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どうなってんだ!?

 さて、ようやく脱出だ。


 問題は、簡単には壊れてくれそうにない頑丈な作りの檻と、洞穴の入口付近で寝ずの番をしている二人の見張り。

 これがちゃんとしたゲームなら、鍵をピッキングで開けるとか、見張りを懐柔して開けさせるとか、色々な脱出方法が用意されていて、それを一つ一つ試したり、意外な脱出方法を見つけたりするのが楽しい。

 セーブして何回も遊ぶイベントだと思う。


 これだけ凝った悪戯を仕掛けた奴だ。ここでもよく探せばそんな脱出方法が用意されてるかもしれない。

 色々試してみたい誘惑に駆られるけど、セーブして安全策! とか出来ないので失敗すれば大惨事になるのは目に見えている見張りの懐柔は論外。

 正攻法ですぐに思いつくのは、鍵をピッキングで解錠する方法だけど、ピッキングツールもなければ、代替出来そうな針金のような物も無い。

 探そうにも、離れた所に火が焚いてあるとはいえ、夜の洞穴では殆ど見えない。

 クレアとターニャが髪飾りとかつけてたらと思ったけど二人共装飾品の類は身に付けてる様子はない。


「クレア、鍵の代わりに使える細くて丈夫な物を持ってませんか?」


「私もターニャもそういったものは全て取り上げられてしまいました」


 そう言って首を振られる。一応聞いてみたけどやっぱり無いか。

 なら壊すしか無い。こっちには耐久値MAXの木の棒がある。こんな檻簡単に壊せるぜ!

 ……とはならない。


 チタンと鉄の棒をぶつけ合っても簡単に鉄の棒が折れたりしないように、この木の棒がいくら丈夫でも檻を簡単には壊せない。

 何度も叩いてりゃそのうち壊せるだろうけど、そんな派手な方法では山賊にバレて俺も叩かれる。却下だ。


 じっくり正攻法で脱出している時間は無い。さっさと脱出して何処までこのイベントが続くのか見てみたい。

 なので、卑怯ではあるが奥の手を使う。木の棒の耐久値をMAXに書き換えたように、この檻の耐久値も書き換えて、すぐに壊れるようにする。……開発者泣かせの所謂チート行為ってやつだけど、正規のゲームでもないし、見逃して下さい! と、心の中で自分に土下座する。

 許可が出たので、早速書き換える。耐久値ゼロ……は自壊しそうなので、木の棒の元の耐久値くらいにする。つまり、手で捻ればぺきりと折れるくらいの丈夫さだ。


 地図はクレアと会話中に完成している。ダイブしてからフラフラと歩きまわった跡がしっかり表示されている。

 檻から出る算段もついた。ペきりとやればいつでも脱出できる。


 残るは山賊の見張りだけだ。

 途中で襲われたので変更できなかった木の棒の攻撃力を上げて一気に斬り伏せる?

 それは無いな。流石に無粋だろう。

 このイベントは脱出、ステルスアクションだ。となれば敵は不殺が基本。強行突破も嫌いじゃないけど、奥の手まで使って穏便に進める方法を模索しといて、敵は殺すなんて俺には出来ない。

 脱出するのが自分だけなら全てをふっ飛ばして無双するのも楽しいけど、今回は護衛対象がいることだし、見張りも不殺で処理してパーフェクトクリアを目指したい。


 見張りの配置は洞穴の出入り口に左右に一人づつ、外側を向いて座っている。会話してるらしく顔はお互いの方を向いている。

 見張りの視界を掻い潜って脱出は無理そうだ。無力化するしかない。でもどうやって無力化する?


 やはりここは武器(木の棒)に頼るしか無いか……。

 まず、自分の腕を叩いてみる。ぺしんといい音が鳴る。そして痛い。

 見張りの一人が音に反応して、ちらっとコッチを見たけど大丈夫。焚き火のそばにいる奴らからはコッチは闇に包まれて見えないはず。

 しかし、隣のクレアからは訝しむような顔を向けられた。笑ってごまかす。ターニャはビクッっとして顔を上げた。おはよう。

 腕を叩いたことで自身の行動ログに、発生したストレスが記録される。ストレスと言っても精神的苦痛の方ではなく、応力、つまり力学的なほうのストレスだ。

 この世界(VRワールド)は初期化したばかりなので、俺の身体(アバター)にはHPやMPといったゲーム的パラメータは設定されていない。

 しかし、立ち上がったり歩いたり、物に触れた、触れられた等の感覚がなければ仮想世界は成り立たない。

 仮想世界を成り立たせる為に最低限必要なパラメータの一つがストレスだ。

 実際にゲーム化する時は、このストレスと攻撃力やら防御力とかといったゲーム的パラメータを使ってダメージ計算したりして、フィードバックする痛みの(ペイン)値を書き換える。といった処理をする。


 閑話休題。


 腕を叩いたことで発生したストレス――ダメージ値を参考にして、木の棒のパラメータを書き換える。

 腕を叩いた以上のダメージ値が発生した時、相手にフィードバックされる値に凄まじい衝撃力を加えるようにする。

 物理演算は発生した応力をそのまま使用するので、この棒で殴ったら敵が吹っ飛ぶなんてことは起きないけど、相手はトラックにでもはねられたような感覚に陥る。

 俺は、顎を殴られた衝撃でブラックアウトを起こしたが、NPCだって例外じゃない。衝撃力を減衰して平常値に回復するまでは起き上がれなくなるはず。つまり朝までぐっすりだろう。

 因みに、腕を叩いた以上のダメージ値としたのは、ちょっと触れただけ、気絶(ブラックアウト)しないようにするため。


 よし! 武器完成。脱出決行だ!






 出来るだけ気づかれないように小さく、コンパクトに行動する。

 まず、檻の開閉部分を掴んでぐっと押す。あっさりと壊れ、簡単に開く檻。

 見張りには気付かれてない。寝ている山賊も起きだしてくる様子もない大丈夫。

 さっと檻を出てクレア達が入れられてるもう一つの檻の前に屈む。


「今から檻を開けますが、俺が合図するまでは二人共じっとしていて下さい。いいですね?」


 目を見開いて驚いてる様子のクレアとターニャが頷くのを確認してから更に続ける。


「俺が合図したら入り口まで静かに移動して下さいね」


 そう告げて、俺は檻を掴んで同じように壊し開けてから見張りに向かって移動する。

 木の棒を逆手に持って、背中側で構え、腰を低くし、そろーり、そろーり。気分は忍者。ニンニン!

 向かって左側の見張りの背中まで後3歩! って所で一旦止まって様子を見る。大丈夫、バレてない。右側にいる見張りが少しでも首をこちらに動かせばすぐにバレそうだけど。襲いかかるタイミングを図る。


「ったく、夜の迷いの森だぜ? 誰も来やしねぇよ。なんだって、見張りなんか立てる必要があるんだよ」


「……確かに人は来ないだろうが、ケモノは判らんだろう。熊を見たって報告があったんだ。用心に越したことはない」


「熊の寝床に洞穴ってか。それにしたって他のやつと代わってもらいたかったぜ。気絶したヤローを運んで疲れてんのによ」


「お前が、気絶させたんだろう。自業自得だ。それにお前、この前も理由をつけて見張りをサボったろ。誰も代わっちゃくれねぇよ」


「……ッチ」


 そう言って右側の見張りがゴソゴソと動き出した。

 ヤバイ、バレる! そう思ったが奴は足元から液体が入った革袋を拾い上げ口に運んだ。

 チャンス!


 右側のやつが革袋から何かを飲んでいる隙に、目の前にある見張りの背中に斬りかかる!

 確かな手応えと、鈍いべっちという音と共に崩れ落ちる見張り。


 逆手に持って振り抜いた木の棒をくるっと回して順手に持ち替え、右側の見張りに向かって一歩踏み込み、そのまま振り下ろす!

 革袋を煽ったままコッチを向いた奴の額に棒の先端がクリーンヒット! 白目をむいて崩れ落ちた。


 南無。


 俺を殴ったのはコイツか。まぁいいこれでチャラにしてやろう。倒れた奴の後頭部を木の棒で軽く叩く。鈍痛(にぶいた)い良い音がした。






 ふり返ってクレアとターニャに手招きをする。こちらからは見えないが向こうからは見えているはずだ。

 何かが動く気配がしてすぐに壁伝いに歩いてくるクレアとターニャが見えた。

 他に動き出す気配はない。大丈夫そうだ。もし起きだしそうなら片っ端から(なぐ)って回ろうかと思ったけどその必要なないだろう。命拾いしたな!


 洞穴から出て来たクレアとターニャに問いかける。


「二人はなにか取り上げられたと言ってたけど、回収はどうする?何処にあるかわかる?」


「いえ、盗られて困るような大切なものは何もなかったので、必要ありません」


「そうか、なら脱出しよう。二人共逸れないように、付いて来て下さい」


 そう言ってマップを頼りに歩き出そうとした所で後ろからクレアに話しかけられた。


「あの、手を。逸れないように手を繋いで下さい」


 別に多少離れても二人の位置もマップに表示するようにしたので問題はない。問題はないが、手を繋ぐ。

 触れ合いは大切。例え相手がNPCであっても触れ合えば感じるものがある! 手の柔らかさとかな!

 クレアの手を取ったらギュッと握り返されちょっとドキッとしたけど平常心! そんな素振りは見せずに歩き始める。

 ターニャはクレアの反対側の手を握っている。俺の手はクレアと木の棒で埋まってるから仕方ないね。残念とか思ってない。


 しばらく、会話もなく無言で歩き続ける。

 しかし、ほんとに暗いな。全然見えん。

 マップのおかげで道筋は分かるけどソレ以外、生えてる木とか障害物の位置がわからない。

 木の根っ子や石に躓いて何度も転びそうになる。洞穴から松明を失敬してくればよかった。


「あの、本当に大丈夫なんですか?」


「大丈夫。暗いけど、道筋は見えてる。迷ってないよ」


 クレアは心配症だなあ。とは流石に言えないか。俺の視界にはマップやら開発用コンソールが表示されてるから真っ暗! って感じが多少は軽減されてるけど、普通はそんなもの見えないからこの状況だと完全な暗闇状態。怖いし不安になるよな。


 それにしても反応が人っぽい。

 迷うことを前提にしたステージで一定時間ごとに呟いたり、問いかけが在るのは良くあるNPCの反応ではあるけど……。

 逸れないように手を繋いでくれってのもそうだけど、さっきから転けそうになる度、手が離れそうになる度にしっかりと握り返される。

 NPCらしからぬ細やかな反応。応答もNPC特有のキーワードを繋ぎあわせた定型文っぽさがないし、最初から翻訳AI使って話してたら気が付かなかったかもしれない。


「コスモさんは、その、お強いんですね。見張りをあった言う間に倒してしまいましたし、檻だってあんな簡単に壊して……」


「そう! す、凄かったです! わたしもビックリしました」


 ターニャが喋った! 俺も今びっくりしたよ!


「でも、あんなに強いのに、なんで捕まったんですか?」


「不意打ち食らってね。それに多勢に無勢ってやつだよ」


 やっぱり変だ。

 パラメータを書き換えるっていうチート行為を使用して檻を壊したにもかかわらず、クレアはそれをちゃんと認識している。

 脱出方法の一つとして用意されていたならその事について話すのは自然な反応だけど、あんなの想定してるワケがない。どうなってんだ?






 突然、視界が開けた。

 マップを頼りに道筋を辿り、ようやく俺たちは迷いの森を抜けたようだ。

 そして、目の前に広がる月明かりに照らされた草原は、俺の記憶にある草原とは全く違う姿をしていた。


 どうなってんだ!?







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