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獄焔の魔導師Ⅲ

 瞬間、ハイドラはメリーの姿を視界から見失う。

 メリーが目にも止まらぬ速さでその場を瞬時に移動したのだ。


 確かに彼の戦闘能力は折り紙つきであるが、それでも同レベル同士の戦いではそんな彼も鈍重に見られてしまう。


 鈍重な彼にはメリーの姿を捕らえることはできないだろう。

 一瞬にしてハイドラの背後へ移動したメリーは彼をすさまじい勢いで蹴り上げる。


 メリーの《魔女マジシャンズ零装アーツ》は魔力量を通常の30倍まで跳ね上げる特殊効果がある。

 つまり、今のメリーの魔力量は通常の十万倍近くの魔力量を有していることになる。


 これは、ハイドラには計算外の事実だった。

 彼には、メリーの実力を正確に測ることができなかったのだ。

 彼はメリーをそこらにいるS級魔導師の一人としか認識していなかった。

 しかし、それはハイドラに相手を見る目が無かったからではない。

 彼女が意図的に魔法を使って自身の魔力量を隠していたのだ。


 メリーの基本戦術はまず相手に弱い自分を見せて油断させ、油断した相手を一瞬で叩き潰すという戦術だ。


 それは、いかに弱い相手であっても決して例外は無い。


 ただ、彼女の実力の都合上、その手加減した場合であってもそのままの実力で倒しきることがほとんどだ。


 彼女の高い戦闘能力はそれだけ底知らずなほど凄まじいということに他ならない。


 彼女の魔力量は通常の約十万倍にも上るが、ハイドラの魔力量はメリーのそれと比べてあまりにも少なすぎる。


 おそらく100対1程度の魔力量の差は存在するに違いない。


 自身の身体能力は魔力によって強化することが出来るわけだが、メリーはこの圧倒的な魔力量を一気に身体能力強化だけに集中させたのだ。


 その結果どうなったか?


 結論を言えば、ハイドラは防御する間もなく、空に向かってメリーに蹴り飛ばされたわけだ。


 それもこれまでの戦いで食らったことがないほどに重い蹴りを。


 ハイドラは血反吐を吐きながら、高速で宙を舞う。


 まさか、メリーの華奢な身体にこれほどのパワーが秘められているとは思いも寄らなかったはずだ。


 彼の計算外がこうしていくつも積み重なり、そして一つの敗北のゲシュタルトが形成される。


 しかし、ハイドラは背中に大ダメージを負い、意識が朦朧とする中で勝利を諦めてはいなかった。


 苦痛に顔をゆがめながらも、精一杯の努力でメリーの方を振り向く。


 もちろん、メリーには分かっていた。

 この渾身の一撃を食らわせてもなお、まだハイドラが生き残るであろうことを。




 だから――、




 

「――《終焉ヘルフレム太陽コロナ》!――》」 



 

 ――全力フルパワーで倒すしかない。




 これが、決別の一撃になると信じて。


 ハイドラの視界の全てを覆いつくすような、巨大な暗黒の熱線。


 それは、ヘルフレム・スカーレッド・ドラゴンが放ったそれよりもはるかに巨大で、宇宙のように暗黒だ。


 今のハイドラにはそれを避けられるような体力は残されていない。


 彼はこの戦いで、初めて自身の敗北を悟るのだった。


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