第74話 サプライズ②
「アイシクルランス!!」
深玲の杖から、鋭利で巨大なつららが発射される。
レッサーファイヤドラゴンが一体、胴体を串刺しになって落下した。
ルクスは、魔剣ドルトウィンを抜いて落下地点へ走る。
純白のロングコートが、風にたなびいた。
基本ソロプレイヤーの深玲だが、難易度が高いダンジョンでは他のチームとよく組むだけあって、見極めがしっかりしている。
ルクスは三メートルも走らずに、レッサーファイヤドラゴンにとどめを入れた。
――つもりだが、ダメージが足りていない。
モンスターはのたうち回りながら、しっぽを乱打する。
ルクスはよけながら、何度も切り込んだ。
しかし、一体倒すのにかかった時間は二十分。
ほぼダメージは深玲が与えているのに、ドラゴンの鋼鉄の皮をなかなか破れない。
経験値が足りていないのは分かっているが、推しのまえで情けない。
「次いくよ?」
深玲が、アイシクルランスを打ち出す。
動画で見るよりも、かなり早くて太い氷の槍だ。
新しい魔石の力だろうか。
ルクスは、風のダメージを強くイメージする。
「かまいたち!!」
切り裂き音と共に、三本の斬撃が走ってレッサーファイヤドラゴンを襲う。
素材も痛み、とどめは刺していなかったが明らかに深手を負わせている。
魔剣ドルトウィンは、明らかに成長していた。
「よさそうだね?」
「素材痛めてしまってすいません……!」
「いいよ? 卯実さんのところで買い取ってもらうし。運ぶ手間も含めて、レッサーファイヤドラゴンの素材代は半々ね?」
「五割ももらえませんよーー!! ほぼ深玲さまに倒してもらってるのに」
「だから、運搬費? いつもなら他のパーティーと来てるし、倒しても持ち帰りきれなかったから」
ピースメーカーのほとんどは、探索者の前にダンジョンに潜る。
探索者がどうやって素材を持ち帰るかを見たことがないが、ルクスは配信で知っていた。
「ああ、なぜか大きいモンスターをぶつ切りにするやつですね? そういえばなんで素材切っちゃうんだろう……丸のままのほうが買い取り金額が高いのに」
深玲がほんのり苦笑した。
半妖の多くがもつが、探索者はスキルオーブでしか買えないスキルの差だ。
「アイテムボックスの差だよ。私たちは、アイテムボックス・Sを持っていたとしてもレッサーファイヤドラゴンが二体も入ればいっぱいになってしまうからね?」
ルクスは少し考えた。
たしか、ケニーのアイテムボックスはそれくらいだったはずだ。
アリアとユーナはそれよりやや小さい。
ルクスは自分の異常性にまだ気が付いていなかった。
「るくっくんは、まだ入る?」
「たぶん、十体いれても余ると思いますけど」
以前は荷物持ちに徹していたが、レッサードラゴン系をネオたちが打ち取ったこともある。
大きさは覚えていた。
「ふふ。さすがだね、ピースメーカーの”動く倉庫”は伊達じゃないね? 充分黒字だよ? やろう」
「は、はい……!」
動く倉庫とはなんぞと思ったが、深玲の微笑でルクスは考えることをやめた。
その後も、ルクスと深玲はレッサーファイヤドラゴン狩りを行った。
五体目を越えたあたりで、ルクスは一発でとどめが入るようになった。
風の魔法にも少しずつ慣れはじめ、十体倒したところで走る速度に風を上乗せしたりするようにも出来る。
使い慣れてくると、持っているだけでパッシブスキルのように使えるようになった。
「十体はいったけど……どう?」
「まだまだ入りますね」
「ふふ、ばけものだね」
深玲の言葉は、褒めている。
これだけ協力して倒していても、ルクスはテレテレと照れた。
「次はるくっくんが倒してみる?」
「え……俺がですか? やってみます!」
深玲の前で、ルクスはかっこつけることにした。
魔剣ドルトウィンから、風のうねりが響く。
倒しても倒しても減る気配のないレッサーファイヤドラゴンに向かって、ルクスは剣先に風をこめた。
「嵐乱斬!!」
大きな質量の風が、凄まじい音をたてて放たれる。
二体のレッサーファイヤドラゴンが、胴体を二つに裂かれて落ちてきた。
「私のとどめいらなかったね? 成長したね?」
深玲は、切れ味を確認しながらニコリと笑った。
ルクスとしては、想定以上のキレあじに内心ビビっていた。
慌てて二体のモンスターをアイテムボックスに放り込むと、ルクスは時計を見た。
もうすぐ五時だ。
深玲を、休憩なしのぶっ続けにさせてしまった。
「み、深玲さま。お茶にしますか?」
「いいけど……時間大丈夫? 妹さん平気?」
ルクスははっとした。
今日は早上がりなので、ユミエラの食事を作り置きしていない。
深玲は、そんなルクスの顔色で察したようだった。
転移石を出して、小首をかしげる。
「もどろ?」
「は、はい!! すみません、色々段取りが悪くて……」
「気にしないで」
ルクスと深玲は瞬時に、ゲート前の平原に戻ってきた。
「あ、あの! 深玲さま、解体したらドラゴン肉、お渡しします!!」
「そう? そしたら、空いてる日メッセージに送って? 事務所にきてくれてもいいけど」
「は、はひっ……」
「また、遊ぼうね?」
ルクスの返事を待たずに、深玲はゲートの外に出ていく。
ふんわりと残った深玲の香水の残り香に、ルクスは立ったまま放心する。
「はっ……ユミエラとごはん!!」
ルクスが正気に戻るまで、たっぷり十五分かかった。
ゲートへと猛然と走り出したルクスを、平原の花が笑うように見送った。




