第76話 ユミエラのピンチ①
ルクスは鼻歌まじりに帰路についていた。
ピピピとなるスマホの音も、ルクスを祝福する音に聞こえる。
残る実はあと二つ。
最初は、どうなるのかまったくわからなかった病気を治すアイテムだが、色んなことが起きながらも終わりが少しずつ見えてきた。
ユミエラにルクの実を食べさせたら、ギルドにいってレッサーファイヤドラゴンの解体でもしたい。
ドラゴン肉は、うまみが最上級だ。
五グラムでも二万円以上するし、そうそう流通していない。
売ればもうかるが、ドラゴンは素材も高い。
それでもルクスは自分の取り分の肉は、すべてユミエラに食べさせようと思っている。
ドラゴン素材は、血さえ高級なので丁寧に解体しなければならない。
早いところ、解体して深玲に渡さなくてはならないし、卯実誠二に買い取りにも出したい。
前回の元シュラの魔石の買い取りは時間がかかっているが、明日には終わると連絡がきていた。
魔石のお金に、レッサーファイヤドラゴンの素材代も加われば、貯金はいくら増えるのだろうか。
もやしばかり食べていた生活から、ルクスの食生活もかなり改善されている。
近日中に手に入る大金に、うきうきしない人間はいない。
足取りも軽く帰宅しようとして、ルクスは棒立ちになった。
ルクスとユミエラが暮らすぼろアパートが、影も形もなくなっていた。
そこに広がるのは、ダンジョン。
立ち尽くすルクスをせかすように、スマホが鳴り続ける。
「……もしもし」
「やっとでた、ゲボク! あんたの家が突発型ダンジョンで消えたの! ユミエラを探しにアタシもネオも潜ってるから早くきなさい!」
「はい!!!!」
「――ちなみに、ユミエラとは電話が繋がらないわ。ダンジョン化の衝撃で無くしたのかもしれない」
ショックで固まっている場合ではない。
ユミエラには武器もない。
ましてや、まだ体力は戻っていないのだ。
整備をするダンジョン発生局に、ピースメーカーの証明書を処理してもらいながらルクスは、冷や汗が止まらない。
今は、ダンジョンが発生して何時間経ったのだろうか。
突発型ダンジョンの終了をしらせるブザービーターを、いつものように装備する。
六時間経過すると知らせるブザービーターが鳴ったら、突発型ダンジョンは中身ごと消えてしまう。
「ユミエラ!!」
魔剣ドルトウィンを持って、ルクスはダンジョンに駆け込んだ。
「あいつ、ほんとにピースメーカーか? Fランク記載だったが、あの装備はたけぇぞ……」
ルクスのダンジョン許可を出した職員のひとり言は、ルクスに届かず消えた。
「ユミエラ、ユミエラ、ユミエラ……! 幼命探知!」
妹の無事を祈りながら、ルクスはダンジョンを駆ける。
中はジャングルになっていて、アパートのあった面影はない。
「ルクス、中に入ったな? 僕のナビゲーション通りに動くんだ。まずは……」
ルクスの背後で、攻撃が弾けた。
魔結晶コートが、攻撃を無効化したのだ。
ルクスは、スマホをスピーカーにしてコートの中に入れる。
マーダートレントが、枝と根を手足のように攻撃してきた。
トレントは、命を持った木で周りの木と同化して奇襲してくるモンスターだ。
絡まれれば窒息死もありえる。
「はっ!!」
ルクスは、魔剣で疾風を作るとそれを斬撃化した。
マーダートレントが、弾き飛んで消えた。
特に素材にもならないモンスターなので、ルクスはネオのナビに従って進む。
十二月ごろのルクスなら、絡みつかれて泣いているところだ。
それでも、今のルクスは先を急ぐことしか考えていない。
ユミエラになにかあったら、正気ではいられない。
泣いているだろうか。
それとも、途方に暮れているのだろうか。
既に助け出されていれば、それで構わない。
ルクスは、張り裂けそうな気持のまま、魔剣ドルトウィンの力を推進力にして空を駆ける。
刻一刻、突発型ダンジョンの時は残酷に針を進めていった。




