第66話 つかの間の平和
「今日もやっとるのー。アダマンタイトサーペントはとれたか?」
「なんとか、二体までは……」
コーネルの郷の岩山で、ルクスが汗をふいた。
アリアが、防寒着を着込みすぎて少し動きにくそうにしている。
それでも、多くの致命傷を与えているのはアリアだ。
「ほっほっほ! 炭鉱では魔鉄鋼を掘っておるし、おぬしらがミスリルとアダマンタイトを集めてくれるから作業ははかどるわい」
バルガンが、笑いながら酒をぐびりとやる。
仕事中に飲酒とは、地球では許されないが、このドワーフの郷では当たり前のようだ。
コーネルの郷にくるのは、今回で三度目だ。
地球は四月の中旬になったが、ここはいつ来ても真冬だ。
アリアは高校を卒業し、社会人になった。
正式に残業ダイスキ部の事務所に入っている。
「今日は客人がくる。珍しい酒が手に入るぞ!」
「良かったですねえ」
バルガンたちは楽しそうだが、酒と聞いてルクスの興味はがくっと減った。
アーマードベアと単独で戦うケニーを気にして、反対側の山を見ているとバルガンがしみじみとルクスを見た。
「おぬし、見たことがないほど軽装備のままじゃのう。簡単な装備を作ってやろうか?」
「それいくらになりますか??」
「おぬしは、ほんと金を気にするのう。地球の人間は、金払いは良かったが」
「地球側から、オーダーがきていたんです?」
アリアが、ホットココアを飲みながら口を挟む。
ドワーフの技術はすごい。
武器から防具から、一流のものを作る。
「お嬢ちゃんのその武器も、わしらの作品のひとつじゃな」
「兄もそうなんですけど、地球の魔導ショップで買いましたです」
「マナ石じゃな。あめりかからも、ようオーダーがきとった」
「え? ここに繋がるゲートってアメリカに近いの!? あ、でも、スキルオーブがあるなら俺も英語が話せちゃうのか」
足音がして、汗だくのケニーが現れた。
「ぼくらのスキルオーブは異世界語に対応する力だよ……アメリカは異世界じゃないんだからこのスキルあっても、なにも意味ないよ」
ルクスに突っ込んで、ケニーはテントの中にもぐった。
ドワーフの家では、思い切り手を伸ばしたり汗をふいたりすることが出来ない。
寒いが、着替えのためにこうしてテントを張っている。
「だかな……あの忌々しいシュラの装備もわしらの作ったものでな……地球からのオーダーメイドの仕事は楽しかったし儲かったが、シュラの件で地球からのオーダーは断っとる」
「アメリカのオーダーは受けても良かったんじゃ……?」
「シュラが言うとった、金はいくらでもある、とな。だったらにほんでもあめりかでもオーダー取っていたら意味はないじゃろ」
常々、あちらもこちらもシュラの被害は酷い。
地球で、ドワーフの装備が欲しいまっとうな探索者たちも多いだろう。
アメリカの土地の広さを考えれば、日本のダンジョン探索者よりお金持ちは多そうだ。
「アメリカ側には説明したんですか?」
「なにをだ?」
「シュラのせいで、オーダーメイドをやめてるって」
「……それに意味はあるのかのぅ」
「勿論、ありますよ」
着替え終わって、アイテムボックスからほかほかのコーンポタージュを出しながらケニーが口を添えた。
ルクスは、昼食にしようと自分の収納を漁り始める。
さすがに外で食べたりはしないが、ドワーフの家の中での出し入れは身長的に苦しい。
「アメリカと日本は違う国です。いくらシュラが日本の魔導ショップ一位の御曹司の子でも、アメリカでは効力はないでしょう。アメリカ側に、日本人にこうした嫌がらせをうけた、名前はシュラ・マガツだ、と言えば法執行機関がなにかの制裁がくだってシュラがグランディアに入るのを禁止できる可能性もありますよ。グランディアは、どこの地球の国にも属してませんし、植民地ではないですからね。国際法が動くかもしれません」
「ほう……おなじ地球の人間だから言っても無駄じゃとおもうてきたが、そうでもないらしいのう」
バルガンが、みごとなあごひげをしごきつつ目を輝かせる。
「実をいうと、地球と繋がってからオーダーメイドが増えてな。色んな装備を考えるのが楽しくてのぅ。やりがいがあって楽しかったんじゃ。細かい注文があっての、強ければなんでもええっちゅう奴らが多かったから、実はやりたかったんじゃ」
バルガンの理由は、ルクスのような金のも亡者のような意味ではなかった。
その刹那、バシュン! という音をたてて何者かが転移する音がする。
その場にいる全員が、武器をとって警戒態勢になった。
――シュラじゃないように。
ルクスは、無駄を承知で微かに祈った。




