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気弱なヴァンパイアハーフは多分バトルを頑張りたい〜事故物件ダンジョンで社畜しながら妹の命を救います  作者: 相木ふゆ彦
第三章 吸血鬼も歩けば勇者に当たる

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第71話 敵の落とし物を

 ルクスは、卯実賢人の家に訪れていた。

 賢人にお礼と、あとは誠二に素材の買い取りを頼むためだ。

 

「いらっしゃい、ルクスさん」

 

 賢人の母ともすっかりなじんだ。

 ブラックバーニーの肉を差し入れて、家にあがる。

 

 全国二位の魔導ショップの営業部長である誠二は、スーツで居間で待っていた。

 これも仕事なので、構わないそうだ。

 

「今日の買い取りは、ミスリルホースとアダマンタイトサーペントでしたね?」

 

「はい、あと謎の魔石があるんですけど……」

 

「ほう? 魔石……?」

 

 ネクロマンサーのシュラの眷属を倒したあと、あとから気が付いたものだ。

 ジャイアントオークキングは赤い魔石、デスナイトは黒の魔石、ゴーレムキングは黄色の魔石に変わっていたのだ。

 

 ルクスの拳サイズの魔石をだすと、誠二がおっと驚いた。

 

「これは……! 魔法の出力を動かしたりできる魔石ですね。しかし大きい……」

 

「たしか、深玲さまも杖の上と下に白い魔石が……でも、こんなサイズじゃなかったですよね」

 

「これだけ大きいと、買い取り価格も凄いものになりますよ……! そういえば、ネクロマンサーが大きい依り代を移すのにも使いますが、まさか……」

 

 誠二は、残業ダイスキ部とシュラのもめごと知っている。

 賢人からちょくちょくメッセージがくるため、ルクスが漏らしている情報だが。

 

「これって、もしや……?」

 

「そうですね……まあ、当人は気にせず逃走したので……」

 

 あとで歯ぎしりでもしただろうが、置き去ったからと届ける間柄でもない。

 ユーナから「責任はとってやるから売っぱらってしまえ」と後押しされてきた。

 

「あっ……もしや、買い取ったことでなにか会社に言いがかりとか……?」

 

 敢えてシュラの名前はださないが、お互いに通じている。

 誠二は穏やかにほほ笑んだ。

 

「魔石の色は、魔法をこめると色が変わるんです。前と違う色で、これはグランディア産だと言い張れば、問題ないでしょう。依り代だった気配は完全に消えてますから」

 

「それなら良かった……だったら、一個だけ深玲さまに渡してください」

 

「え……ただで、ですか? 買い取りですか?」

 

「タダで、です。外からは深玲さまがこれを持ち込んだことになってますし、一つは自分のものにしても変じゃないですよね」  

 

 半妖にはグランディアのものは素材や肉以外は買い取りできない。

 マナ石や魔石などの高価な品は、通常買い取ってもらえない。

 

 ルクスが誠二と売買できるのは、あくまで売り手が城石深玲だと名前を借りているお陰だ。

 そんなルクスは、シュラの嫌がらせが止まる前の深玲の動画が荒らされていたことを知ったばかりだ。

 

 半妖ふぜいに感謝するとは人間のプライドはないのかとか、半妖に媚びるビッチだの、散々な炎上具合だった。

 数からして、シュラ当人だけではなくシュラ信者もたくさんいたのだろう。

 

 深玲は最後まで、意見を変えずに配信の仕事をしているようだが、再生回数などはぐっと落ちている。

 今後も名前を借りる恩義に、調査員に証言してくれたりしてくれた感謝を含めて、なにか恩返しがしたかった。

 

「確かに、城石がこの魔石を使えば魔法の威力もあがり、動画映えしますね……しかし本当にいいんですか? 一つ400万くらいしますが」

 

「え、そんなに高いんですか……受け取った深玲さま、困りますかね……?」

 

「砂漠ダンジョンでの、高価な道具の遺失が響いてますからね……配信の伸びなさも含めて今はありがたいでしょうが……そうだ、ルクスさんが困ったときに城石が助けられることは助けるという約束をいれればどうでしょう!?」

 

 ルクスの返事を待たずに、誠二は電話をかけ始めた。

 ルクスは、持参したお高めのケーキをもそもそと食べる。

 電話ごしに聞こえる深玲の声に、耳をジャンボにして聞いていたが深玲はあっさりと了承した。

 

「ルクスさん、さきほどの条件でいいそうです。約束も、何度でも有効だそうです」

 

「いいんだろうか……一ファンが推しと近くて……」

 

 既にルクスは深玲と番号交換している。

 ついこの間まで、画面の中の人――仕事のときにまれに遠目で見かける存在――が、どんどん距離が近くなる。

 タイムスリップして、半年前のルクスに言っても絶対信じないだろう。   

 

「あとは、ミスリルホースとアダマンタイトサーペントですね」

 

「あ、はい!」

 

 アイテムボックスから一体ずつ出すと、誠二は床に座り込んだ。

 金策としてもってきたが、魔石がこんなに高く売れるのなら素直にドワーフに売ればよかったのかもしれない。

 

「素晴らしいですね……S級の永続型ダンジョンでもめったに取れないんですよ、特にアダマンタイトは。ミスリル系のモンスターはそこそこ出るんですが。こちらも高価買取になりますよ!」

 

「良かったです。正直、魔石が高く売れるとは思ってなくて……」

 

「全部で1千万くらいの売り上げになると思っててください! ……それに、我が社では本当はルクスさんがこうして持ち込んでいるものを城石が出していることになっていますから、城石の評価が高いのです。だから動画が炎上してもスポンサーを下ろそうという話はまったく出てきません。きちんと、支えになっていますよ」

 

 ルクスは、ほっとした。

 迷惑ばかりをかけていたと思っていたが、こうしてレア度の高い持ち込みは深玲の力になっている。

 厄介なだけではなくて、本当によかった。

 

「ただいまー、ルクスまだいる?」

 

 玄関から、帰宅した賢人の声がした。

 

「いらっしゃってるわよ。早く手を洗ってご挨拶なさい」

 

 母の声に、おざなりに返事をする賢人の前に、ルクスは飛び出した。

 

「賢人くん、ごめんっっ!!」

 

 すでに、メッセージでは経緯を説明している。

 賢人の鬼哭丸を壊したこと。

 シュラと戦ってドワーフたちが、新しくいいものを作ってくれること。

 

 それでも結果オーライで、よかったね! とはならない。

 賢人は、自分で買った鬼哭丸を、ルクスを信用して貸してくれた。

 壊してしまった以上、ルクスには謝ることしかできない。

 

「全然いいよ。あやまんないでよ……おれにとってはそんなことよりもさぁ……」

 

 ふいに賢人の瞳と声が潤む。

 泣かないように、歯をくいしばりながら賢人は必死に言葉を紡ぐ。

 

「生きててよかった……あのシュラと戦って、いぎてる……よかった……よかったぁ……」

 

 後半はもう、涙まじりだった。

 ルクスが抱きよせると、賢人は声を出して泣き出した。

 

 肩が、あたたかく湿っていく。

 ルクスは、心の底からほっとした。

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