激戦、最強スキル剣士VS最強魔導騎士!Ⅳ
メリーはすっかりその場に倒れ込んでしまって、ピクリとも動かない。
そして、自慢の装備は解除され、元の制服姿へと戻る。
いや、周囲を見渡せばそれはメリーだけではない。
気づけば、他にもネコミミもアトラス、シムルグ、ヘルフレム・スカーレッド・ドラゴン も地面に倒れこんでいたのだ。
ネコミミに召喚されたアトラスとシムルグは、淡光を放ちながらその場から姿を消し、ヘルフレム・スカーレッド・ドラゴンは融合魔法が解け、5体のリザードマンへと分裂する。
今の一瞬の斬撃の間に、一気に全員がやられたとでも言うのだろうか?
だとしたら、恐るべきスピードの持ち主だ。
……僕ですら、対応できないかもしれないのだから。
「全く……余計なことをしてくれましたね、千河・ヴァン・キューレ。私の精神捕縛にまで及ぶ《堕結召喚》をこうも容易く破ってしまうとは。もうあなた方は用済みです。そこで倒れて見ていて下さい。彼が倒れる無様な姿を」
そう言って何もないところから急に姿を表したセレナは僕にカットラスの切っ先を向けた。
さっきまでとは違い表情もまさに真剣そのものだ。
ようやく、本気を出し始めたといったところか。
「おいおい、いくら何でも召喚した魔導士達をそう簡単に切り捨てるっていうのはどうなんだ? 酷すぎるとは思わないか?」
「酷すぎる? 何も私は彼らを貴重な戦力として召喚した覚えはありませんよ? 彼らはただの手駒です、私が戦うべき相手か見極めるためだけの」
セレナは冷笑を浮かべ、無感情にそう言った。
「その結果、あなたは能力・技術ともに私が相手をするにふさわしい剣士であるとこちらで判断させていただきました。私は現段階における世界最強の女剣士であり、現第13代目剣王セレナ・ミカエルと申します。以後、お見知りおきを」
「ケンオウ? 知らないな……何だそれは?」
僕は首を傾げ、怪訝な表情で問いかける。
――剣王……それはこの世界で一番強い魔導騎士に与えられる称号。つまり、この女はこの世で一番強い魔導騎士だってことなのよ――
すると、その場に倒れこんでいるメリーが代弁して答える。
「メリー!? 大丈夫なのか!? 無理に動くなよ」
「平気よ、それぐらい。それよりも今は自分の心配をしなさい、レン君! 今、あなたの目の前には世界最強の魔導騎士が立っているのよ。彼女相手に負けたって何もおかしくはないわ。彼女と戦って生きて帰って来れれば上等よ! いい、レン君? 彼女には勝たなくてもいい。
必ず生きて帰ってくるのよ、分かった?」
メリーの発する言葉の急きこみ加減から、目の前の敵が尋常ならざる敵であることを僕は知った。
確かに、目の前の彼女には只者ならざる気配が周囲に渦巻いているような気さえした。
実際にそれは目に見えるわけではないけれど、五感がそれを鋭く察知してくれる。
僕は、目の前の彼女が最強の敵であると初めてこの場で認めるに至るのだった。
「大丈夫だメリー、僕は必ずこの勝負に勝ってみせる。無理ゲーほど僕を燃えさせるものは他にない!」
「ちょっと……レン君! 私の話を……」
「無駄よ、メリー。レンは一度自分で決めたことは絶対に曲げたりなんかしないわ。そういう人なのよ、私の愛するレンはね。だからね、メリー。ここは信じるのよ彼を。きっと、彼はもう一度奇跡を起こしてくれると信じているわ。ダーク・ペテルギウス・ワイバーンを撃退した時と同じようにね」
ネコミミはそう言って、僕に信頼の眼差しを向ける。
「ダーク・ペテルギウス・ワイバーン!? それってあの伝説の……」
ダーク・ペテルギウス・ワイバーン……、メリーはその名を耳にした瞬間、喉元に言葉を詰まらせる。
そう、彼女もまた知っていたのだ……ダーク・ペテルギウス・ワイバーンという歴史に刻まれし龍の名を。
「そう、あのダーク・ペテルギウス・ワイバーンよ。だから……大丈夫。レンならきっとやってくれるわ。ただ、私達は待っていればいいの。奇跡が訪れるその瞬間を……」
「ええ、分かったわ。千河がそう言うんだったら、私も彼を……レン君を信じて待っているわ」
彼女は深い安堵の感情を込めて言った。
気づけば、表情も大分落ち着きを取り戻したかのように穏やかだ。
まるで、その勝利を心から確信しているかのように。
「分かりました。私と戦う決心が付いたようですね、火渡レン……。それでは早速始めましょうか、どちらが最強の剣士にふさわしいか。至上の決戦を……と言いたいところなのですが……」
セレナは言うと、ため息混じりに僕の体を見渡し始める。
「?」
僕はその不可解な様子に首を傾げた。
「見たところ、あなたの体はボロボロですね。体力及び魔力も相当消耗しているのでしょう。……分かりました。それではそのまま少しだけ待機していて下さい。これからあなたの体力を全回復いたします」
何言ってるんだ、こいつは?
敵を治癒させるなんて聞いたこともない。
僕は彼女の言っていることがますます分からなくなり、ついに混乱し始めるのだった。
「いや、待て! まず、待ってもらおう! 何故、わざわざ相手の体力を回復するような愚行に出ようとする? そのままの方が断然お前にとって有利じゃないか?」
僕は彼女の言葉を完全に疑うように眉をひそめ、いぶかしげにそう問いかける。
「簡単な話です。他人から付けられた傷など、私にとっては作品を刃物で傷つけられるのと同じです」
――私はボロボロのあなたと戦いたいわけではない。一人の剣士として……一人の誇り高き魔導騎士として、全力のあなたをこの剣で仕留めたいのです――
彼女は言った。
僕にその麗しき白銀のカットラスの切っ先を僕に向けて、ありとあらゆる全てのものを溶かし尽くしてしまいそうなほどの燃え滾る情熱の闘争本能を僕に向けて。
だから僕は――、
「分かった。好きにしてくれ」
――応える以外ほかにない。
――mission impossible……、僕の剣とこの身を以てして、全ての不可能を打ち破る!――
それがこの世界最強の魔導騎士を名乗る彼女への最大のリスペクトだから。
それが、僕の今回の最大のクエストだから。
だから、それが……たとえどんなに無理ゲーであったとしても決して僕は逃げはしない。
現状全力を出し切ってさえ、クリア出来るかどうか分からないようなことを全ての手間暇をかけて全力でやってみる。
僕にとってそれは最高に面白いことだから。




