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気弱なヴァンパイアハーフは多分バトルを頑張りたい〜事故物件ダンジョンで社畜しながら妹の命を救います  作者: 相木ふゆ彦
第三章 吸血鬼も歩けば勇者に当たる

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第75話 五月五日 ルクの実収穫

「いよいよ、ルクの実ですね!」

 

「いいの? 僕らまで……。とってくるだけでしょう?」

 

「ケニー先輩たちは、防具を受け取る約束があるでしょう?」

 

「まあ、そうだけど……」

 

「楽しみです! ドワーフの武具!」

 

 極寒のコーネルの郷で、ケニーが手袋をつけなおす。

 こんな冷たいところに、果たしてルクの実はついているのだろうか。

 いっこうに慣れない冷たさのなか、地面を踏みしめて歩いていると炭鉱に人の気配がない。

 

「こっちじゃ、おぬしらー!!」

 

 バルガンの声がして、三人は山のほうを見上げた。

 ケニーがアーマードベアを倒していたあたりが、山一帯赤く染まっている。

 雪山をのぼると、一つ一つシートで覆われている赤い実が見えた。

 

「おぬしらはよく稼いでくれた。特にケニー、おぬしにはエルフでないと倒せないモンスターをたくさん倒してくれた。しばらくは素材にこまらんわい! 実は二十個持っていくがええ。それが終わったら、アリアとケニーに防具を渡すからのう」

 

「二十個! そんなに溜まりましたかぁ」

 

 ルクスは、実を覆うシートをあける。

 そこには、熟したリンゴが光っていた。

 

「ルクの実はりんごかぁ……!」

 

「ルクスくんが、十個、ぼくとアリアちゃんで五個ずつとろう!」

 

 この寒さにもまけず、三人は手分けしてルクの実をとった。

 他のドワーフたちも、実をもいでは箱にしまっている。

 もぐ担当と、数を数えていく担当と、ドワーフたちは張り切っていた。

 

「今年はヴァシリカから大量の発注があったからな、数を間違えるなよー!」

 

「おお」

 

 夢中でどのりんごにするか悩んでいたルクスは、その言葉に頭をあげた。

 ヴァシリカは、次の実があるところだ。

 

 例によってオーデュインの酷いネーミングセンスでつけられた”スの実”がある。

 どの実も、五節ごせちの日にとれるので、ヴァシリカでもスの実の収穫をしているはずだ。

 もしかすると、ユミエラと同じような病状のものがいるのだろうか。

 

「ヴァシリカってどんなところですか?」

 

「ん? そういえば、次の実はヴァシリカか。……そうじゃな、一日の大半が夜の街じゃな」

 

「夜!?」

 

「ヴァンパイアの国じゃ、不思議はなかろうて。魔族の国は、だいたいそんな感じじゃ」

 

「ヴァンパイアの国ですか……」

 

 ルクスの声はしみじみとしていた。

 そこにヴァンパイアの病気である永飢病えいきびょうを治す実があるということは、おそらくルクスとユミエラの母であるルミリアの生まれた場所なのだろう。

 

「とれましたー! ルクスさん、この五個のルクの実、おいしそうでしょう!?」

 

「僕もいい感じのとれたよ」

 

 笑顔のアリアとケニーが戻ってきて、ルクスははっとした。

 考え事をして、取る手が止まっている。

 

 ルクスは急いで、かつ真剣に十個の実を選んだ。

 二つの実で、ユミエラは立てるようになった。

 

 三個目の実で、どのくらい回復するだろう。

 ルクスが取り終えるあいだ、足からの底冷えにケニーたちがばたばたと周辺を歩き回っていた。

 

「ん? とれたか? じゃあ、武具を渡すかのう」

 

 バルガンはご機嫌で、ルクスたちを誘う。

 雪を踏みしめながら、山を下りるとルクの実を背負ったドワーフたちが転移石であちこちに飛ぶのが見えた。

 

 このご機嫌ぶりは、そうとういい出来のものが仕上がったに違いない。

 村の中は静まりかえっている。

 

 郷の全員が、ルクの実にかかりきりなのだ。

 

 ――こういう日にシュラがこなくて、本当によかった。    

 

 ユーナいわく、プライドの立て直しとネクロマンサーとしての新しい手ごまが作りきらないうちは、シュラは動かないだろうという見立てだ。

 チートをいくつも持っているくせに、シュラは完全な安全圏から動くタイプだそうだ。

 

 それに、シュラの眷属であるゴーレムキングなどを従えるにはかなりの魔力がいるという。

 いうことを聞くようになるまでが、大変らしい。

 

 賢人からは、シュラが”誰か”に向けて復讐宣言の動画をあげたと聞いている。

 ともかくも、実が無事に収穫されたことは喜ばしい。

 

「わーー! どうですか、ルクスさん!」

 

 シルバーに輝く、女騎士といった武具を着込んだアリアがくるりと回る。

 正しくは、女勇者という感想を抱いたのだが、あのシュラが自称勇者を名乗っているのでやめておく。

 

「かっこいいよ、アリアちゃん! 深玲さまみたい!」

 

 ルクスとしては最大限に褒めたつもりだが、アリアは少し拗ねた。

 なにが間違ったのかわからないまま、黒い装備のケニーも出てくる。

 弓を扱うだけあって、手と肩まわりはすっきりとしているが軽そうだ。

 

「二人とも、アダマンタイトで作ってあるんじゃ。ルクスの魔結晶コートもそうじゃが、防寒に優れて軽量なのに固い。暑さもしのげるし、色んな場所に対応しておる。まあどんなに暴れても二十年はもつかのう。メンテナンスにきたときは、また素材を狩って貰うぞい」

 

「ありがとうございます、こんな装備、日本では作れません」

 

 ケニーが深々と頭をさげる。

 アリアとルクスも揃って下げた。

 

「全部の実を集め終わったら、俺が素材代稼いでユーナ先輩や深玲さまの武具も作ってもらおうかな……!」

 

「ネオ先輩は?」

 

「あの兄は、今の装備が壊れない限り何言っても変えませんですよ」

 

「そうそう。ネオ先輩は、こだわりとプロテインが激しいからなぁ~」

 

 バルガンはアリアとネオの仕上がりを確認していたが、ふと歯をむき出した。

 

「なんじゃ、ルクスおぬし。好きなおなごが二人もいるのか。たいしたやつじゃのう」

 

「違います!! ユーナ先輩は時には女神だけど先輩だし、深玲さまは大事な推しです! サンクチュアリです!」

 

「隠すな、隠すな。その装備でもっと強くなってもっと人気者になるんじゃぞ!」

 

 アリアの視線が謎に痛い中、ルクスたちは日本に戻ることにした。

 ユミエラが待っている。

 

 苦しい中、毎日この日を数えて。

 この、解毒のルクの実を届けなければならない。

 

 そんなルクスは、ユミエラの危機をまだ知らなかった。

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― 新着の感想 ―
オォ~ユミエラに何があったぁ。急いでルクス!
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