第91話 久しぶりの日本
「さぁ~て、ずいぶんと久しぶりよね、ルクス?」
「はい……ゴブサタしております……」
ルクスは誰に言われたわけでもなく、正座をする。
ユーナの自宅に、ユーナ、ネオ、ケニー、ユミエラが揃っていた。
アリアが不在なのは、号泣してしまったらネオのシスコンがうざいからと遠慮をしたのだ。
電話で魔核が無事に壊れたことは伝えてあるが、すでにルクスはその場で泣かれている。
「あの、迷惑をかけたお詫びにホワイトドラゴンとブラックドラゴンを……」
「そういう話じゃないでしょ!」
美しい眉を逆立てるユーナと違ってネオは首をかしげる。
「ルクスが、ホワイトドラゴンを倒したって? レッサードラゴンじゃなくて?」
「今のルクスくんなら倒せるんですよ、ネオ先輩」
「確かに、レベルは87を超えてるな……」
いくらグランディアでは成長しやすいといえど、ルクスの伸び方は異常だ。
しかし、着実にモンスターを倒して経験値を貯めていく。
もはや戦力はSランクを無事に務められる。
「そういう話してるんじゃないわよ! 一か月以上無断欠勤しておいて、事務所にまだ籍があると思ってるの!?」
「ないんですか!!?」
ユーナは、ツンとそっぽを向く。
大きな事務所ではあり得るのかも知れないが、人選にうるさいユーナがそんなことをするわけがない。
後先考えずに人助けをするのが、ルクスのいいところではあるが弱点でもある。
ひとまず散々謝らせてやろうという、ユーナなりの怒りの主張だった。
「もーしわけありませんでしたぁぁぁ!!!」
土下座で謝るルクスを十五分放置して、ユーナはゆっくりアイスティーを味わった。
ユミエラがだんだん、苦笑いから申し訳ない顔になったところで、ユーナはやめさせる。
ルクスをいじめることはよくても、ユミエラに罪悪感は持たれたくない。
ほどほどにいびってから、ユーナは足を組みなおした。
「ゲボクの分際で勝手に窮地に陥るんじゃないわよ! 分かったわね!」
「はい!!! 気を付けます!」
ケニーは苦笑し、ネオはニヤニヤと一連を生暖かい目で見守っている。
ユミエラは、先にひとしきり泣いたあとだったので、普段は見えない兄の姿に困った顔だ。
「それでーあのー、お詫びのドラゴンを……」
「まーやだ! こんなところに出さないでよ! ゲボクのアイテムボックスとは訳が違うのよ! 客間が壊れるじゃない! 解体して肉だけもってきなさいよ。あと、これアンタの留守の間の領収書!」
ユーナはルクスの扱いが分かっている。
ここで甘やかしていいのだが、ルクスの場合は負担になるだけだ。
ただでさえ休みの半分は有給扱いで、ユミエラも預かっている。
ここは、しっかりかかった経費を請求するべきだ。
「ドラゴン素材をうっぱらってからでいいですか……?」
「そこまでぼったくった請求してないわよ! あ、でもドラゴン肉は早く食べたいから、明日の仕事のあとにもってきなさいよ」
「僕も、よろしくね」
「もちろん、うちにもだ。アリアが喜ぶ」
ルクスは、ははーと頭をさげる。
卯実誠二に換金してもらったら、素材の分も支払おう。
ルクスは、ホワイトドラゴンとブラックドラゴン合わせて十六体倒してある。ノルマより、二体多い。
「一体分は解体してありますけど」
「ああ、二体まとめてよね。バラバラにしないで」
「そうだな」
「僕も、まとめてで」
ケニーの視線で、ルクスは悟った。
まずはユミエラに食べさせろということだ。
ルクスは、一度背を伸ばすと、また土下座した。
良い先輩たちである。
「お兄ちゃん、いい職場だね」
ユミエラを背負いながら、ルクスはユーナ宅を後にした。
以前のユミエラと比べると、その体は明らかに重くなってきた。
病院に連れて行った時の、紙のように軽い面影からは遠ざかってきている。
「ユミエラ、ほんとうにごめんね。実と関係ないところでこんなに留守にしちゃって」
「でも、お兄ちゃんは見過ごせなかったんでしょ? 助けた人、私みたいにやつれちゃって、しかも解決策がなかったって聞いたし……。だから、お兄ちゃんはえらいよ! お兄ちゃんの妹で良かったって思ってる」
「いやぁそれは褒めすぎだよ」
ルクスは照れながら、この一か月のことをユミエラに話す。
生まれて初めてメイドにお世話されたこと。
お風呂に入るにも護衛騎士が付いてきたこと。
魔核のことには特に触れず、ヴァシリカで国賓扱いされた話などを楽しく語る。
ユミエラは本心では、少しばかりすねてやろうと思っていたがそれを忘れることにした。
兄は、人の役にたつことを厭わない。
ユミエラの中では、土下座しようと変わりなくヒーローなのだ。
「ふふっ……」
そんな兄を、今晩は独り占めにできる。
ユミエラの微かな笑い声は、日本の夜に紛れて舞っていく。
残業ダイスキ部にも、ユミエラにも平和が戻ってきたのだった。




