能力
村に来てから3日経った。
その間、俺の荒唐無稽な話を信じてくれた二人にこの世界の常識を教わっていた。
「この世界の常識と言われても、私もターニャもこの村から出たことが無いので、この村の事しか知りませんよ?」
クレアはそう言っていたけど、全く知らないより全然良いので、是非にとお願いした。
「それに、常識と言われても何を教えれば良いのか……」
それもそうだ。
突然、常識を教えてくれと言われても、はいそうですね。とはいかないだろう。漠然としすぎている。俺にだって無理だ。
なので、二人にくっついてまわり、気になたことをその都度質問するという形で教えてもらうことにした。
二人は快諾してくれたが、対外的に見れば日がな一日女の尻を追いかけるヒモ野郎だ。
醜聞がよろしくないので、山賊に拐われたばかりの二人を護衛をしている用心棒と言うことになった。因みに、このポジションに就いたのは昨日の昼過ぎで、それまではヒモと村の人達に認識されていた。ひどいっ!
他にも、何故か使える開発用コンソールについても時間を見つけて調べていた。
それで解ったのは、ダイブアウトや管理者権限の必要なシステム系のコマンドは全滅。全く使えないということ。
逆に使えるのは、オブジェクトのパラメータの呼び出しやオブジェクト自体をロードするといった、プログラミングに必要なコマンド類。
まだすべてを調べたわけではないが、だいたいそんな感じだった。
何故こんなことが出来るのかは分からない。
二人にこういった特殊な技能を持った人は他にもいるのかと聞いたら、魔術師が特殊な技能と言えるかもしれないと言われたが、話を聞く限り全然別物のようだ。
魔術についての詳しいことは二人にも解らないとの事で、その辺は別の機会に調べることにしようと思う。
何故使えるのかは分からないが、使えるものは使うべきだ。
ということで、まずそこらに転がっている小石を拾って、パラメータを表示する。
ずらずらと表示される数字と文字の羅列。
小石の位置情報、耐久値といった仮想世界と共通の数列。
そして、それに続く未知の数列。この未知の数列がこの世界特有のパラメータなんだろう。
このパラメータを解析しないかぎり、下手なことは出来ない。
パラメータとはDNA情報のようなものだ。人や動物はこのDNAの塩基配列によって、性格や顔の形、体質が決まる。DNAが変異すれば癌などの恐ろしい病気を引き起こしたりするのと同じで、パラメータをてきとうに弄ったりすれば、顔の形を変えてしまったり、腕がとれてしまうといった悲惨な事になりかねない。
拾った小石のパラメータを全て削除してみる。
小石が消え去った。まるで最初から何もなかったかのように。
もしこれが人だったら? ……絶対に試せない。しかし、強力な力なのは確かだ。
パラメータを書き換えた事によって起こる結果をちゃんと把握できればこれ以上に強力な武器もないだろう。
解析は地道な作業だ。
まず、パラメータのパターンを集積して、おおよその検討を付けていく。そして少しずつ数字を書き換えて、どうなるか確かめる。
最初は小石のような無機物で。その次は植物、そして、動物、最後に人。DNAの解析や医薬品の治験のように少しづつ確かめていくしかない。
早速、解析為の準備をする。
解析に必要なパターンを収集するAIを作成。と言っても0からAIを作成するには膨大な時間と労力が必要になる。なので既にあるものを流用して作る。翻訳AIだ。
このAIにはネットスラングやゲーム固有の用語を集積・学習データとして記憶する機能が組み込まれているので、その部分を流用してパラメータ集積用AIを作成する。
とはいえ、そこら辺に転がってる小石やら植物のパラメータを片っ端から収集するような事をすればすぐに学習データが膨れ上がってパンパンになるだろう。
解析のためには沢山のサンプルが必要になるとはいえ、多すぎるのも考えものだ。
そこで制限をつける。
まず俺の視界範囲内に限定し、無機物や植物は俺が注視した時のみ、動物や人は視界に入れば自動的に収集するように設定する。
よし、出来た。さっそくロードする。エラーは……出ないな。よしよし。
消してしまった小石の代わりに、もう一つ小石を拾ってじっと見つめる。
すると、小石にパラメータ取得中とポップが表示され、しばらくして取得完了に切り替わり、消えた。完璧だ。
暫くの間は色々なものを睨みつける日々になろうだろうな。
AIが完成した後、集積がてら散歩をしていたら後ろから声をかけられた。
クレアとターニャだ。
何気なく振り向いて二人が視界に入った途端、表示される取得中の文字。
取得したパラメータの中には二人のスリーサイズなんかも含まれてるんだよな……。ゴクリッ。
若干の後ろめたさを感じる。しかしこれは解析のためなのだ! しかたのない事なのだ。許せ! 決して悪用はしない! それに、意味がわからなければ単なる数字の羅列だ。それで興奮するほど俺は上級者じゃない!
女友達の家に招待された時、室内に干されていた下着を見つけ、あれは布、単なる布……Dくらい? と心の中で唱える時のように自分に言い聞かせた。
「コスモさん。これから森に野草を採りに行くんですけど一緒に行きますか?」
勿論行きますとも。
三人で一旦宿舎まで戻り、現在唯一の武器である例の木の棒を持って森に向かう。
木の棒は最初の状態、つまり耐久値MAXのただ硬いだけの状態に戻した。
撲った相手に衝撃を加えるという処理がどのような影響を与えるのか不明な今、そのままにしておくのは危険過ぎる。撲った山賊はちゃんと目覚めただろうか? まぁ山賊なので例え死んでしまっていても咎はないだろう。たぶん。
森の中でも集積のために片っ端から見つめていく。木、草、草、草、花、草、小石。
表示されては消えていくポップ。一度に沢山集積すると視界がポップで埋まりそうだな。
「? どうしたんですか? 何か見つけました?」
集積の為にキョロキョロしていたらターニャに声をかけられた。不審だったかな。
「何でもないよ。一応護衛だからね。それっぽく周囲を警戒してみようかと思って」
二人には全て話しているので誤魔化す必要はないけど、集積や解析についてのことを全て説明するのは難しい。なので逸らかす。下手に説明して二人のパラメータも収集したことがバレたら怒られそうだとかじゃない。違うからね!
「そうですかー。頼りにしてますね」
任せておけ! って感じにサムズアップを返すとターニャはニッコリ笑って野草採りに戻っていった。
日暮れ前、特に何事も無く野草採りを終え、村まで戻ってきた。
夕食の支度をする二人と別れ、宿舎に戻る。
護衛役として森についていった時気がついた事がある。今の俺はとても弱いということ。
木の棒のパラメータを戻したので、撲っただけで相手を無力化する事ができない。
武術の類を習ったはなく、あるとすればこれまで遊んだり、開発してきたVRゲームで培ったなんちゃって剣術。ゲーム的なステータス補正もない今、見た目通りの強さだろう。
せめてもの救いは現実世界の中年ぽっちゃりボディでは無かったことか。
肉体的には若いので鍛える事は可能。パラメータの解析が終わればステータスを底上げして更に強くなることも出来るだろう。
しかし、どちらも時間がかかる。今すぐには無理だ。
いつ、また山賊に出くわすか判らない以上、早急に対策をとる必要がある。
どうする? やはり武器を調達するか。
近接武器は木の棒があるので、遠距離から攻撃できる武器が良いな。
ということで武器を調達することにした。
第一候補は、弓。構造が単純で材料さえ有ればすぐに作れる。ゲームにも良く登場する武器なので使ったこともある。しかし、肝心の材料が手元にない。明日用意するとして、その明日のための武器を今から作る。というか拾う。小石だ。
解析の第一候補でもあるので拾っておいて損はない。
宿舎の周りの小石を拾い集めていたらクレアが夕食を持って来てくれたので、切上げて宿舎に戻る。村に来てからずっと夕食はクレアのお世話になっている。昼食はターニャに、朝食はない。村にその習慣がないのと、元々朝は食べない派だったので問題ない。
クレアに貰ったスープとパンを平らげ、集めた小石を使って実験する。クレアは夕食を置いたらすぐに家に帰ったよ。仮に二人で夕食なんてことになったらそんな雰囲気に耐えられる気がしないからこれで良いんだよ! 寂しくなんかないさ!
閑話休題、実験だ。
拾った小石をテーブルにばら撒き、パラメータを書き換えていく。
まずは仮想世界と共通の部分である、位置情報や耐久値の項目。
一つの小石の位置情報を記憶し、移動させる。その後、位置情報を書き換えてみる。
すると、小石は消え、元の場所に現れた。まさに瞬間移動だな。
今度は、別の小石の位置情報と同じにする。
やはり小石は消え、別の小石があった場所に現れる。元あった小石にめり込んでいるように見えるが、どうなってる? 詳しく見るために持ち上げてみると、小石が割れた。
条件を変えながら何度か試してみると、どうやら重なった部分とそうでない部分で割れているようだ。で、重なった部分はどうなったかというと、耐久値の高いほうが残り、そうでない方は消滅しているようだ。何それ怖い。
でもこれは使えるな。俺は残った小石を集めて、早速小石の改造に取り掛かった。
朝になり俺は宿舎を出て、森に向かった。改造した小石の実験をするために。
周囲に人がいないことを確認してから小石を取り出す。
名づけて、テレポ小石。
投げつけて何かに当たると、当たった場所から更に小石一個分奥に瞬間移動し、その後消滅する。端的に言えば、当たった場所をえぐり取る小石だ。
1回使いきりなのは辛いけど、もし敵に回収されて使われでもしたら目も当てられないので仕方がない。一度しか使えない欠点は数でカバーする。材料はいくらでも手に入る。
ただ、小石とはいえ数を持とうとすれば嵩張るのでそんなに大量には持てない。まあ100個も200個も必要な事態になることはないだろう。10個ほど袋に入れて腰にでもぶら下げておけばいい。
さあて、コスモ選手! 木を狙ってぇ……投げたぁ! 木に向かってぐんぐん飛んでいく小石! さあ、木に当た、らない! なんと! 投げた小石は木の脇を通りぬけ、森の奥に消えていった。
……うん。まあこういうこともあるよね。気を取り直して、もう一回!
その後何回か試して、ちゃんと機能することが確認出来た。小石が当たった場所が見事にえぐれている痛々しい木が残っている。しかし、用意したテレポ小石は全て投げ切ってしまったな。ノ、ノーコンじゃねーし! 用意した数が少なかったんだよ!
さ、さて、テレポ小石も使いきってしまった事だし、思わぬ弱点も発見できたので戻って更なる改良に取り掛かろう。はやりテストは重要だな!




