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道中

 翌朝。

 今日俺はとうとうこの村か出る。

 昨日、あの後すぐに解散となり、皆それぞれの家に帰っていったが、俺は一人頭を抱えていた。

 明日出発と言われても何も準備していない。そもそも、あの宿舎においてあるものは俺の物という訳でなく、霊峰へ向かう巡礼者のための物だ。村から出るのに持って行ったり出来ない。どうしようかと途方に暮れていたら。


 「コスモさんの旅支度も私がしておきます。村長、宿舎の荷を使ってもいいですか?」


 「そうじゃな。身一つでこの村に来た此奴には旅支度もままならんか……。では、宿舎の荷を持って行ってもらっても構わん。護衛の任の報酬ということにしようかの」


 クレアの一声でそう決まった。ホント、クレア様々である。後光がさして見えた。




 ということで、俺は自分の物となった荷物を背負い込んで、朝から喧しいマルグリットと共に村の出口に立っている。


 「クレア、気をつけてね! あと、帰ってきたら町の話を聞かせてね! それと、コスモさん。クレアの事頼みます! しっかり守ってくださいね!」


 「おう。任せとけって! それにいざとなったらあの小石もあるし、大丈夫だよ。何も心配いらないさ」


 クレアに渡したテレポ小石Mk5を彼女はしっかりと持って来ている。生物相手に使えば手が血塗れになる以外は問題なく使えるし、強力なのに代わりはない。

 まあ若干? いや、かなり? 手が血塗れになる欠点を黙っているのは気が引けるけど、下手に話していざという時に躊躇われて、クレアが怪我をするのは困る。それに既にプレゼントとして上げているのに、今更欠点がありましたなんて言えっこない。クレアがそれを使う日が永遠に来ないことを切に願うだけだ。


 「あ、そうだ。コスモさん。これ、昨日の熊の肉です。ホントはもう少し熟成させたほうが良いんですけど、時間がなかったので。これは今日中に、こっちは塩を濃い目にしておいたので数日は持つと思います。道中に食べて下さい」


 そう言ってターニャは包を2つ手渡してくれた。結構でかい。皆で食えって事なんだろう。有りがたく受け取る。


 「ほう、熊肉ですか! これは良いですね。少々癖が強いですが、私などはその癖が――」


 「そろそろ行きましょうか。ターニャも留守番しっかりね」


 クレアはそう言って歩き始めた、俺も後に続く。

 町、か。どんな所なんだろうな。 オラわくわくしてきたぞ!









 その日の日暮れ。順調に一日目を終えた俺達は野営のため足を止め夕食の準備に取り掛かった。

 マルグリットはテントの設営に、俺とクレアが夕食担当だ。といっても主にクレアが作って、俺は薪を集めたりする雑用係だ。

 今夜は熊肉のシチューとパン。昼は干し肉とパンだった。

 町につくまではだいたいこの組み合わせになるとの事だ。昼に凝った食事を用意することは出来ないので、その分夜は豪勢に。しかし旅の途中で食材を大量に消費するような料理はできないので、お腹も膨れて食材の消費量も少なくて済むスープ系がメインになるとクレアが言っていた。

 俺としては、クレアのシチューはとても美味いので一向にかまわない。むしろ大歓迎。



 夕食の支度を終え、三人で焚火を囲んで夕食。すっかり、日が暮れ、空には星が瞬いている。


 「そういや、町、町、って言ってますけど、なんて名前の町なんですか? それに、どんな所か教えてもらえると有り難いんですけど」


 ずっと気になってたけど、聞くタイミングが無かったというか、誰も町の名前を言わないので聞きそびれていた。


 「町の名前はティエスト。ティエストの町ですな。領主のティエスト様が収める町でして、迷いの森ほどではないですが、霊峰のおかげでこの辺一体植物がよく育つので農業主体の町です。この国、ああ、フロール王国って云うんですがね、フロール王国の食料庫といってもいいでしょうな。町の雰囲気は農業の町だけあって長閑のどかなもんですよ。食料を買い付けに来る商人で賑わっては居ますが、中央の交易が盛んな町と比べればかわいいもんです」


 ティエストの町ね。領主のティエスト様が治める町だからティエストの町か覚えやすくていいな。


 「治安の方はどうなんです? 迷いの森には山賊が住み着いてますけど、町は危険だったりしないんですか?」


 山賊が住み着く迷いの森が近く? ……10日もかかるけど、まあ領地内にある町だ。しかも、その山賊は人を拐って奴隷として売り飛ばすという。最寄りの町がティエストの町である以上、治安の方はよろしく無いのでは。


 「ふむ。町の治安は良好ですな。領主もきっちり取り締まっておりますし。怪しい者はそもそも町の中に入れませんからな」


 怪しい者の基準がわからないけど、仮に初めて見る者って意味なら俺やクレアは町へ入れないんじゃないの?


 「あの、俺とかクレアは町へ入れますよね? 大丈夫ですよね?」


 「……コスモさん。それってどういう意味ですか? まるで私が怪しいみたいじゃないですか」


 あ、いや、そういう意味じゃないよ! 誤解だよ!


 「ハッハッハ。大丈夫、何も心配はいりませんぞ。お二人は身なりが整っておりますし、私が保証人に成りますからな。仮に門番に止められたとしても問題なく町へ入ることが出来ますよ」


 なるほど、そういう手はずになっているのか。なら安心だな。

 しかし、そうなると山賊は何処で奴隷を売っているんだろう? まさか、奴隷を連れた山賊も怪しい者に含まれないとかじゃないよな? そうであればかなりガバガバ警備だと思うんだけど。


 「怪しい物が町へ入れないなら山賊は何処で奴隷を売ってるんです?」


 「……それは、奴隷商が山賊の元に買い付けに行ってるんでしょうな。山賊は町へ入れませんが、奴隷商が奴隷を連れて町を出入りするのは当たり前の事ですからな。領主様も取り締まりを強化されておるようですが、なにぶん奴隷の見分けなどつきませんからな。こっそりやられれば見つけるのも難しいでしょう」


 「その、奴隷の売買事態を取り締まったりとかは出来ないんですかね? そうすれば山賊も悪さをする奴隷商も根こそぎやれると思うんですけど」


 「それも、難しいでしょう。奴隷は大切な労働力ですからな。王国の食料庫たるティエスト領には欠かせないものです。それに、奴隷を売るのは山賊だけではない。不作で食い詰めた村が口減らしの為に幼子を売ることもある。それに、犯罪を犯したものも奴隷として売られます。それらを管理する奴隷商が潰れてしまうのも困る。まあそういった理由で奴隷商を根こそぎ潰してしまうような政策も執れんもんですよ」


 なるほどな。この世界では奴隷が労働力の一端として機能しているのか。個人の思惑はどうあれ、それを否定することは出来ないと。


 「そうですか。一度山賊に捕まって売られそうになった身としては奴隷制度など潰れてしまえと思ったんですが、そういう訳にもいかないんですね」









 村を出てから4日目、ここまで順調に進み、そろそろ折り返し地点かという当たりにさしかかった所で事件が起きた。

 道の途中にうずくまる子供が居たのである。


 「おや? あれは……珍しいですな。どれ、ここは一つ私の腕前を披露しておきましょうかな」


 そういってマルグリットは背負っていた荷物の中から短弓を取り出して子供めがけて矢を放た。っておい! 冷静に見ている場合じゃねぇ!


 「ちょっと、マルグリットさん! 何やってるんです!? あれは子供じゃないですか! いきなり攻撃するなんて何考えてるんです!」


 「おや、コスモさんはゴブリンは初めてですかな?」


 え、あれゴブリンなの? っていうかモンスター!? 今まで熊とか兎とか野生動物しか見たこと無いんだけど、この世界にもモンスターいるの!?

 俺が狼狽えてる間にマルグリットはもう一度矢を番えて、こちらに気がついたゴブリンめがけて矢を放ち、仕留めた。


 「あれはゴブリンと言って、人の子のような大きさと見た目ですがその実、全く別の生き物で、あの大きさで成体です。放っておくとどんどん増えて、農作物を荒らしてまわるので、ティエストでは特に嫌われております。見かけたら駆除するのがこの辺の慣わしですな」


 近づいてみて見ると、背格好は子供のようだけど、肌は土気色で顔もギョロ目で大きく、人間のそれとはぜんぜん違う見た目をしていた。これがゴブリンか。


 「危険はないんですか? 集団で人を襲ったりとか、女の人を拐うとか」


 ゴブリンといえばそんなイメージが真っ先に浮かんでくるけどどうなんだろう?


 「ハッハッハ、特にそういった事は無いですな。集団で農作物を荒らされることはあっても、人を襲ったという話は聞きませんな。それに、女の人を拐う、ですか? そういった話も聞いたことが無い。コスモさんは誰からそんな話を?」


 「あ、いや、そんなイメージというか、子供の頃にそんな話を聞かされたと言うか……武装して襲ってきたりもしませんよね?」


 「ハッハ、きっとからかわれたんでしょうな。ほれ、この通り何も持っておりませんよ。武器と言っても偶に小石を拾って投げてくるくらいで、それほど脅威ではありませんよ」


 ふむ。どうやらこの世界のゴブリンは安全設計のようだ。……ちょっとだけ、ほんのちょっとだけガッカリだ。安全なのはいいことだからな不謹慎な感想は心の奥にしまいこんで他のモンスターについても聞いてみる。


 「他のモンスターですか。この辺だとオークとかトロールが脅威ですな。あれらは人を襲います。見つけたらすぐに逃げたほうが良いでしょう。しかし、人里には滅多に現れないですから、それほど心配することもないですがな。ハッハッハ」


 ……それは、フラグって奴じゃないのか? いや、深く考えるのは止そう。

 人里には滅多に出ない。だから安心。ここは人里じゃないけどな!


 「ゴブリンが駆除対象なら耳とか切り取って然るべき所へ持っていけば、お金が貰えたり……とか無いんですか?」


 「大量発生した際などは、領主から特別報償が出るらしいですが、たった一匹では出ないでしょうなあ」


 つくづくガッカリなモンスターだな、ゴブリン!





 そして、その日の夜。

 マルグリットとクレアが寝た後、不寝番――と云っても朝方マルグリットと交代するんだけど、まぁその不寝番をしている時に新たな武器の開発に取り組んでいた。

 テレポ小石Mk5は思わぬ血塗れ(バグ)によりお蔵入りすることが決まったのでその代わりになるものを作る。

 Mk4――戻ってこずに消滅するタイプに戻そうかとも思ったけど、昼間マルグリットが戦う姿を見て思ったことがる。それは、人前で使うには余りにも異質すぎるという事。下手に使って注目されるのは避けたい、何だそれはと聞かれても答えられないし。

 という事でMk2――ホーミングテレポ小石を改良し、人前で使っても怪しまれにくい新小石を作った。その名も、ミサイル小石!

 説明しよう!

 ミサイル小石とは対象をロックして投げると加速しながら追尾し、対象に当たると砕けて消えるという実にマイルドな性能に落ち着いた小石のことである! 見た目はマイルドであるがその中身はテレポ小石Mk5を作った時よりも解析が進んだことにより、高性能になっており、なんと、そこらの小石を拾って改造しなくとも腰に下げた袋を弄ることにより自動で生成され、いくらでも取り出し放題、使いたい放題となっている!

 これなら問答無用で肉を抉ることも無いし、狙う場所によって手加減することも出来るので安心だ。数に限りがあるという欠点も克服した。

 AIを作ったことにより、解析作業はかなり加速した。なにせ、四六時中、俺が寝てようと起きてようと関係なく解析が進むのである。無機物はほぼ解析が済んだので小石程度なら自ら生成することも出来るようになった。まだ見たことがないから解析できていないが、金や銀、宝石なんかも生成できるはずだ。今は植物の解析まで進んでいる。人の解析に取り掛かれる日もそう遠くないだろう。


 閑話休題。

 さっそく、実験……したいけど、不寝番でここを離れることも出来なし今度でいいか。








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