帰還
クレアに説教を食らい、金貨を手に入れた経緯を話し、呆れられ、金貨の価値を教えてもらった。
金貨一枚で銀貨二十枚の価値あるらしい。
当然、クレアはそんな大金を持ってはいないため、両替なんて出来ない。
という事で、防具を先に調達した。
そして例のごとく魔改造を施して、軽く、靭やかで、そして絶対に壊れない革製の防具が完成。
そして次の日。
俺たちの泊まっている宿に、派遣隊の編成が完了したと使いがやって来た。
とうとう出発だ。
町の出口まで行くと、派遣隊が待っていた。総勢二十人の大部隊だ。
この中の四人が迷いの森の調査を担当し、他十六人が山賊の捕縛にあたるらしい。
「あなた方が麓の村の使者ですね。では参りましょうか」
部隊の中から一人、壮年の兵といった雰囲気の人が前にでてそう告げた。
彼がこの部隊を指揮する人なんだろう。すごく頼りに理想なナイスガイだ。
てっきり歩いて行くのかと思ったら、人垣の奥に馬車――と云っても荷馬車にベンチを取り付けただけの簡素な物――が三台用意されていた。これは嬉しい!
さっそく乗り込み、馬車は村へ向けて進みだした。
俺の乗った馬車には他にクレアと、さっきのナイスガイ、そして他の兵とは出立の違う人が一人、行者台に二人乗っている。
「私が今回、山賊の捕物の指揮を務めます、名をラオーシュと申します。此方の方はティエストの筆頭魔術師で名を――」
「イグランゲーア。迷いの森調査の責任者をすることになった」
ナイスガイがラオーシュで、こっちのローブ着た魔術師のお爺ちゃんがイグランゲーアか……。
魔術師!? 魔術師来た! 魔法見たい! 使いたい!
「それで、そちらのお二人はなんという名なのですかな?」
名前なんてどうでもいいでしょ! 今は魔法が見たいの!
でもまあ、無視するわけにもいかないし、ちゃんと答えるよ。
「私はクレアです。今回、皆様にお願いにやって来た麓の村の住人です、彼は――」
「コスモです。少し前から麓の村で世話になってます。山賊の塒まで案内役を勤めることになってます」
「えぇ、存じております。今回はどうぞ宜しくお願いします」
ついでだから気になることも聞いておこう。
「ラオーシュさん。この馬車で村まではどれくらいかかるんですか?」
「そうですな。満員まで乗せると徒歩で進むのと大して時間は変わらんのですが、行きは少し余裕があるので八日ほどで辿り着けるでしょう」
「余裕?」
「この馬車は本来十人乗りです。行者台に二人、荷台に八人。詰めれば更にもう二人はいけるでしょう。帰りに山賊も乗せねばなりませんから、その分余裕があるのです」
「山賊も馬車に乗せるんですか? 引きずって帰るとかそ云うイメージがあったんですけど」
手首を縛られて数珠繋ぎになった山賊が、馬に乗った騎士やカウボーイに引っ張られて連行されるシーンを良く見る気がする。もしくは脚を縛られて、引きずられるやつ。あれは処刑か。
「突発的な捕縛や、予想よりも多い人数だった場合はそのように対処する事もありますが、暴れられたり、反抗されると面倒ですから、事前に判っている場合は馬車を用意します。といっても、ご覧のように荷馬車を改造した物ですから、乗り心地までは保証できませんが」
確かに、既にケツが痛い。
舗装されていない道を進む馬車は道に落ちている小石を踏んでよく跳ねる。その衝撃がそのままケツにダイレクトアタックするので堪ったものではない。
乗り心地よりも輸送量とコストダウンを優先した物なんだろう。
馬車に揺られ順調に進んでいる間、特にやることもないし、居眠りでもしようかと思ったけど、ケツがそれを許さないので、ぼーっと過ごしてたらラオーシュさんに話しかけられた。
「コスモさんは立派な鎧をつけておいでですが、傭兵かなにかなのですか?」
「いいえ? 今は護衛の真似事をしてますが、村で居候させてもらっている一般人ですよ」
「しかし、そのような立派な鎧は一般人に少々手が届きにくいように思うのですが。見たところそちらの剣も新調したてのようですし何か訳がありそうですな」
あるうぇ? なにか疑われてる?
「この剣は、こっちのクレアにティエストの町で買ってもらったんです」
「えぇ、彼には一度助けていただいてますので、その御礼に」
「なるほど、してその鎧は?」
「この革鎧は、今回捕縛の案内役に決まった時、急遽用意したんです。高かったですが、命には替えられませんので、お金の方も領主様のおかげでどうにかなりましたので」
領主様に金塊を買い取ってもらったおかげで買えたので嘘じゃない。嘘じゃないけど、金塊の出処を聞かれたら面倒くさいから濁して答える。
領主様の時は霊峰って答えたけど、今回はその霊峰の麓に行くわけで、同じように答えて、じゃあそこに連れて行けって言われても困る。
報奨金か何かを前払いで貰ったとか勘違いしてくれればいい。
「ティエスト様が。なるほど、疑うようなことを聞いてすみませんでした。なにぶん兵を預かる身としては、全てに疑ってかからねばならないのです。敵の罠で全滅した、などはあってはならないですから」
それはよく判ることなので、頷いて同意の意を示した。
昼間はそんな風に過ごし、馬を休ませるために歩みを止めた時や、野営のために止まった時は魔術師のイグランゲーアにくっついて回っていた。というより、ストーキングしていた。
だって、ほら! 魔術使うかもしれないし! もしかしたら、教えてくれるかも!
そんな期待を込めてチョロチョロしてたけど、そんな素振りは全くなかった。
そして夕飯の時、まるで恋する乙女のようにイグランゲーアを見つめていたら一言。
「諦めろ」
それだけ言われて、首を傾げたら続きを話してくれた。
「子供のようにチョロチョロしおって。魔術を知りたいのだろう? だが、無駄だ。この旅の間にワシが魔術を使うことはない。それに、お前には才能の欠片もない。よって諦めろと言ったのだ」
え、なにそれ。
さらっと重大発言が飛び出してんだけど、才能がない? 才能って魔術の才能ってことだよね?
「あの、どうして、魔術の才能が無いって判るんですか?」
「お前からは魔力を感じん。マナを感じ取ることは出来るか?」
マナと言われても。マナが濃いとされる迷いの森でも、霊峰でもなにも感じなかったし、そもそもそれがどんなものかも解ってない。だから感じ取れているかと言われてもサッパリ。
首を横に振って答える。
「ではやはりお前には才能が欠片もない」
断言されてしまった。マジかよ……。
でもなんかあるんじゃないの? 修行すれば使えるようになる的ななにか。
あっさり才能がないと言われても、そう簡単に諦められないし、少しでも食い下がってみる。
「なにか、魔術を使えるようになる方法とかないんですか? こう、修行したりとか」
「ないな。少なくともワシは知らん。よいか、魔力が感じられないと云うのは、体内に全く魔力がないか、魔力を制御して外に漏れ出さないようにしているかの二択。生まれつき才能があり、自然と魔力の制御の仕方を覚えたか、全く才能がないか。
多少なりとも魔力を持つものなら修練によりその質や量を高めることは出来るが、そうでないなら方法はない」
異世界ロマンの一つである魔術の使用を完全に否定されてしまった……。
§ § §
その後、死んださ魚のような目で過ごし、予定通り八日目の午後、村に到着した。
村の入口に馬車が止まると、村の方から走り寄ってくる人影が見える。あれはターニャだろう。
「クレア!」
「ターニャ!」
馬車から降りてターニャに走り寄るクレア。なんか感動の再会のような雰囲気だな。抱き合ったりしそう。
実際は走り寄って二人で手を取り合っただけだけど、まあ十分感動的。村でずっと一緒に育ってきて、こんなに長く会わなかったのは初めてだろうし再会の喜びは一入だろう。
ずっと見ているわけにもいかないので、俺も馬車を降りてターニャに声をかける。
「ただいま、ターニャ」
「あ、お帰りなさい! 戻ってきたんですね!」
えっと、それは再会を喜んでくれているととってもいいのかな?
たしかに、村を出る時そのまま旅立つつもりでいたけれども、もう少しこう、柔らかくと言うかね? 心に刺さらない言葉を選んでくれたら嬉しいんだけど。
「山賊退治の道案内を頼まれてね。ほら、俺なら迷わず奴等の塒まで行けるでしょ? そいいう訳で、恥ずかしながら帰ってきたよ」
「なるほど! それなら安心ですね!」
一応信頼はされてるんだな。これで要らないとか言われたらどうしようかと。
「ターニャ、皆さんを宿舎へ案内しれくれない? 私とコスモさんは村長の所へ報告にいかないと」
え? 俺も? いや、ほら俺ただの護衛だし、もう村についたからそこまで一緒に行かなくてもいいかなっていうか、お尻痛いしから俺も宿舎に行って休みたい。
「俺も、宿舎がいいかなあ……なんて」
いや、まあそういう訳にもいかないのは判ってるけど、単なる護衛から山賊退治の案内人になったんだし。ちょっと言ってみただけだよ。
「宿舎に行ってもコスモさんの寝る場所はありませんよ? 町から来てくださった方が大勢いらっしゃるので、それだけで宿舎はいっぱいだと思います」
え、じゃあ俺何処で寝るの? 野宿? 慣れてきたとはいえ、文明の感じ取れる場所で一人野宿とか泣くよ? 心が耐え切れないと思うよ?
「俺、今晩どこで過ごすの? 野宿?」
「そんな訳ないじゃないですか。私の家に泊まってもらいます。じゃあターニャ、よろしくね」
「わかったー」
そう言って、ターニャは馬車の方へ行った。
野宿はまのがれたけど、クレアの家に泊まる? ハッハ、まさかそんな―。女の子の家にお泊りなんてそんなー。何かあったらどうしよう!
魔術の才能がないと言われ沈んでいた気分が、急上昇し軽い足取りで村長宅に向かった。今夜俺は魔法使いを卒業する! 苦節三十一年! 長きに渡り守り続けてきた魔法使いに成るための資格を今夜、捨て去るのだ! ビバッ異世界!
村長宅には俺とクレアの他にラオーシュとイグランゲーアも一緒に報告に来た。
「村長、ただ今戻りました」
「おお、無事に戻ってきたか! それで、領主様はなんと? そのお二方がそうか?」
「はい。領主様は直ぐに対応してくださり、此方の――」
「ラオーシュと申します。ティエスト様の命を受け、此度、山賊退治の任を受けました。此方の御仁はイグランゲーア殿。迷いの森の調査を命を受けております」
クレアの後を継いだおラーシュが自己紹介し、イグランゲーアは頷くように軽く会釈した。
「失礼ですが、イグランゲーア様は前に一度お越しになられた事は御座いませんか?」
「左様。前に一度この森を調査しに来たことがある。故に今回選ばれたのだろう」
「やはりそうでしたか。それならば森の異変もすぐに解決しますでしょうな」
そういや村長が前に、村に調査に来た魔術師がどうとか言ってたな。その魔術師がイグランゲーアだったと。いやー世界は狭いな。
「おっと、ワシとしたことが、申し訳ない。気づきませんで。長旅でお疲れでしょう。村の外れに宿舎が御座います。何もございませんが、まずはそちらでごゆっくり疲れを癒やして下さい」
「いや、その必要はない」
せっかく村長が気を利かせたのにイグランゲーアが遮った。
「この場所は他所よりも濃いマナに満ちておるが、前に来た時よりは明らかに薄くなっておる。これが迷いの森のマナだとは到底信じられん程にな。早急に調査したい」
思っていたより森の自体が深刻だったようだ。
「しかし、イグランゲーア殿。調査に森へ踏み込めば山賊に感づかれるかもしれません。調査を始める前に山賊を狩りだしてしまいたい」
たしかに、ラオーシュの言う通り、調査を先に始めれば気づかれる可能性がある。
村から近い位置で山賊に出くわしている。一度脅しつけたからもういないとは言い切れない。
「ならば、急げばよかろう。今夜、山賊狩りをすれば、明日には調査を始められる」
「しかし夜の森は闇に閉ざされ非常に危険ですじゃ」
そうだ! 村長いいぞ! 今夜決行なんて俺は嫌だぞ! もっといってやれ。
「いえ、夜の闇にまぎれて奇襲をかけるのは元々考えていた策の一つです。我々はその為の訓練も受けている。山賊もまさか夜の迷いの森で奇襲を受けるとは考えてもいないでしょう。その隙をつきたい。それに、彼ならば夜の森でも問題なく案内できるとそう聞いています」
たしかに。ここに来る途中でそんな話をしたけれども、領主様にもうっかり言っちゃったから、隠しても無駄かと思って言っちゃったけど!
今夜って。今夜は嫌よ! だってお泊りが……。
皆の視線が突き刺さって痛い。大人しく頷いた。ええ、ええ、やりますとも!
「では、決まりだな。山賊狩りは今夜。調査は明日からだ」




