケニーを見た。

 

 裏切り者を見るその目に、スマホを向けたケニーは耐えきれず噴き出す。

 

「なんで止めてくれなかったんですかーケニー先輩」

 

「ごめんごめん、面白すぎて。人生で一番モテ期じゃない、満更でもないんじゃないの?」

 

「とんでもないこと言わないでくださいよ。アリアちゃんは守ってくれたのかもしれないけど、火に油注いじゃって……」

 

 ルクスにとってアリアの言動は、ベアトリス王女を止めようとした嘘だと思われているらしい。

 ケニーは、アリアの不憫を思いながらもまた噴き出した。

 

「ごめんごめん、早く受け取ろう」

 

 カルシュテンは、宰相らしい服装はそのままで自ら箱を運んでくれた。

 本当は、王に拝謁してながながとお礼をきかされるところだったそうだが、カルシュテンの一存で、それを握りつぶしてくれたようだ。

 

 ルクスは、さきほどのベアトリス王女の騒ぎを伝えたのだが、ため息一つでカルシュテンは騒動を沈めることを受け入れてくれた。

 ベアトリス王女の惚れっぽさは、今に始まったことではないらしい。

 

 タイミングを見てアリアのことも、送り返してくれるそうだ。

 ルクスとケニーはシゴデキの宰相に感謝しながら、ヴァシリカから去った。

 

 こうして、予想外のガタガタが起きつつも無事に四つ目の実が手に入った。

 残るは、最後の実だけだ。

 

 十二月から始まった実探しは、もうすぐ終わる――はずだ。

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