第81話 ヴァンパイアの国②
赤いカーペットの上を、ルクスたちは歩いていた。
父オーデュインのメモ帳は返してもらい、アイテムボックスに仕舞いこんだ。
しかし、ヴァシリカで何故こんなにルクスたちが大歓迎されるのか、一向に謎だ。
ルクスたちは、スの実をわけてもらいにここにきただけだ。
しかし、ヴァシリカの面々は何かで困っていたところをルクスに助けてもらえると信じている。
何度か切り出したものの、話しが噛み合わず城のなかに連れてこられた。
「それで――お連れ様はお医者さまですか?」
「医者? いえ、仲間ですけど……」
アリアも残業ダイスキ部の事務所に入ったので、正確には先輩と後輩だ。
ヴァシリカがコーネルの郷で、たくさんルクの実を買ってたことも知っている。
なおかつ医者か? と聞かれるのは、身分の高い方がなにがしかの病気だと思われる。
「さようですか、お仲間で……。ベアトリス様のことは、オーデュイン卿から?」
とうとう、病人らしき人の名前がでた。
このまま流されるわけにはいかない。
ルクスは、カーペットの上で立ち止まる。
背後についてきた人々が、ルクスの背中にぶつかりかけながら急いで止まった。
「あの、今回きた要件は、その――ベアトリス様とは無関係で、次の七月七日に実るスの実を、買うなりなんなりで手に入れられないかの相談に伺ったんです! 俺に医療の知識はないし、多分助けられません!」
「なんと……」
ルクスと話が噛み合わない人物は、絶句した。
そうとう、ルクスがベアトリス様のためにきたと思い込んでいたようだ。
「やはりそなたの早合点か。……ルクス殿。話をしませんか?」
ルクスたちとは逆の方面から出てきた人影が、声をかけてきた。
案内人たちが揃って頭を下げている。
このひとも、なにやら身分がありそうだ。
「宰相のカルシュテンと申します。オーデュイン卿のご令息とお連れ様、こちらの部屋にどうぞ」
カルシュテンが手近なドアを開ける。
どうやら、やっとルクスたちの話が伝えられる人物に出会ったようだ。
「それで――先ほど聞きましたが、ベアトリス様とは無関係で、オーデュイン卿のご令息が、スの実のためにヴァシリカにいらしたと?」
しずしずと使用人らしき人たちが、お茶とトマトジュースを運んでくる。
一応、ヴァンパイアではない人間向けの飲み物もあるようだ。
「はい。こちらにきて、初めてなにか起きているようだと知ったんですけど……あと、コーネルの郷でルクの実も買ってらっしゃったことくらいで」
「なるほど……ちなみにオーデュイン卿と連絡は?」
「残念ながら、我が家にも何年も帰宅してないんで……俺がこうしてることも知らないはずです」
連絡がついたなら、そもそもルクスがここにくることはなかっただろう。
ケニーとアリアは会話をルクスに任せて、小声で何か話し込んでいた。
ルクスは、ぐびっとトマトジュースを飲み干す。
「宰相閣下、ベアトリス様という方は永飢病なのですか? 俺の妹もこの病気で、実を集めているんですが」
「ルクス殿、このオーデュイン卿が生み出した実はヴァンパイアを中心に様々な病気の解毒剤であり、高級栄養剤でもあり、美食でもあります。永飢病以外にも、効き目があるのですが……ベアトリス王女には効かず……そもそも、王女の状態は病気というより、呪いなのです」
貴族の娘なのかと思いきや、ベアトリスは王女だった。
どうりで、大量にルクの実を買うはずだ。
アリアが紅茶のおかわりにたっぷりミルクを入れながら、真剣に話を聞いている。
ケニーは、けわしい表情で腕を組んでいた。
「のろい、というのは……」
「ヴァシリカは、魔族の国の中で一番の交易を誇る国です。地球からも、スキルオーブを買いにくるものも多い。今は交易を閉ざして、ベアトリス王女の薬になるものだけ売り買いしていますが……オークション会場に、勇者を名乗る男が高額でスキルオーブを競り勝ったのです」
――ああ、またここでもこいつがいるとは。
ルクスをはじめ、三人ががっくりと頭を下げる。
とことん、疫病神すぎる。
「我々は、歓待しました。珍しいものはすべて買い取られ、王族の代表としてベアトリス様が挨拶に出向きました。勇者シュラは強そうだったので、縁を繋がれたら……と。その時、唯一シュラに売らなかった――よそで売約済みの絶界領域のスキルオーブを奪われたのです。王女を人質に、殺されたくなくばよこせ、と」
容易に想像できる。
シュラの、ひとのものは俺のもの精神ならば、絶対やる。
「呪いの魔核――としか言えないのですが、それを王女の体に仕掛けてシュラは逃走しました。それがもう半年以上前のことです。なんとか、国内の強者たちが魔核を引きはがそうとしたり自分の体に移そうと努力しましたが――まったくの無力でした。今は各地に使者をだして、オーデュイン卿を探していた最中だったのです。それでルクス殿たちの来訪をぬか喜びしてしまい――」
宰相カルシュテンは、深いため息をついた。
もともと青白い顔には、疲労が色濃い。
「でも、おやじがいくらヴァンパイアの薬を作ったとしても、呪いまでどうにかできるもんですかね? 今でこそ、解毒薬を作れて凄いひとですけど、十年前くらいは母を助けられなくて泣いてたおっさんですよ?」
カルシュテンは、目をむいた。
グランディアでは英雄扱いのオーデュインが、悪く言われるのを初めてきいたらしい。
ルクスとしては、解毒薬はできたもののいつまでも放浪しているばかオヤジという認識だ。
「オーデュイン卿ほど、魔法に精通している方はおりませんよ! それに……王女といっても、ベアトリス様はご側室の血を引く方。母親はバルグラッドから嫁入りしたデーモンの母を持つ、デーモンとヴァンパイアのハーフの方です。デーモンロードであるオーデュイン卿を当てにするのは、見当違いでしょうか?」
ルクスは、赤い目をぱちくちした。
グランディアで、自分と同じハーフがいるとは。
つまり、それは――。
「それって、俺が肩代わりできる可能性ありませんか?」




