第84話 引きうけるルクス③
アリアは、客室で顔を洗っていた。
鏡を見ると、むくんだ自分の顔が見える。
――ブスすぎる。でも、肝心の見てくれる人は……。
ルクスが魔核を引き受けて、五日たった。
会話は出来るし、アイテムボックスなども使える。
それでも、尋常ではない汗を流し、苦しそうにのたうち回っている。
ヴァシリカの医者によると、ベアトリス王女も最初のうちは似たような症状だったという。
――時間がたつに連れて、弱っていくんだ。
ルクスに頼まれて、力づくで魔核を引きはがそうともした。
しかし、ヴァンパイアとて怪力なのだ。
そんなことは、試したに決まっている。
血を飲むかと聞いても、ルクスは人間の食べ物で構わないという。
飲めないわけではないが、自分が欲しているのはいつもの食事らしい。
ただ、肉だけは多めで欲しいと言っていた。
「なんで、料理してこなかったんだろ……」
ヴァシリカの料理人も、人間らしい料理にはくわしくない。
魔族向けのものは習得しているが、ヴァシリカには基本人間はこない。
アリアが日本でレシピと具材を買ってきて、厨房に立っているが結果は無残だ。
基本、焦げたベーコンや何故か水っぽいスクランブルエッグ。
肉じゃがは、半分溶けて鍋にへばりつき、味もなんだかへんてこだ。
それでも、おいしいと食べてくれるルクスに、アリアはさらに泣けた。
もっと練習して、簡単なレシピから作れるようにせねば。
いつまでも残飯のような食事を出すわけにいかない。
ルクスの復活のためにも、栄養のあるご飯を作れるようにならないといけない。
「よし、やるぞ!!!」
自分に喝をいれて、アリアはルクスの顔を覗きにいった。
スーパーで出来合いの総菜を買いこんで、アイテムボックスに入れてある。
練習中のアリアの料理よりはよほどおいしいので、マシになるまでは総菜を出していた。
「ルクスさん……?」
隣の客室を開けると、なにやら騒がしい。
取り乱した医者や、メイドの悲鳴まで聞こえる。
さては悪化したか、と駆け寄ったアリアは、魔剣ドルトウィンを自分の胸に当てようとするルクスと、それを止めようとするメイドとの争いを目撃した。
「あ、アリアちゃん……いいとこに……止めるのを止めさせて……?」
「ルクスさん……」
アリアはルクスのやりたいことを悟った。
体を傷つけて、魔核ごと引きはがすつもりなのだろう。
実は魔核に呪われて割とすぐに、ケニーが試みて失敗している。ルクスは意識がなかったので、知らないのだ。
「それ、ケニーさんが試してますです」
「何回やっても……いいじゃないか……」
苦し気な顔で、ルクスが微笑む。
当人は、ちょっと痛いなで済んでいるが、見ている側のほうが痛い。
アリアは説得しようとして――やめた。
ベアトリス王女に出来なくて、ルクスに出来ることは試すべきだ。
「やりましょう」
「さすが、アリアちゃん……」
魔剣を受け取り、振りかぶろうとしたアリアは突如魔剣を取り落とした。
受け取ったまでは良かったが、使おうとすると重力のように重い。
「ルクスさん、私にはこれは使えませんです。おそらく、所有者であるルクスさん以外は使えないようになってるんです」
「え……それは知らなかったなぁ……バルガンさん……シュラ対策で組み込んだ、かな……」
アリアのマナ石釘バッドは、素材を傷めずに仕留めるものだ。これには向かない。
予備の剣を出すと、ルクスは目をしばたいた。
「アリアちゃんの予備武器は初めてみるなぁ……」
「普段は、出番がありませんですから」
医者とメイドはおろおろしている。
アリアは、魔核ごとルクスの胴体をぶった切った。
すぐさま、切れた魔核を引っ張る。
ルクスも、医者たちも一生懸命に引きはがそうとするが、ルクスの体の再生と共に戻ってしまった。
「やっぱり駄目でしたね……」
「アリアちゃん……今度は、魔核スレスレに切ってみて。魔核を切らずに胴体から、剥がせない、かな……」
「はい」
医者たちはおそれをなしたようだが、アリアは再度振りかぶった。
ルクスの胴体が再び切られる。
ほとんど出血しないので、切られた断面が綺麗に見える。
アリアたちは、すれすれだった魔核を夢中で引きはがす。
怪力の三人がかりでも、魔核はぴくりともしなかった。
「ダメでした……」
アリアは泣くのをこらえて、必死に冷静な声を出す。
魔核そのものに、鋭利な剣でゴリゴリと削るのは既に何度も試していた。
一体、あとは何の手段が残されているのか。
アリアにもルクスにも、未だ解決策はわからないままだった。




