第70話 お詫びの品②
「え、お礼の品ですか……?」
「礼と詫びじゃ。聞いたところ、おぬしが使っていた剣は借り物だそうだな。折れたものをみたがミスリルの剣じゃな。わしらなら同じミスリルでも最上の硬度を出してやれる」
日本に戻ったら謝って、同じものを賢人に買わねばと思っていた。
同じものよりいいものなら、喜んでもらえるはずだ。
「ほんとうですか!? 助かります!!」
「あとは、おぬしの装備だな。再生まかせだったが、ミスリルホースを倒しているときはきちんと回避しておったからな。多少のダメージでも壊れない装備を作らせてくれ」
「おおお……!! ありがたいです!」
「じゃが、わしらとしてはそれで終わりではない!」
バルガンとタルボは、凍った大地を揃って指さした。
「あそこに封印した魔結晶で、おぬしに魔剣を作りたいのじゃ!」
「ええーー!! 封印はどうするんですか?」
「それは……レインフォール卿を呼んで……」
「え? 親父と連絡とれるんです?」
「取れないんじゃが……」
バルガンたちの歯切れがどんどん悪くなる。
なんとしてもルクスに魔剣を作りたいのは伝わってくるが、手段は浮かばないらしい。
「うーん、もし魔結晶で魔剣を作ってくれるのであれば……俺が取りに行きましょうか?」
「なにっ! おぬしも極寒魔法が使えるのか!?」
「いえいえ。母の闇魔法はユミエラがついでますけど、俺は魔法系はからきしで」
「じゃあ、どうやってやるんじゃ」
ルクスはずたぼろの服を叩いて、笑った。
ここまでダメになっていると、この作戦は有効だろう。
「自分の足で取りにいきます。剣さえ貸してもらえれば」
ケニーとアリアは、顔を見合わせる。
二人には、ルクスの作戦がわかった。
バルガンが、前に作ったという剣を借りてルクスは凍った山のふもとへ向かう。
ドワーフたちも、さすがに酒を置いてルクスについていった。
ケニーとアリアは交代でテントに入って、ほっかいろを足す。
ここからは長丁場だ。
ルクスを見守るには、底冷えへの対策が必要だった。
「いきまーーす!」
ルクスは、極寒の中、靴を脱いだ。
その素足が、踏んだものを凍らせる呪いを踏み、膝まで凍り付いて動かなくなった。
ルクスは、そのまま反対側の足を踏み出して凍り付く。
「それで一体どうするんじゃ……」
呟くバルガンが、次の瞬間息をのんだ。
ルクスが、自分の足を切り取ったのだ。
再生して一歩進むと、また自損。
ルクスの再生は早く、切るほうが時間がかかるくらいだ。
点々と、凍った地に切られて放置された足だけが、不気味なオブジェのように取り残されていく。
「人道的じゃないのぅ」
「本人としては、画期的だと思ってると思います……誰も真似できませんけど」
ケニーがそっとコメントして、アリアが微かに苦笑した。
ルクスは、自分が傷つくことに慣れている。
そして、その分他人が傷つくことを恐れる。
自分は再生するからと、自分へのダメージを計算しない。
アリアとしては、もう少しわが身を大事にして欲しいところだ。
ルクスは、どんどんとオリジナル手法で奥に進み、最奥にある魔結晶までたどり着いた。
青と緑の魔結晶を持って、ルクスは”どっち?”という身振りをする。
「どっちももってこーーい!!」
「りょうほーーーう!!!」
風向きが、ケニーたちの方角を風上にしたので、ドワーフたちが大声を出す。
ルクスは頷きながら、上着のポケットに入れると来た道を同じ方法で戻り始めた。
ケニーは、アリアの腕を軽く引いた。
「先に戻って、ルクスくんにあったかいごはんを用意しよう? 凍傷ごとぶった切ってるんだろうけど、体はかなり冷えたはずだよ」
「はい!! 私も食料と鍋はアイテムボックスに入ってます」
バルガンの家で、狭さに首をすくめながらケニーとアリアがカレーを作っていると、唇まで真っ青なルクスが入ってきた。
暖炉は薪をたくさん入れている。
ルクスは、燃えない程度に暖炉にはりついた。
「はぁ~~~、つめたかったぁぁ。再生してるとはいえ、凍傷の感触は辛かったなー」
「それで済んでるのが、おかしいよ……」
「そうですよ、無茶ですよ」
「でも、せっかくの無料だし……」
カレーの匂いにうっとりしていると、バルガンとタルボが顔を覗かせる。
家の中は定員オーバーなので、ほんとうに顔だけだ。
「ルクス、おぬし五日後に取りに来い。魔防具と魔剣とミスリル剣、全部用意するからな」
「ドワーフ総勢でかかれば、あっという間じゃ!」
「ありがたいです~」
残業ダイスキ部でも、戦闘員として動くことがある。
素手の期間が短いのは助かる。
「あっ……五日後に返すので、それまでさっきの剣借りてていいですか?」
「構わん! ……それより、いいにおいがするな?」
「おいしそうで、しかも食べたことのない匂いじゃ」
言葉の端々から「食べさせろ」という圧がある。
ケニーは慌てた。
ケニーやアリアのアイテムボックスには、ルクスのようにバカげた量は入っていない。
ワタリの郷のドワーフたちを含めると。五十人どころじゃない量になる。
学校の給食用の鍋と食材が必要だ。
「いもと、たまねぎ、人参、肉を切って茹でてくれれば、カレールーは渡しますよ。ただし、全員が満腹になるほどは持っていません。五日後に、たくさん仕入れることは可能ですけど」
「おお! 今は全員が一口でも食べられればいいんじゃ。そうしてくれ!」
「そうじゃな、ただとは言わん。そのな二人の防具を用意しよう。ルクスのものよりは劣るが、アダマンタイトでドワーフの生粋の技をこめようぞ」
ルクスも、交渉に慣れたのか注文をだす。
ドワーフの大好きな肉はアイスブルの肉だ。
三人のカレーでは、食べ応えがないだろう。
「では、今なら激辛パウダーもつけます」
「おお、辛くできるのか!! そりゃあいい」
こうして、予期せぬカレーでケニーとアリアの分も防具ができることになった。
この日、シュラ撃退を酒の肴にドワーフの郷は祭りが始まった。
ルクスとケニーは、酒を辞退するのに必死だったが。
グランディアの夜は、平和に更けていく――。




