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気弱なヴァンパイアハーフは多分バトルを頑張りたい〜事故物件ダンジョンで社畜しながら妹の命を救います  作者: 相木ふゆ彦
第四章 朱に交われば強くなる

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第83話 引き受けるルクス②

「なんですって?」

 

 朝早く出勤したケニーは、事務所でユーナとネオを待っていた。

 ユーナの逆鱗に触れると承知で、ケニーは紅茶に飾り切りのフルーツを盛って出したが、ユーナの手は机をたたく。

 

「……ということなので、ユミエラちゃんの世話をもうしばらくユーナ社長の元で……」

 

「そんなのは、いくらだっていいわよ! ゲボクはどうなるの!?」

 

「その、魔核が外れないことには……」

 

「アタシの癒しの糸は!?」

 

「アリアちゃんが使ったそうですが、無効だったそうです……」

 

 アリアは一晩ヴァシリカで過ごし、朝に一度色んなものを買いこんでまたルクスの元へ戻っていった。

 ピースメーカーギルドで、買えるだけ色んなアイテムを買ったようだ。

 好転することがあれば、すぐに地球に戻って連絡すると朝スマホにメッセージが入っていた。

 

「お金で解決するんなら、いくらでも助けてやったのに……! 自分の身をさしだしてどうするの、あのバカ! ユミエラのことも考えなさいよ!!」

 

「社長……お怒りは分かりますが……ヴァシリカの王女はまるで以前のユミエラちゃん……それ以上に苦しんでいるように見えました。たとえお金で解決したとしても、ルクスくんがそのまま放置すると思いますか?」

 

 ユーナは怒りのあまり、机をひっくり返しかねなかったが、ネオがドンと机に座る。

 

「ははは、ルクスのことだ。すぐにけろっと帰ってくるさ」

 

「馬鹿言わないでッ! いつもとわけが違うのよ!」

 

「なにも違わないさ。あいつなら帰ってくるよ」

 

 プロテインバーを頬張りながら、ネオの目が一瞬暗く光る。

 

「――そう思ってないとやりきれないだろ」

 

 ユーナは、よろよろと椅子に座った。

 時間が立ってしまった紅茶に、やっと手をつけて「マズい」とケニーを睨む。

 

 ルクスが入社する前は、お茶出しはケニーの仕事だった。

 それでも、手は覚えている。

 これは、ユーナの八つ当たりだ。

 

「ゲボクがしきりと仲良くしてた、あの人間の子も……連絡が途切れたら心配するわね」

 

「賢人くんですか?」

 

「そうそう……毎日のようにメッセージしあってたじゃない」

 

「――そうですね」

 

 ユーナとケニーのため息が重なる。

 ネオがプロテインバーをかじる、ボリボリという音が事務所に響いた。

 

「――わかったわ。しばらくゲボク抜きで仕事を割り振る。素材の回収が減って売り上げがさがるけど仕方ないわね」

 

 美貌の顔をしかめながら、ユーナはパソコンを叩く。

 

「僕が、シフトを掛け持ちしましょうか? ルクスくんほどではないけど、アイテムボックスが……」

 

「……あんたはもともと、コンビニバイトとの副業でしょ。ただでさえゲボクに付き合わせて、そっちのシフトにも影響がでてるんだから……しばらくは入れるシフトに自由に入って、そのヴァシリカと行ったり来たりしてていいわ」

 

「もしかしたら、数年かかるかもしれません。その場合は、僕とアリアちゃんで、残りの実も取りにいきます」

 

 今度は、ネオがいきなり机を叩いた。

 頑丈なつくりのものを買っていたはずだが、いよいよ壊れそうで怖い。

 

「あのバカのためにアリアを危険な場所にやらないぞ! 今まではルクスのあんぽんたんが守るって誓ってたから仕方なくだしたんだ! シュラにエンカウントしても嫌だし、あのバカがいないなら出さん!!」

 

 やっと、レベルも装備も良くなったっていうのに――ネオはぶつぶつと呟いた。

 過激なシスコンも、今まではルクスの成長に免じて出していたようだ。

 散々ないわれようだが、ルクスはネオの期待にこたえてきていたのだ。

 

「そういうこと言ってると、ほんとにアリアちゃん帰って来なくなりますよ」

 

「やめろーーー! ただでさえ、お泊りを許してきたんだぞーー!!」

 

 ネオは頭を抱えて走り出し、事務所を飛び出していった。

 おそらく、ストレス発散の走り込みかコンビニだろう。

 ユーナは、紅茶のおかわりをして眉間に皺を寄せた。

 

「ケニー、ゲボクのとこの家賃、百万って言ってたわよね」

 

「はい、口座の残金は半年分だったはずです」

 

 ルクスの引っ越しと、その費用に関するブチブチは散々聞かされている。

 引っ越した途端、ユミエラはユーナの家で預かりっぱなしでルクスはヴァシリカで倒れているが、払わないわけにいかない。

 

「そう、ゲボクのわりには貯金あったわね。残金つきたら振り込んであげるけど、あとで倍にして返してもらうわ」

 

「と、いいつつ今もルクスくんを有給にしてますよね」

 

「それはユミエラのためよ!!!」

 

 ケニーは、余計なことを言ったと後悔した。

 口は辛辣だが、優しいこの先輩には、こういうツッコミをしてはならない。

 

「いったん、またヴァシリカに様子を見にいってきます。ユミエラちゃんには、たくさんのドラゴン肉を渡してあるそうですが――」

 

「食費も、いったんは我が家でなんとかするわよ。そっちもあとでかさ増しで請求してやるんだから……だから」

 

 ユーナは、頭を抱えた。

 ケニーには、その表情は見えない。

 

「――無事に帰ってこないと、許さないんだからね」

 

 ただ、その口調だけで察する。

 ケニーは事務所を出ると、あちこちに買い物に出かけた。

 

 ルクスはまだ――無事だろうか。

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