第73話 サプライズ①
そよ風が吹く、あたたかな陽気の中で剣の音が響く。
グランディアの平原で、ルクスはレッドバーニー相手に苦戦していた。
「これじゃあ、鬼哭丸のほうが強かったよぉぉ」
強く払うと風の斬撃が、レッドバーニーを打ち倒す。
「あれ? 倒せた……。まだよくわかんないなぁ、これ」
レッドバーニーの強さは初心者向けだ。
もくもくと狩っているが、そう簡単に魔剣がつかいこなせない。
魔剣ドルトウィンは、使っている人間との経験値で育つそうだが相手がレッドバーニーでは、そう簡単に育たないのかもしれない。
装備も、新しい武具に魔結晶コートを着ている。
再生に頼るくせのあるルクスは、武具にも慣れなければいけない。
事務所、残業ダイスキ部はじょじょに仕事が戻ってきた。
今日のルクスは仕事帰りである。
ドワーフたちがシュラに襲われたあとに使ったユーナの癒しの糸は、清算してきた。
本来、一本100万円する癒しの糸を10本で100万でいいと言ってくれたのは、ユーナの優しさだ。
相手がシュラによって傷ついたのも理由に入っているかもしれない。
ドワーフからアメリカ側へ抗議が入るかもしれないということは、ユーナにも伝えて喜ばれている。
「ほんとにあちこちに敵を作る人だよなぁ……」
敵ながら感心しつつ、ルクスはユミエラに連絡を入れるのを忘れていたことを思い出した。
仕事は昼過ぎに終わったのだが、魔剣試したさでうずうずして速攻ゲートを越えてしまった。
慌てて地球へのゲートを潜ると、複数の着信がきていた。
とりあえずユミエラに、グランディアでしばらくバーニー狩りだとメッセージをいれる。
不在着信に心当たりがない。
もしや、卯実誠二がもう魔石を買い取れたのだろうかと開けてみると、宛名は城石深玲。
一秒、大きく深呼吸したルクスは慌てて電話を折り返した。
「もしもし?」
「深玲さまですか!? お電話ありがとうございますっ! なにか御用でしたか!?」
「ふふ……卯実さんから内緒で聞いたけど、魔剣育ててるんだってね? 良かったら、討伐のお手伝いしようかと思って」
「え……プライベートで深玲さまと、グランディアに……?」
ルクスは手あせをズボンで拭き、再度握り締める。
これは夢だろうか。
「やっぱり……ここにいた」
スマホ越しと、真後ろから同じ声がした。
ルクスが飛びのくと、変装はしているが姫カットがトレードマークの深玲が笑顔で立っていた。
「み、みれっっ!?」
「しーっ。せっかく変装してるんだから……ね?」
こくこくとルクスは頷く。
深玲は、しっかりと武装していた。
ただ、いつもの白い甲冑ではない。
「さ、行こう。話は中に入ってから」
夢見心地のルクスは、深玲にひかれるがままゲートを再度くぐった。
「転移石があるなら、おすすめの狩場があるんだけど……」
「み、深玲さま……。いいんですか、俺と出かけるなんて……」
「さまはなし。深玲でいいよ? 今の私は大きな魔石二個、レアモンスター二体をスポンサーに売ったことになってるからね。遭難したときの損失も、少しは保険がきいてるし。なにか恩返ししようかなって」
深玲の杖は、以前と違って白い大きな魔石が上部についている。
ルクスが送った魔石だろう。
「新しい武器の試運転にもね?」
「じゃ、じゃあ……おともします、深玲さま!!」
「深玲でいいのに……」
「恐れ多いのでっ!!」
くすり、と深玲は笑った。
ルクスは、まだ推しが目の前にいることに挙動不審だ。
「じゃ、行こうか? ヒューラの山に」
「ヒューラの山、ですか……わかりました!」
ルクスは転移石を取り出した。
深玲も、石を掲げる。
「「ヒューラの山!!」」
景色が一瞬で変わった。
体感で十度以上、気温が上がった気がする。
モンスターの鳴き声がいくつもこだまし、ルクスは山を見上げた。
噴火しそうな山に、いくつもの影が飛んでいる。
ルクスの鑑定・Cが動いた。
「レッサーファイヤードラゴン、ですか!? あんな大量の」
「ぐっと経験値と素材が入るね?」
ファイヤー系のモンスターには、水や氷は弱点だ。
深玲の氷魔法がフルに活躍するだろう。
しかし、育成し始めたばかりの魔剣ドルトウィンでは心もとない。
「俺の今の攻撃力は微妙なんですが……」
「知ってるよ? だから基本私がメイン攻撃をするから、とどめをよろしくね?」
「は、はい!!! 頑張ります」
ミスリル剣は賢人に返してしまっている。
今のルクスの武器は、魔剣ドルトウィンのみだ。
シュラに勝つためには、この剣を鍛えねばならない。
ルクスは、覚悟して魔剣を握る。
レッサーファイヤドラゴンの雄たけびが、ルクスの背をビリビリと打った。




