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気弱なヴァンパイアハーフは多分バトルを頑張りたい〜事故物件ダンジョンで社畜しながら妹の命を救います  作者: 相木ふゆ彦
第五章 ちりもつもれば鬼になる

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第101話 肉泥棒②

 デーモンの国、バルグラッドで問題が発生した。

 肉泥棒をした少女、カナリアから父親を助けてと突然頼まれたのだ。

 

「まず、順番に話しなさい。行方不明なら役所に届け出はだしたのでしょうね?」

 

「出したよ! そしたら調査中だって言われて。勤務に出てこないならって給料も払ってくれないんだ」

 

 セバスティアンが、頭を抱える。

 どうも予想外のことが起きているらしい。

 

「カナリア、あなたの父親はなんの仕事をしているのです?」

 

「衛兵だよ! そりゃお城には入れないけど、陛下のために市民のために働いているっておとうさん言ってたんだから」

 

 セバスティアンの顔色が変わる。

 

「ハインディの娘ですか!? バルグラッドに転移してくる場所を受け持っていたハインディの?」

 

「そうだよ! 仕事に行ってから帰ってこなくて……かえって、こなく、って……」

 

 カナリアが泣き出して、アリアがハンカチを渡す。

 セバスティアンは、険しい表情で何か考え込みはじめた。

 

「カナリアちゃん、お母さんは?」

 

 ルクスが問うと、カナリアは首を振りながらますます激しく泣き出す。

 どうやら、父と娘のシングル家庭のようだ。

 

「カナリア、衛兵隊の上のトラブルであなたをそんな立場にしてしまったことを謝罪します。これは当座のお金です。これで、人から盗らずにきちんとした生活を送ってください」

 

「おとうさんは……帰ってくる?」

 

 切実なカナリアの問いかけに、セバスティアンは静かに首を振った。

 少女の涙にも屈しない、近衛最強の剣士の顔がそこにあった。

 

「あまり期待はしないように。結果が出るまで、城から人をやるので親戚かご近所の方に……」

 

「でも! おとうさん見かけたって噂聞いたんだから! あれはハインディだったって言ってる人いたもん!」

 

 アリアがカナリアの背をさすったが、セバスティアンは立ち上がった。

 目線で誘われて、ルクスはセバスティアンと路地に出る。

 

「申し訳ございません、ルクスさま。私は一度城に戻らねばなりません。せっかく王都を楽しんでいただきたかったのですが……」

 

「いえいえ。こちらは大丈夫です」

 

「ルクスさまたちが、こちらに転移してきたときに私たちがいたのは、ハインディの一件があったからなのです。謎の存在がゲート先に攻撃をし、その日の門番だったハインディが消えました。現場には大量の血痕もあり、おそらく死んだものと判断していましたが、その攻撃が我が国と戦争を望むものかどうかで審議が分かれ……。結果、衛兵隊には伏せられたままだったので、処理が後手に回ったと思われます」

 

 ルクスは、謎の存在に心当たりがあった。

 ただ、絶対にそうだという確信はない。

 

 もし――ルクスの思った通りにシュラの仕業だとしたら、衛兵だけ襲撃して果たして終わるだろうか。

 シュラにしては生易しい気もするが、手ごまを無くしてからのシュラのことはルクスは分からない。

 

「セバスティアンさん。日本人のシュラという自称勇者を知っていますか?」

 

「ああ……ヴァシリカの宰相殿からお話は伺っていますが――ルクスさまは、そのものの仕業だと?」

 

「うーん……グランディアの民をすごく嫌っているやつなので、可能性は低いんですけど……カナリアが父親の目撃証言持ってますし」

 

「あれはおさなごが、噂をうのみにしただけでしょう」

 

 もし相手がシュラなら、ネクロマンサーの力で死者を動かすことが出来る。

 しかし、シュラがこのデーモンの国にいるだろうか。

 

 亜人だ半妖だ、即死ねと騒ぐアレルギー体質が、こんなところにいるとはあまり思えないのだが。

 可能性がある限り、ルクスはカナリアを放っておけない。

 極端な話、ルクスへの腹いせという可能性もあるのだから。

 

「しばらく、バルグラッドと日本を行ったり来たりします」

 

「こちらは問題ありません。宿泊は是非、城に泊まっていってください。ついでにルイノール陛下も構っていただけると助かります」

 

「はぁ……」

 

 セバスティアンはもののついでの言うが、相手は国王である。

 なんといっていいものか、ルクスは悩みながら煮え切らない返事でごました。

 

「あまり深入りはお勧めしませんが……」

 

「そういう性格なんです」

 

 ふっとセバスティアンは笑った。

 

「カルシュテン宰相もそうおっしゃっていましたね。お怪我だけはなさらないように――ケニーさまとアリアさまは再生されませんから」

 

「はい、わかりました」

 

 敬礼をして、セバスティアンの体が浮く。

 黒くしなった翼で、王城へと飛んでいった。

 

「――シュラが無関係なら、いいんだけど……」

 

 路地からセバスティアンの背中を見送って、ルクスはひそやかに呟く。

 

 雲一つない闇の空には、なにも答えなど浮かんではいなかった。

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