第92話 多忙のルクス
地球に戻ってからのルクスは忙しかった。
十六体ものドラゴンを解体したり、売りにいったり、休んだ間を埋めるように残業ダイスキ部でピースメーカーの仕事に追われた。
七月七日のスの実までは、あと数日。
ルクスはグランディアにはいかず、連日事務所のシフトに入った。
社畜もいいところだが、一か月以上ヴァシリカでダラダラ過ごしていたのだ。
前半はしんどかったとはいえ、後半はわりと元気だった。
そんな罪悪感を消すために、ルクスは自主的に休みを取らなかった。
「ルクス、超高級肉ありがとな。母さんが、あまりのコラーゲンにほうれい線が消えたって喜んでた」
仕事帰りのルクスに、卯実賢人が喜々として電話をかけてくる。
誠二には、ドラゴン肉を一体分で辞退されていた。
三人家族で、ドラゴン肉を一体分消費するのは大変だそうだ。
焼くだけ焼いて調理しても、冷凍庫がいっぱいで他に何も入らないらしい。
ルクスはアイテムボックスで保管しておこうかと言ってはみたが、それも断られた。
「じゃんじゃん食べてね、またいつでも持っていくよ」
「ありがとな。でもこれ以上はいいよ。自分で倒せるようになるまでは、贅沢になれちゃうからさ」
賢人は、笑って電話を切った。
結局、十六のドラゴンのうち、ユーナ、ネオ、ケニー、アリアが二体ずつ。卯実家が一体で皮素材などは辞退。
七体のドラゴン肉はユミエラ用にとっておく。八体分の素材を誠二に買い取ってもらった。
金額はトータル五千万。
仕事を掛け持ちして、ぜぃぜぃしてた頃とは収入が違う。
ルクスは、しばらく家賃と食費の心配をしなくて済んだことに安心した。
それに、ずっとユミエラの事情を理由に事務所全体に迷惑をかけていた。
ドラゴン二体を渡して、きちんとお礼できたのも大きい。
「さて、と。久しぶりのバーニー狩りにいきますか」
ユミエラが、さすがに毎日ドラゴン肉だと高級すぎて怖いと嘆くので平原のバーニー狩りだ。
ルクスとしては、ユミエラがたべたいのなら無くなったらまた狩ればいいと思っている。
それでも、ユミエラがいわんとすることはわかるので、グランディアのゲートを潜ろうとした。
「……るくっくん?」
この呼び方をするのは、一人しかない。
ルクスががばっと振り向くと、案の定、配信者の城石深玲だ。
「みれいさ――」
しかし、隣の永続型ダンジョンに向かう一行が深玲を見て足が止まる。
ルクスと深玲を見て、ひそひそされたので慌てて二人はグランディアのゲートを潜る。
ぼやぼやしていると、写真でもとられてネットでさらされかねない。
「深玲さま、お久しぶりです!」
「ほんとだよ? ヴァシリカって国で大変だったんだってね? 連絡がかえってこないから事務所に聞いたよ?」
ルクスが青ざめる。
一件ずつ確認したつもりだったが、前半は心配した賢人が、後半は繋がらないと知りつつかけたユミエラからの通話数が履歴を吹き飛ばしたらしい。
「すみません、すみません! 無視したとかじゃなくてですね……!?」
「分かってるよー。るくっくんの性格からして、そんなことできないもんね?」
いたずらっぽい表情でクスクスと笑われて、ルクスは頭をかく。
「今日はどこいく予定だったの?」
「あ、ここの平原でレッドバーニーとブラックバーニーを」
「そうなんだ、少し見ててもいい?」
「ど、どうぞ……」
いまだに推しとはおすもので、近づいていいものではないと思っているルクスは、ぎくしゃくと動く。
深玲は、魔剣ドルトウィンに目を止めたが何も言わなかった。
「ヴァシリカのトラブルも、結局はシュラのせいだったんだよね?」
「まあ、元は別の方への呪いだったんですけど……」
ルクスは威力に気をつけながら、バーニーを狩っていく。
標的が弱く小さくても、コントロールを身に着けたルクスは軽々と倒していった。
「わたしの動画も、手のひら返しが凄いよ? シュラの犯罪行為がニュースになったら、さすが正義派の深玲って」
深玲の声は、どこか憂鬱そうだ。
ルクスについて歩きながら、平原の雑草をむしったりしている。
「……いやになっちゃいました?」
「少し。シュラが叩いてたときは、凄い勢いだったのにね」
「配信はそういうことがありますよね」
深玲は草をむしるのをやめると、勢いよく立ち上がった。
「でも、ここでやめるのは違うと思うから。やるよ? どうせならSランク探索者になりたいしね! 久しぶりに自分の原点に帰ったなぁ。……でも、るくっくんは気を付けて? シュラの関係者はみんな海外渡航もダンジョンも禁止。DESは、シュラをとらえるのに必死だよ? グランディアに行く時は、くれぐれも気を付けて。あの男、他責主義だから。ほんとうに気を付けて」
ルクスは振り返った。
深玲の目は真剣で、ひたりとルクスを見ている。
ルクスは頷いたが、その約束が守れるかどうかはわからなかった。
シュラという害悪は、もはや人々の予想の範囲を超えている。




