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獄焔の魔導師Ⅱ

 まず、先手を切ったのはハイドラだった。

 ハイドラは《マルスの神鎚》を構え、メイリスへと駆け出した。


 瞬間、一匹のリザードマンが剣を持って、彼の前に立ちはだかる。


 再び甲高い金属音を上げながら、そのリザードマンは彼の攻撃を剣で受け止める。


「ふむ、また貴様か。我に接近戦を挑むとはなかなか勇気ある者よ。だが、その程度の腕前では我の攻撃を受け止めきることは不可能だぞ」


 言うと、ハイドラの攻撃を受け止めに入ったリザードマンは、その鉄槌の威力を受け止めきれず、そのまま後ろに打ち飛ばされるのだった。


 しかし、それは罠だ。

 もちろん、メリーには分かっていた。

 リザードマンでは彼の攻撃を受け止めきれないという事実を。

 だから、彼女はリザードマンを足止めとして利用したのだ。


「《獄炎砲ヘルフレム・キャノン》!」

 この一撃を当てるために。


 直径3メートルを超える巨大な業火がハイドラの身を焦がした。


 たちまち、その巨大な業火はハイドラの身体を燃やしつくし、やがてハイドラの身体はその業火に覆われ見えなくなってしまう。


 そして、それからメリーは後方へときれいな宙返りを決めて、彼から30メートルほどの間合いを取った。


 さらに、6匹のリザードマンを従えて、自身の目の前に的確な陣取りを施すのだった。


 彼はもうすでに火の海に囲まれ、ほぼ瀕死の状態に近づいているに違いない。


 しかし、それなのに何故メリーは彼への警戒体勢を解かなかったのか。


 それは直感で分かっていたからだ。

 彼がまだ終わっていないことを。


 次の瞬間、ハイドラは自慢の鉄槌を力強く振り回し、その突風で周囲の炎を払った。


「なかなか遅かったじゃない、もうとっくに丸焼きになっているのかと思ったわ」

 メリーは余裕の笑みを浮かべ、彼を挑発する。


「いやあ、ちょうど良いサウナがあったのでな。少し高温に身体を慣れさせていたところじゃ」

 負けじとハイドラも余裕の表情で、メリーを挑発した。


「あんなので私の炎に慣れたつもり? まだまだ序の口よ?」

「ふん、こちらとてほとんど本気を見せておらん。お互い様といったところか、小娘よ」


「お互い様って何よ? お互い様って。あなたと同じにはされたくないわ」


「まあ、強がりは止せ! 我とて自身が貴様と同じであろうなどと考えたつもりはない。だが、さきほどの一撃で勝負の勝ち星は我にあることを確信したわい」


 さきほどの一撃、メリーはこの言葉に酷く反応した。

 確かにメリーはこの一撃で勝負が決まるなどとは、毛ほども思ってはいなかった。

 だから、さっきの一撃は様子見にすぎない。


 しかし、それでも2つの想定外の事実が彼女の頭を悩ませた。


 一つ目はハイドラが《獄炎砲ヘルフレム・キャノン》をまともに食らったのにも関わらず、無傷だったという事実だ。


 いくら、彼女が《獄炎砲ヘルフレム・キャノン》を様子見で放ったからとは言えど、その威力はB級、C級程度の魔術師なら一撃で仕留められるほどの威力はある。


 だから、レンのような戦闘ダメージ無効スキル持ちという例外を除けば、たとえSランクであれど、少しはダメージを受けるはずなのだ。


 それなのにハイドラの身体には火傷跡のようなものどころか、皮膚が熱で赤く変色した痕跡ですら残っていない。


 この事実は、メリーの感覚からすれば、十分信じがたいものである。


 そして、二つ目の事実はハイドラが《獄炎砲ヘルフレム・キャノン》の炎の中いた時間だ。


 彼が炎の中にいた時間は、おおよそ5分程度。

 普通に考えればこの事実は尋常ではないだろう。

 何しろ、小さなろうそくの炎ですら、まともに5分間も触れていれば人の肌なら黒こげだ。


 しかし、彼には前述のように何もなく無傷だ。

 恐るべき防御力と言うべきか、さすがにこの二つの事実は彼女に大きな衝撃を与えた。


 これまで彼女が戦ってきた敵の中には《獄炎砲ヘルフレム・キャノン》をまともに受けて、ここまで完全に無傷だった相手など一人もいなかったのだから。 


 おそらく、ハイドラは彼女が戦ってきた相手の中でも一、二を争うほどの猛者に違いない。


 そして、メリーはそれを考慮した上で、素早く次の解決策を試行する。


「そうね、確かにあなたの防御力、魔法耐性は認めてあげるわ。あなたは強い。でも、だからって私が諦めると思う?」

 そう言って、メリーは手元に魔方陣を出現させる。


 そして、6匹のリザードマンの手元にも同様の魔方陣を出現させた。

 瞬間、ハイドラは興味と好奇心に駆られた眼差しを彼らに向ける。


 何故なら、リザードマンの手元にある魔方陣からは、あのメリーがさっきまで使っていた《獄炎ヘルフレム魔槍角ディアブロス》が彼らの手に握られていたからだ。




 そして……、メリーの両手には……、




「ほう、まさか貴様のリザードマンがそれを扱えるとは……正直なところ驚きではあるな。だが……、それなのに何だ? 貴様の武器は? そんな銃で何が出来ると言うのだ?」


 銃だ。

 彼女の両手には黒い拳銃が握られていた。


「何が出来る? 馬鹿にしないでくれないかしら? これが私の切り札、《獄炎ヘルフレム滅龍砲バレット》なんだから。あなたなんて一瞬で消し炭だわ」

 メリーは自信満々に言うと、両腕を交差させながら二丁拳銃を構えた。

 瞬間、リザードマンの体に異変が起きる。


 体色が赤色から溶岩のように赤黒く変色し、全身に赤い網目模様のような奇妙な模様がみるみる浮かび上がる。 


「ほう、一瞬で消し炭か……。いいだろう、見せてもらおうではないか。その切り札とやらの実力を」

「ふうん、そこまで言うなら容赦はしないわ。逃げるなら今のうちよ?」

「ふははははっははっ! よく喋る小娘だ! 実にいい表情をしている。一体どんな解決策を見つけたかは知らないが、この鉄壁のハイドラを打ち破ることなどなんじには不可能だ! その自信に満ちた表情が絶望によってあっけなく崩れ去る時……そういう時こそ、誰しもが正真正銘哀れな表情を浮かべるのだ! 我は楽しみにしているぞ! 貴様がそれを我に見せるときを!」


 そう言って、ハイドラは実に愉快そうな大声を上げてゲラゲラと笑い出す。




 それから1秒が経った頃、ハイドラの敗北は決した。

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