第78話 ユミエラのピンチ③
大声を出したのが、いけなかった。
数体のフォレストロックタイガーが、ユミエラの細い体にむらがった。
「嵐乱斬!!」
魔剣ドルトウィンから、疾風の連撃が生まれた。
モンスターの顎が割られ、首が飛び、胴体がちぎれる。
素材を見捨てたルクスは、一切容赦しなかった。
ユミエラは、ルクスに飛びつこうとしてよろけ、座り込む。
「ユミエラ!! 怪我はない!?」
「おにいちゃ……こわかっ……」
緊張の糸が切れたユミエラが、すすり泣きを始めた。
「合流できたか。こっちはダンジョンボスを倒しておく」
ネオの声が、スマホから途切れた。
ルクスは、お礼は後回しにしてユミエラの体に傷がないが調べている。
「怪我はないね? お腹は減ってる?」
「うん……凄く」
恥ずかしそうに、ユミエラはルクスに抱き着いたまま顔を赤くした。
食いしん坊だとしても可愛いが、飢える病気なのだ。
「ここから出口まで距離があるから、一旦ルクの実と血を飲もう」
運よく、先ほど倒したフォレストロックタイガーが数体ある。
ユミエラにルクの実のリンゴを渡すと、一つ食べるだけで明らかに顔色が変わった。
そのあとユミエラが血を吸っている間、ルクスは周囲を警戒する。
結果としてダブルヘッドバード二体と、マーダートレントを一体倒した。
ユミエラが一人の時に、マーダートレントに出くわさなかったのは幸運としか言えない。
「お兄ちゃん、凄く強いんだね。ユーナさんから、最近戦うようになったーって聞いていたけど、凄く強い」
アイテムボックスを漁っていたルクスは、ユーナの室内履きを発見した。
あとでお金を払うことにして、汚れた素足のユミエラに履かせる。
サイズは大きいだろうが、なにも履いていないよりましだ。
「そう……だね……そういえば、こんな簡単に倒してる……モンスターはBランクなのに」
俺ってFランクだよね? とルクスは首を傾げた。
転換期は、一人でグランディアに向かったときだろうか。
バーニー狩りから、いつのまにかミスリルホースなどを倒せるようになった。
そして魔剣ドルトウィンをもらい、深玲とひたすらレッサーファイヤドラゴン狩りで経験値を貯めた。
ユミエラのことしか考えずに突っ込んだが、無意識にたくさん倒した気がする。
――ああ、努力しててよかった。想定とは違うけど、ユミエラのためになった。
十二月下旬に決意して、今日の五月五日までの間にどれだけ強くなったのか。
しかし、ルクスとしては今の強さは魔剣ありきだと思ってしまう。
まだまだ自分は弱い。
「ユミエラ、少しはお腹に溜まった?」
「うん、けっこうお腹いっぱいになった。こんなに生き血を飲んだの久しぶり」
病気以前のユミエラは、あまり生き血を好まなかった。
もっと、半妖らしいものを好んでいた。
今はヴァンパイアの病気のせいで、先祖帰りの状態なのかもしれない。
今頃、そんな事実に気が付いてルクスは悔しくなった。
早くレッサーファイヤドラゴンを解体して、生き血をあげよう。
そして、肉も食べさせて少しでも飢えを忘れさせよう。
「ユミエラ、出口に向かおう。背中にのって」
「うんっ!」
背中に乗せたユミエラは、記憶の中よりもかなり軽かった。
症状は改善しつつも、まだ体に筋肉が戻っていないのだ。
「よし! 行こう」
悲しい気持ちを隠すように、ルクスは元気な声をだす。
辛いのはユミエラだ。
ルクスが悲しめば、優しいユミエラは自分を責めるだろう。
幼命探知のスキルでは、このダンジョンにユミエラ以外の反応はない。
大人は、ネオのドラゴンアイで発見されているはずだ。
ルクスは、魔剣ドルトウィンで風を集めながら飛行で出口に向かう。
何度かマーダートレントが手を伸ばすも、届かずにうごめいている。
「こっちよ、ゲボク!」
「ははは、ルクスが飛んでる! どうやってるんだ?」
最奥へと進むとユーナとネオの声がする。
さっさと脱出せずに、待っていてくれたようだ。
ルクス一人ならそんな対応はないが、ユミエラの心配をしてくれている。
「せんぱーーい!! 今いきます」
ユミエラをおんぶしたルクスが到着すると、二人は笑み崩れた。
「よくやったわね、ゲボク!」
「ルクス、ここのダンジョンボスをしまってくれ」
ルクスは、ユミエラを下ろすと二人に頭を下げた。
仕事しながらルクスへ通話料の高い電話をかけ続けてくれたこと。
ナビゲーションをしながら、モンスターを倒させたこと。
二人の先輩には、負担ばかりかけている。
「ありがとうございます!!」
「ユミエラのためよ」
「そうだな。ユミエラのためだ」
そういいながら、ユーナとネオはルクスの背中を軽く叩く。
ルクスは、ダンジョンボスをアイテムボックスに詰めてから二人を追いかけた。
ユミエラの無事を確保したその足取りは、しっかりと安堵を踏みしめて。




