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気弱なヴァンパイアハーフは多分バトルを頑張りたい〜事故物件ダンジョンで社畜しながら妹の命を救います  作者: 相木ふゆ彦
第四章 朱に交われば強くなる

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第82話 引き受けるルクス①

 ルクスの申し出に、ヴァシリカ国の宰相カルシュテンは首をかしげた。

 高そうな装飾品も、じゃらりと揺れる。

 

「と、申しますと……?」

 

「やってみないと分かりませんが、俺もデーモンとヴァンパイアのハーフです。呪いを代わりに引き受けるには、デーモンの血が必要なんじゃないですか?」

 

「確かに……! 可能性はあります」

 

 カルシュテンは納得したが、アリアとケニーは立ち上がった。

 

「待って、ルクスくん! 呪いを引き受けて、自分がどうなってもいいの?」

 

「そうです! 万が一があったらユミエラちゃんはどうするです!?」

 

「そこは、俺の再生能力に賭けるというか……」

 

「それを無策というんだよ!」

 

 ケニーとアリアに責められるが、ルクスも珍しくひかなかった。

 このままでは、次回のスの実も王女ベアトリスに使われるだろう。

 

 それを一部でも譲ってもらって、ユミエラだけ助かればいいのだろうか。

 自分の無駄に強い再生能力を、試してみるだけでも価値がある。

 

「――見捨てられない」

 

「ルクスさんは、バカです! 犠牲になることになれないでくださいです!!」

 

 アリアの瞳から、涙がこぼれる。

 ケニーは、深く息を吸った。

 

「わかった。そもそも、現状、それが可能かどうかもわからないんだ。やれるだけやって、駄目なら他の方法を考えよう」 

 

「ケニーさんまで!!」

 

 内輪もめをする三人をカルシュテンは黙って見ていたが、ケニーの発言に席をたつ。

 

「こちらとしては、駄目で元々。もしルクス殿が、ベアトリス王女の呪いをどうにかした場合は好きなだけスの実をお持ちください。それだけは宰相権限で、お約束できます」

 

「それなら、なんの文句もないです!」

 

 ルクスが立ち上がり、純白のコートがはためく。

 宰相によって、改めて三人は王女ベアトリスの部屋に招かれた。

 華美な装飾の部屋には、医者らしき人物と付き添うメイドがいた。

 

「こちらの方は……?」

 

「ベアトリス様と同じ、ヴァンパイア・デーモンハーフの方です。ルクス殿、いかがですか?」

 

 ベッドに倒れている少女は、金髪で十六歳ほどに見える。

 苦しさに脂汗を流してあえいでいるが、心臓の場所には赤黒く動く魔核が不気味にうねっていた。

 

 魔核は心臓から、四肢に細く管をのばしベアトリスは苦し気に呻く。

 やつれて、頬がこけている。

 

 見た目はまるで似ていないが、ルクスの脳裏には妹と姿が重なった。

 ルクスは、そっと魔核に触れる。

 

 瞬時に、魔核の管がルクスに絡みついた。

 ドワーフ製の装備を潜り抜け、ルクスの心臓部へと魔核は移動する。

 ルクスは、膝から崩れ落ちた。

 

「ルクスさん……!」

 

「ケニー先輩、王女さまにアレを……」

 

「わかった……!」

 

 アリアはルクスにすがりついて泣き始めた。

 ケニーはアイテムボックスから、血の入ったボトルを何本も取り出した。

 

「ルクス殿!! ……それは?」

 

「地球で売ってる人間の血液です、ヴァンパイアの国ということで買ってきたものです」

 

「人間の血!? そんな貴重なものを」

 

 地球では、採血のような形で血を買い取っている。

 血液型別にボトルにしてあるが、体力のあるものは副業感覚でよく買い取っているものが多い。

 ヴァンパイアハーフものの商品は、モンスター解体の血で商品が出来ているが人間の血も高級嗜好品として売っていた。

 

 魔族の国ならば、あまり手に入らないのではないかと思って買ってきたのだが、正解だったようだ。

 買ってきた血のボトルは、ケニーとルクスで半分ずつアイテムボックスに入れてきた。

 

「ドクター、これをベアトリス様に! ルクス殿は急ぎ寝室に運べ!」

 

 宰相カルシュテンは、後半は廊下に待機する衛兵へ投げた。

 

「よいか、客室の最上級の部屋へ運べ! 丁重にな」

 

 運ばれるルクスを、目をはらしたアリアが追う。

 医者は、ケニーから受け取ったボトルをベアトリスの口にそっと流し込む。

 

 喘鳴に似た呼吸は、少しずつ軽くなっていく。

 やはりモンスターの血より、人間の血のほうがヴァンパイアには栄養になるのだろう。

 

「このような準備まで、まことにありがたい……。しかし、まさかあれほど剥がせなかった魔核が一瞬でルクス殿にうつるとは思いませんでした」

 

「シュラがそこまで知っていて用意するとは僕には思いません。おそらく、たまたまベアトリス様の生まれに反応したのでしょう。そして同じ立場のルクスくんにも動いた……。もしかするとデーモン用の呪いだったのかもしれません。栄養などを奪っていた様子から、ベアトリス様からはもう搾り取る限界がきていて、生きがいいほうを選んだのかもしれませんし」

 

 カルシュテンは、軽くうなる。

 いつ死ぬかもしれないベアトリス王女が助かったのは良かったが、オーデュイン卿の息子を代わりに死なせてしまうかもしれない。

 

 ルクスが、軽く身代わりの発言をしたときも、カルシュテンは半分も本気にしていなかったのだ。

 

「助かってくれるといいが……我が国の恩人を……」

 

「僕は、ルクスくんの妹へこの状況を伝えにいかなくては……。事務所にも連絡しないといけないですし、折りをみてまた血のボトルを買って、顔を出しますから」

 

 カルシュテンは、真剣にケニーに一礼した。

 

「まことに……ありがとうございます。ルクス殿のことは、こちらでも大事にお世話させていただきます」

 

「お願いします。……彼がいないと泣く人は大勢いますから」

 

 唇を噛み締めたケニーは、ヴァシリカを後にした。

 ルクスが覚悟して受け入れたことはいえ、後味はなによりも苦かった。

 

 地球でも、もう夜中だったが月は見えない。

 

 それは、ルクスの行き先のようで不安が広がる夜だった。

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