第88話 デーモンモード
ケニーは、思わず呻いた。
ケニーの目には魔核がどうなっているかは、分からない。
それでも、アリアの反応を見る限りルクスについた魔核は壊れていないのだろう。
ケニーとアリアを運んでいる男性の騎士が、重そうに羽ばたく。
「どうやら、伝言は伝えられないようだ……」
「あの乱戦です、戻ってきてもらうしかないですね」
今回は、魔核の壊し方がわかっただけで良しとするべきだ。
男性騎士が、笛のようなものを吹くと、ルクスを遠巻きにしていた女性騎士は戻ってきた。
すかさず、アリアが移動させられる。
軽量化された武具とはいえ、アダマンタイト製のものを着ているのだ。仕方ない。
「申し訳ございません。お伝え出来ませんでした」
「仕方がないです。三体のドラゴンに囲まれていたんですから……」
ケニーは慰めのフォローをしたが、アリアは唇を噛む。
どうせなら、自分を落としてくれれば伝えたのに――。
眼下のルクスは、ドラゴンたちの魂を食いちぎり、暴れまわっている。
あたりは、命を食われたドラゴンが重なっていく。
「ルクスさん……」
しかし、いつもより早くデーモンモードは解けてて、ルクスが倒れこむ。
女性騎士は、すばやくアリアを男性騎士に預けるとまたひとっとびした。
ルクスを揺さぶり、ポーションをかける。
ルクスは、意識を取り戻す。
残業ダイスキ部で鍛えられた本能で、倒したドラゴンをアイテムボックスに収納した。
「いったいどうなっているんだ、あのアイテムボックスは……!」
男性騎士が、かすかに呟く。
純粋なヴァンパイアからみても、ルクスのアイテムボックスは異常なようだ。
やがて、女性騎士がルクスを抱えて合流する。
「いったん、転移だ。ヴァシリカに戻ります」
全員に転移石が配られて、いったん一行はヴァシリカに戻った。
ケニーとアリアは、またスケルトンとゾンビを警戒したが、転移先は城近くの城下町の中だった。
「あれ、スケルトンは……?」
「ああ、ベアトリス王女殿下のご快復と共に、転移場所が変わったのです」
その代わり、城の門番と衛兵は増えていて、護衛騎士とルクスたちを見ると敬礼してくれた。
城に入ると、すぐに宰相カルシュテンが出迎える。
しかし、その表情は相変わらず魔核がついているルクスに、眉が下がった。
「そんな顔しないでくださいよぉ。これでも、やっとヒビが入ったんですよ~」
「少なくとも、魔核の壊し方は分かりました。また近日中に、ヴェンデーノの谷にいかせてください」
カルシュテンは、ルクスたちが客室に戻るまで、歩きながら経緯を聞く。
魔核に効くのが毒だとわかり、カルシュテンは客室の扉を自ら開けた。
二人の護衛騎士は、会釈してその場を去る。
「魔族の国の交易都市として、色んな毒を集めてみましょう。ホワイトドラゴンやブラックドラゴンほどの致死性は少ないですが、ルクス殿に毒がきかないならば使う価値はあります」
今までは、相手が王女だった。
万一を考えると、王女には試すことはできない策だろう。
完全解毒・Sを持つルクスだからこそ、実験できる手だ。
ルクスのお腹が、ぐるると鳴る。
「ごめん、アリアちゃん食べ物なにかないかなぁ」
「ありますです! から揚げ弁当と、生姜焼き弁当と、チキン南蛮弁当がありますですよ!」
「僕もインスタント味噌汁や、野菜炒め弁当、ナポリタンとか買ってきてあるよ」
「じゃあ、生姜焼き弁当と、ナポリタンが食べたいなー」
ケニーとアリアはいそいそと、アイテムボックスから弁当を出す。
アイテムボックスのいいところは、あったまったまま保存しておけるところだ。
ルクスは、生姜焼きをよく噛んで、飲み込んだ。
「んー、デーモンモードになって分かったことなんだけど、魔核はデーモンに反応するみたいだった。デーモンモードに入った瞬間、ごっそり気力とか体力を吸われたんだよねぇ」
「やはり、デーモン用の罠だということですか」
「ベアトリス様から俺に魔核がうつったのも、多分俺の中のおやじの血のほうがおいしかったのかもしれません」
シュラは、ルクスがデーモンハーフとは知らない。
結果的に嫌がらせをうけたが、本当にたまたまだった。
ルクスは、すぐさま生姜焼き弁当を食べ終えて、箸で豪快にナポリタンをかっこむ。
――ユミエラは、こんな気持ちだったのかな。
思いをはせて、ルクスの気分は下がった。
十二歳の妹は、こんなにルクスが留守にしていて内心はどう思っているのだろう。
ケニーやアリアが、地球に戻った際にユミエラのメッセージを動画で取ってくれている。
それでも、魔核の弱点が分かり他の人間に移動しないのが分かった以上、家に帰りたい。
「宰相さま、毒を試し終わったら俺は一旦日本に戻ります」
ルクスの目に、決断がしっかり浮かんでいた。
カルシュテンは頷くと、頭を下げた。
「大変お世話になりました。毒がきくのが一番ですが――解決まで、出来るだけお力添えをさせていただきます」
ルクスは、ひびの入った魔核を触る。
けして口には出せないが、魔核を引き受けられたのがケニーでもアリアでもなく、自分で良かったと、しみじみ思いながら――。




