第85話 悪への鉄槌①
地球は六月に入った。
ケニーは、スマホのカレンダーを眺めた。
ルクスがヴァシリカに寝付いてそろそろ一か月になる。
「もっと、あちこちに転移して方法を探ろうかな……」
半妖コンビニは、人間のコンビニと違って暇が多い。
事情を知っているケニーの父は、コンビニのシフトも減らしてくれている。
七月七日のスの実は手に入ることは決定しているが、最後の実も魔族の国だ。
ユミエラのためにも、ルクスは出来るだけ早く、元通りになってほしい。
ユーナもあちこち、何か破壊できるようなアイテムを探ってくれているが、結果はかんばしくない。
「大事な妹を泣かすなよ……」
呟いたケニーのスマホが鳴った。
表示はユーナの名前だ。
「もしもし、社長。なにかありましたか?」
ケニーの脳裏には、先日城石深玲の事務所からの電話がある。
ルクスと連絡を取れない、と深玲が事務所に電話してきたのだ。
経緯を説明すると、引き下がってくれたが「魔核が取れたら連絡を」と言われた。
深玲はついでに、賢人にも父親を通じて話してくれたらしい。
「また城石深玲さんが……?」
「ちがうわよ! DESよ!」
「DES?」
異界安全保障省、略してDESは世界中にあるグランディア関連の政府の施設だ。
エルフであるケニーの母も、地球に移住してDESに登録をされている。
半妖ももれなくここに登録されているし、グランディアのゲートの安全や、資源なども管理していた。
「そんな、ルクスくんがDESに……」
「なにを言ってるの? シュラよ!」
「――ああ! コーネルの郷がアメリカ側と接触したんですね」
「ウチも、シュラの被害にあってるでしょ。で、あんたとポンコツはシュラがグランディアでなにしてたか知ってるでしょう。明日の午後一にウチの事務所に事情を聞きに来るから、アンタが説明して!」
アリアは未成年で、途中参加だ。
しかも、今もグランディアにいる。
「わかりました。話すだけでいいんですね」
「証拠固めは、あっちがやるでしょ。頼むわよ」
電話はすぐに切れて、ケニーはため息をついた。
シュラは、やりすぎたのだ。
それはとっくの前からだが、ヴァシリカでは王族の暗殺未遂までしている。
人間と関わらない魔族でなかったら、他の国を巻き込んでも地球に文句を言っただろう。
ドワーフの郷の出来事も、ドワーフが地球のことに詳しくなかったから隠蔽されただけ。
今までなんともなかったのは奇跡だった。
ケニーは、アリアのスマホにもメッセージをいれた。
いつまた戻ってくるかわからないが、何もしらないよりはいいだろう。
「父さん、明日は一日戻れないと思う」
品だしをする父に、ケニーが声をかけると父はにぃっと笑った。
「頑張れ、ケニー。好きなだけやってこい! うちの店は黒字だからな」
ケニーは、紙のメモ帳にフォルン村をはじめとするシュラの悪事を書き留める。
メモは長く続いた。
DESに聞けば、もしかしたら魔核のこともなんとかなるかもしれない。
***
事務所に朝早く向かったケニーは、お高めの緑茶と水出しの麦茶を用意していた。
すでに日本の気温は、暑くなってきている。
ユーナとネオが出勤してきたところで、DESの職員が二人、到着した。
「お邪魔します、異界安全保障省の日本支部の後藤とアメリカ支部のポートマンです。事情をきかせていただけますか」
夏用のスーツの二人は、地味だが目のひかりは剃刀のように鋭い。
後藤もポートマンも、熱い緑茶ではなく冷えた麦茶を美味しそうに飲んだ。
ユーナが、事務所のホームページを荒らされたことや、消された動画の録画などを見せる。
ポートマンは日本語もわかるらしい。
翻訳なく、頷いている。
「これが、グランディアであったことです」
ケニーは昨日書いたメモ帳を差し出した。
後藤がそれを読み上げていると、ネオがプロテインバーをかじるのをやめた。
「そういえば、ルクスとグランディアに行ったとき……ジャイアントオークの群れが村を襲っていたが、村人がシュラのせいだと言ってたな」
「あ……そうでした!」
ルクスから、なにかのタイミングで聞いていたが同行していなかったので忘れていた。
ポートマンは、タブレットでケニーの文字を読み取って、さらにそこに書き加えている。
「雨宮ケニーさんは、それ以外全部、その場にいらっしゃったのですね?」
「はい、現場に行って証人を見つけることもできます。毒の泉は、ルクスくんが直しちゃったので現物はないんですけど……」
「ルクスさんというのは、その魔族の国の王族に代わって苦しんでいるという……?」
「ええ、そうです。今はまだ話すことができます」
後藤とポートマンは立ち上がった。
出された手には、転移石が乗っていた。
「では、現場検証を手伝ってもらえませんか?」
「喜んで」
何故か、ケニーではなくユーナが嬉しそうに答える。
三人は、ゲートへと向かい始めた。
シュラの悪行が、とうとう明るみに出始めたのだ。




