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ティエストの町

 村を出てから7日目。俺は三日前に作ったミサイル小石を試したくてうずうずしている。

 せっかく作ったのに試せないなんて! 自分で作ったものが、自分の思った通りに動く様を見るのはとっても気持ちがいい。

 それでなくても、テレポ小石Mk5の用に思わぬ血塗れ(不具合)が在るかもしれないから、ちゃんと試したい。

 試したいのにその機会がない! そりゃ、山賊やモンスターに襲われるような事が在るのは困る。困るが、ゴブリン単体や、兎くらいの野生動物が出て来てくれても……あ、いや、これじゃまるで異常者だな。小動物を虐めるのは良くない! あくまで、害獣駆除、晩飯の確保のためである。その時にちょっと試したいことがあるだけ! そういうスタンスなの!

 しかし、テストできないのは辛いな。いっそそこらの木で試そうか……しかし、旅の途中で同行者が突然、木に向かって投石し始めたらどう思う? しかも、想定通り完成していれば、投げた石が砕けるほどの豪速球である。俺なら「何こいつ? 頭おかしいんじゃねぇの?」って思うね。間違いない。

 クレアは事情を知っているので、新し小石が完成したからちょっと試したかったんだ。ってそのまま説明できるけど、マルグリットは全くこちらの事情を知らないわけだし、教えようとも思わない。

 やはりここは、ゴブリンか兎が……と、思考がずっとループしている。


 「む……、コスモさん。止まって下さい。ゴブリンのようです」


 きた! ゴブリンきた!

 ループしてた思考に下がっていた頭を上げ、前方を見るとたしかに、三日前見たのと似たような姿のやつがいる。しかも二匹も!


 「群れ……では無いようですが、ついこの前も出くわしましたな。この辺で見かけるのは非常に珍しいというのに。近くに群れでもあるのか。それとも……まあ今は詮ないことですな。どれ、今度も斃して行きましょう。といっても、私の腕ではどちらか片方に逃げられてしまうやもしれませんが」


 ハッハッハ、とマルグリットは前と同じように短弓を取り出した。


 「マルグリットさん。右側のは俺がやります。なので、狙うなら左のやつにして下さい」


 せっかくのチャンス到来なの逃せるはずがない!


 「あい、判りました! いやあ、ようやくお手並みが拝見できますな。村でお強いとお話は伺っていたのですが、何分その機会もなければコスモさんは武器の類をお持ちではないようでしたので、半ば諦め――」


 「気が付かれる前に仕留めましょう。マルグリットさんは先に攻撃して下さい。それに合わせて俺も攻撃しますので」


 伊達にここまで一緒に旅をしてきていない。流石にもう、扱いには慣れた。


 「や、そうですな。その通り、いやはやついついお喋りに夢中になってしまう。悪い癖ですな」


 ハッハッハと笑いながら「では、お先に」と言い矢を放つマルグリット。

 俺は、それを一歩下がった位置で確認し、ミサイル小石を投げる。見た目はただの投石なので隠す必要は無いが、わざわざ見せる必要もない。


 俺が投げたミサイル小石は先に放たれたマルグリットの矢を空中で追い越し、そのままゴブリンの側頭部に命中、石の砕ける乾いた音と共にバラバラになった。よし! 想定通りの動きだ! 頭に投石を受けたゴブリンはそのまま弾き飛ばされ、起き上がる様子はない。死んだか?

 すぐ隣りにいたゴブリンの頭にもマルグリットの放った矢が見事命中。こっちは間違いなく死んだだろう。


 「コスモさん、今のは石を投げたのですか? 私の矢を追い抜いて行きましたぞ! 凄まじい豪腕ですな! いやあ、とてもお強いとは聞いておりましたが、実は半分疑っていたのです。気を悪くせんでもらいたいのですがね、その、腰に下げているの木の棒じゃあ無いですか。他に武器を持っている様子も無いですし、そんな物でどうやって戦うのかと思っておったのですが、まさか投石であのような威力を出そうとは! いやはや、人は見かけによらぬと云いますが、今その事を痛いほど実感しておりますぞ!」


 「……コスモさんは山賊から逃げる時も檻を素手で壊してしまいましたからね。あの時ほど驚いたことはありません。そういう事が出来る人だと理解わかっていても、目の当りにするとはやり驚きますね」


 檻を素手で壊したのはたしかに異常に見えるけど、今回のはそれほどでもないでしょう?

 そう思ってクレアを見たら目を逸らされた。そんなに異常かなあ? ふむ。もう少し速度を下げるか……。


 「それより、マルグリットさん。俺が倒した方、ちゃんと留めまでさせたか確認してくるので短剣かナイフを貸してもらえませんか? ご覧のとおり、木の棒しかないんで」


 「ハッハッハ、あれをくらって生きているとは思えませんが、一緒に見に行けばいいでしょう」


 マルグリットは懐からナイフを取り出してゴブリンの方に歩き始めた。


 「ふうむ。これは……頭が割れておりますな。それに、首も折れている様子。間違いなく死んでおるでしょう。流石ですな!」


 はやり、少し威力が高すぎる(オーバーキル)か。苦しませずに殺れたのはいいが、もう少し速度を落として威力を抑えよう。







 これ以降特に問題もなく道程を進み、村を出て10日目の昼過ぎ。ようやく俺たちはティエストの町にたどり着いた。

 門……と言うよりはアーチというか、古い商店街の通門みたいな町の入口に門番が二人立っている。

 マルグリットを先頭に、その後ろに俺とクレアが並ぶようにしてついて門を潜ろうとすると門番から声が掛かった。

 え、俺たち怪しかった!? マルグリットは大丈夫って言ったのに!


 「お帰りなさい。マルグリットさん。今回は随分と早かったですね。それに、後ろの方たちは見ない顔ですけど、お知り合いですか?」


 「ええ、ただ今戻りました。実は麓の村で頼まれ事がありましてな。少々予定を切り上げて戻ってきたのですよ。ああ、それでこのお二方はその麓の村からの使者とその護衛でして。私が身元の保証人を引き受けたのです」


 「なるほど。しかし使者とその護衛とは。穏やかでは無い話に聞こえます」


 「ええ、なんでも、村の近くに山賊が出たそうでね。今回この町に来たのもそれを含めた相談事を領主様に陳情するためだとか」


 「なるほど。事情は判りました」


 良かった、問題ないようだ。いや、最初から問題ないって言われてたけど、実際声をかけられたらビビる。


 「ようこそ、ティエストの町へ。聞いた話ではゆっくりもしていられないだろうけど、旅の疲れを存分に癒していってくれ」


 門番二人が、杖のように地面と垂直にして持っている槍を、門を塞ぐように軽く倒した後、また元の位置に戻し、そう告げた。門は開かれた、という意味の動作なのだろう。すげーカッコ良い!

 俺が感動で足を止めているにも関わらず、二人はさっさと街の中へ入っていった。

 ええ、このロマンが通じないの!? と思っていたら門番も苦笑いを浮かべてた。なんでだよ!







 ティエストの町はまさに最初に訪れる町と言った雰囲気だ。

 程よく活気づいた通り、野菜や果物をうる人とそれを買い付けている人。

 久しぶりに聞いた喧騒に心が踊る。新しく始めたゲームをプレイしているような感覚になり、冒険心が刺激される。

 クレアも初めての光景で、お上りさんの特権であるキョロキョロを発動させている。


 「まずは、宿を取りましょう。私は、商館の方に泊まれるのですが、お二人はそうも行きませんからな。町についたらまずは宿の確保。これが旅をする上での鉄則です」


 そういいながらマルグリットはどんどん進み始める。そして、大通りを抜け、脇道に入り少しした所で立ち止まった。どうやらここが今晩お世話になる宿らしい。


 「さて、着きましたぞ。ここが私のおすすめの宿です。この宿は私が初めてこの町へやって来た時にお世話になりましてな、その時に大変よくして頂いて。いやあ、あの当時、私はまだ若――」


 マルグリットの長話が始まるかと思った所で目の前の宿の扉が開いて、人が出て来た。


 「おや、いらっしゃい……って、マルグリットさんじゃないか。またお客さんを連れて来てくれたのかい?」


 そういって出て来たのはマルグリットさんより少し若いくらいのエプロンをした恰幅のいい女性で、まさに宿屋の女将さん。といった風貌の人だった。


 「これは、ダリアさん。こちら、麓の村かやって来たコスモさんとクレアちゃんです。」


 マルグリットが紹介してくれたので軽く会釈を返す。


 「麓の村からとは、また珍しいお客さんだね。私は、ダリア。この宿屋の女将をやってるよ。よろしくね」


 「それでは、私はこれで失礼します。商館に戻ってきた旨の報告をしなければならいので」


 マルグリットは踵を返し、来た道を引き返そうとしたが、クレアが呼び止めた。


 「あの! マルグリットさん。例の件よろしくお願いします」


 例の件とは、領主に会うためのアポ取りの事だ。この町に来る途中でクレアがマルグリットに相談し、その辺の面倒を全て引き受けてくれた。

 町の者でも無いものが突然押しかけても当然会ってもらえるはずもない。その点、この町を拠点としているマルグリットは顔見知りも多く伝もあり穏便にアポ取りをすることが出来るという。

 クレアは面倒を押し付けるようで申し訳ないと言っていたが、とうのマルグリットは領主との顔つなぎが出来るなんて光栄であり、また、領主様の覚えもめでたくするチャンスでもあるので気にする必要はない。と言っていた。


 「ええ。面会の段取りが決まり次第。またこちらへお邪魔させていただきます。それまではどうぞごゆっくり」


 そういって今度こそ引き返していった。


 「さて、こんな所で立ち話も何だし、中へどうぞ」


 ダリアさんに促されるまま宿の中に入る。


 「それで、何泊するんだい? と言っても、さっきの様子じゃそれもわからないみたいだね。とりあえず、予定が決まるまでは1日毎に代金を頂戴するってことでいいのかな?」


 俺に聞かれても困る。と、クレアを見る。俺は文無しだけど、クレアは違う。村から出る時に旅費を村長から預かっている。俺の滞在費用なんかも全部そこから出ることになっている。ヒモじゃ無いよ! 領主に会うまでが護衛だし、これは経費なのさ! とはいえ、何時までも文無しってわけにもいかないし、お金稼がないとなあ。


 「ええ、それでお願いします」


 「部屋はどうする? 一部屋かい? 二部屋かい?」


 ここは護衛としてクレアから離れるわけにはいかない! それにここまでの道中、寝起きを伴に……と言っても別々のテントだったけど、まあしてきた訳で今更遠慮しあう仲でもないでしょう? それにほら、一部屋にすれば、お金も節約できるし。


 「二部屋でお願いします」


 即答だった。

 デスヨネー。







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