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討伐

 日暮れ前。

 早目の夕食を済まし、再び馬車に揺られている。

 山賊のねぐらには麓の村から森を突っ切るより、街道途中から森に入ったほうが距離的に短い。

 この後の流れは、馬車を駐留させた場所を野営地にし、山賊を捕縛した後、そこまで戻り、朝を迎えるとともにティエストの町へ向けて出発する運びとなった。

 因みに、俺もそのままティエストの町に戻る。

 領主様に金塊の残りの代金を貰わないといけないし、ラオーシュが言うには無事に捕縛が完了すれば報奨金も支払われるという。なので戻らないといけない。

 しかし、なんという進行速度。

 到着したその日に解決してそのまま連行、帰還とか、酷いスケジュールだな。

 プロジェクトリーダーがこんなスケジュール持って来たら、デスマ覚悟して栄養ドリンク買いに行くレベル。

 いやまあ、徹夜で進行する時点で同じか。

 しかし、辛くないんだろうか? 流石に、一晩休んでもイグランゲーア以外は誰も文句は言わないと思うんだけど。


「到着したその日に決行って辛くないですか? 終わったらそのまま帰還するんですよね? 一日くらい休息に費やしてもいいと思うんですけど」


「辛くないと言えば嘘になりますが、我々は兵士です。この程度のことで音を上げていては務まりません。それに、時間を費やすごとに奇襲の成功率は低下します。なるべく被害を出さずに捕縛を終えるには今夜をって他にない」


 『兵は神速を尊ぶ』って事か。世界が変わっても兵の在り方ってのはそう変わらないんだな。






 深夜。

 見えていれば月が真上に来てる頃。

 奇しくも山賊の元から脱出した時と同じ時間帯だな。あの時と状況は真逆だけど。

 ランプを掲げて兵たちを先導する。

 ランプを持ったままに近づき過ぎれば、山賊の見張りにバレてしまうだろうけど、月明かりすら届かない森の中を十六人という大人数で移動するのは無理だ。絶対に何人かはぐれる。

 森の中は見通しが悪いので、そう簡単にランプの光を見られる事はない、とラオーシュが言っていたので、それを信じるしかない。

 そろそろ、山賊の塒だ。


「ラオーシュさん。そろそろです」


 すぐ後ろから返事が返ってくる。


「判りました。ではここで一旦止まりましょう」


 そう言って、ラオーシュは後ろの兵たちに集まるように合図を送った。

 俺とラオーシュを取り囲むようにして兵たちが集まった。


「コスモさん、ここから山賊の塒までどれくらいの距離ですか?」


「あと、二十メートル……、歩幅で言えば二十五歩くらいです。脱出した時と同じなら、洞穴の入り口付近で焚火をしているはずなので、すぐにわかると思います」


「なるほど、ではここからは私が先導します。コスモさん、ランプの明かりを消して下さい」


 言われた通りにランプの明かりを消す。

 すると、すぐに闇に包まれ、ランプの明かりに慣れていた目には何も映らなくなった。

 しばらく、そのままじっとし、目が闇に慣れぼんやりを周りの様子が判るようになって、ラオーシュが口を開いた。


「コスモさんは私のすぐ後ろに。逸れないよう注意して下さい。では行きましょう」


 周りの兵たちが頷いたような気配を感じ取った後、ラオーシュが動き出したのでその後に続く。

 移動をはじめてすぐに焚火の明かりが見えた。見張りの山賊がいるのも判る。

 そこで、ラオーシュが再び止まり、静かに告げた。


「見張りは二人。他にはいない様子。回り込めば容易に処理できるな」


 ラオーシュが兵に合図すると、二人づつ左右の森に消えていった。特殊部隊員になったみたいでドキドキする。


「コスモさんはここで待機、我々が出てくるまでじっとしていて下さい」


 気分は特殊部隊員でも中身はド素人なので、ついていっても役に立たないどころか邪魔になるだけなので、大人しく頷いておく。

 しばらくすると、左右に消えていた兵が見張りの山賊の奥からぬっと現れた。


「な、なんだてめ」


 片方の山賊に気付かれたが、すぐに口を塞がれる。抵抗するようにもがいていたけど、しばらくすると動かなくなり、兵士が解放するとその場に崩れ落ちる。


「ラオーシュさん? あれ、死んでませんか? 捕縛するんですよね?」


 相手は山賊でこっちは正規の兵なのでその場で刑執行でも問題ないんだろうけど、捕縛って聞いてたから油断してた。スプラッタで切った張ったの大捕り物は勘弁願いたい。


「しびれ薬嗅がせただけです。では行ってきますので、おとなしくしていて下さい」


 ラオーシュ達が山賊の塒である洞穴の中に消えくのを言われた通り大人しく見送った。

 中の山賊たちは寝てるだけだろうから、すぐに終わって出てくるんだろうけど、大人しく待つってのは酷く時間が長く感じるな。

 俺もなにか出来ることがあればと思うけど、ここで待つように言われたし、それが今の俺の仕事なのも理解している。

 けど、やっぱり落ち着かない。せめて武器だけでも用意しておこう。

 腰に下げた巾着からミサイル小石を取り出して、何時でも投げられるように握っておく。

 すると、洞穴から怒声が響き人が飛び出してきた。

 あれは山賊だ!

 取り逃がしたのか!?

 すぐに兵士の一人が追いかけて出て来たけど、山賊が焚火から火の着いた枝を拾い上げ追手の兵士に向かって投げつけた。

 怯む兵士。

 このままでは逃げられる!

 そう思った俺は即座に手に持っていたミサイル小石を投げつけた。

 狙いは……頭を狙おうと思ったが、頭が割れ、首が折れたゴブリンの事を思い出す。あの後威力を下方修正したとはいえ、まだ試してない。頭を狙っては殺してしまうかもしれない。

 なので狙ったのは左の太もも。足を止めれば逃げられまい。

 走っている奴の脚に当てるのは通常ならば至難の技だけど、ミサイル小石ならば自動追尾で必中だ。

 吸い込まれるようにして逃げる山賊の脚にヒットする。

 脚にミサイル小石をくらって転けた山賊がこっちを見る。やばい、目が合った、見つかったな。

 起き上がった山賊が進路を変更してこっちに向かってくる。


 これは、俺を人質にして逃げる作戦に変えたな。

 俺を人質にしても逃げきれるはずがないけど、後が無い山賊には関係ないんだろうな。しかし、俺だって黙って人質になるつもりはない! にわか剣術で対抗してやる!

 大丈夫、奴は脚を負傷して引きずっている。万全の状態ならどうなるか判らなかったけど、負傷した山賊の一人や二人、無力化するなんて訳ないぜ! ……二人は無理かな。


 ショートソードを抜いて構える。山賊も短剣を取り出している。

 山賊の後ろからは追手の兵士もこちらに向かっている。無抵抗に捕まりさえしなければ、すぐに兵士が取り押さえてくれるだろう。

 一撃だ、一撃で良い。一撃入れるか、一撃を防ぎさえすればそれで良い。

 これはケームで云うPVPだ。経験なら何度もある。……勝率の方はお察しレベルだけど。

 山賊の動きを注視し、一挙手一投足に注意を払う。

 手にした短剣を振り上げ――

 違う! 投げた! まさかの投擲!

 剣で切り落とせ――くっそ! 斬り結ぶ気でいたから間に合わん!

 とっさに剣で顔を守る。後ろの兵士が避けろと叫んでいるのがやけに遠くに感じる。

 山賊の投げた短剣は、がら空きの胴体、右胸へと吸い込まれるようにして突き刺さ――らなかった。

 短剣は確かに革防具の右胸にその刃を突き立てたが、刺さること無く地面に落ちた。防具には傷一つ付いてない。

 短剣を投げた山賊は唖然としている。


 改造しておいてよかったー! これが市販のままの防具だったなら完全にアウトだったな。

 アドレナリンが大量に出ているのを感じながら武器を構えなおす。

 さあ、お前の一撃は防いだぞ! 次はどうする!


 自分の中ではかっこよく、第二ラウンドと行こうか、という感じだったけど、山賊は追いついた兵士にそのまま取り捕まった。

 そういや、一撃で良いんだった……。まあ良いか、誰にも見られてないし。

 そっと構えを解いてショートソードを鞘に戻す。






 その後、特にトラブルもなく、無事に馬車を止めて野営地としている場所まで山賊を連行して戻ってきた。

 兵士たちは皆無事だ。山賊の中には抵抗したため怪我を負ったのもいるけど、命にに関わるような傷はない。

 あの捕物劇で一番危なかったのは俺だった。

 ラオーシュには危険な目にあわせたと散々謝られたけど、石を投げて山賊の気を引いたのは俺自身なので、ある意味自業自得であり、結果的に無傷で事なきを得たので問題ないと返しておいた。

 山賊の投げた短剣を革の防具が弾いたのを見た兵士が、あれは奇跡だなんだと語っていたけど、正直忘れて欲しい。

 見当はずれの場所をガードした情けないシーンである。記憶から抹消したい。

 それにまた、ラオーシュから防具について突っ込まれても困る。だから静かにして!


 とまあ、そんな感じで一夜明け、朝日が登ると同時にティエストの町へ向け出発した。

 兵士十六人、山賊十四人という大所帯だ。

 馬車三台の定員数ちょうどで行きの時よりも狭い。馬車を奪われないよう山賊も均等に配分され、この馬車にも四人乗っているが、こいつらすっげー臭い。

 あと八日もこの悪臭と付き合わにゃならんのかと思うとすごく辛い。あ、定員ぴったりだから八日じゃ着かないんだっけ。マジかよ……。






   §   §   §






 九日目の夕刻、ティエストの町へ到着した。

 町の入口を入ってすぐラオーシュ達と別れた。

 報奨の件は、山賊を取り調べ、罪を精査した後に改めて決められるということなので、ある程度時間がかかる。それまでは町にいて欲しいと言われたので、マルグリットに教えてもらった宿に泊まる事をげ、その場を後にした。


 記憶を頼りに宿の場所まで行く。

 人に聞こうにも宿の名前がわからないし、多分ないんだろう。路地裏の宿で通じるかな?

 マップは自身の通った場所をアリの巣のように表示しているだけで、そこに何があるかまでは判らない。

 何処かで地図を手に入れないとな。

 しかし、ああいうのは機密扱いで早々手に入らないだろう。民間用の地図が在ればいいんだけど、どこで買えるんだ。できるだけ正確な物が欲しいんだけど、領主様に報奨でねだったらくれないかな? ダメ元で言ってみよう。


 そんなこんなで宿に到着した。

 一泊、銅貨八枚らしい。

 銀貨一枚出したら、お釣りに銅貨十二枚渡された。

 銅貨二十枚で銀貨一枚か。それで、銀貨二十枚で金貨一枚と。

 冒険者として旅に出るならこういう相場も覚えていかないとな。


 借りた部屋に入り、装備を外してベッドに倒れ込む。

 久々の寝具! ああ、至福。

 約半月、野宿で過ごした事になる。

 冒険者になったらこういうのが日常になるのか。それはちょっと、いや、かなり嫌だな。けどその分、こうやって久々に堪能するベッドが最高に感じるのか。それはアリだな。

 ベッドの感触を味わってたら眠くなってきた。

 晩飯まだだけど、もう寝ようかな。明日の朝食べに出ればいいだろう。

 体を丸め、眠りにつこうとしてハッとした。


「くっさ! 俺、くっさ!」


 自分の身体から山賊と同じ臭がした。身体拭いてから寝よう……。







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