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癒しの中に這い寄る影Ⅲ

 少女二人が仲良く横並びに歩いている中、僕はポツンと一人取り残されたかのように彼女達の5メートルほど後ろを歩いていた。 


 旅館までの距離は決して遠くはなかった。


 僕が歩き始めて、15分くらいでリザードマン達に遭遇したことから、帰りもだいたい15分くらいで旅館に戻れるはずだ。

 僕は特にやることもないので、相変わらずの巨木の群れを見渡しながら、ゆっくりと歩いていた。


 すると、急に濃霧が僕の視界一杯に広がり始めていた。


 ネコミミとメリーは仲良く話しながら、その濃霧の向こうに消えていく。

 たった5メートル程度しか離れていないのに、何て霧の濃さだと僕は心底驚く。

 やはり、森の中だということもあって、こういう景色の変化はとても機敏だ。


 僕も彼女の跡を追って、濃霧の世界に入り込む。


 その霧の濃さはまさに圧巻の一言で、1メートル先の世界ですらほぼ真っ白で、視界の確保がおぼつかない。


 まるで、雲の中に入ったかのような不思議な感覚に僕はおそわれる。

 そして、その霧の中をようやく脱出してみれば……




 ――消えた?




「いない……どういうことだ」

 僕は思わず目の前に広がる光景に目を疑った。



 

 ――消えているのだ。



 

 もちろん、誰がとは言わない。

 いや、言うまでもない。



 

 ――霧を通り過ぎてみれば、ネコミミとメリーの姿が見当たらないのだ。



 

 これは一体どういうことだろう?



 僕は状況を深く考察してみる。


 しかし、そう頭を精一杯にフル回転させてみたところで、思い当たるものは何もなかった。


 僕の元に残ったのは、おびただしい焦燥感とたった一人に置き去りにされた孤独感のみ。


 今の僕は、理解不能なこの状況相手に正確な判断が下せるほど冷静ではない。

 いくら頭をフル回転させようとしたところで、感情が前に出てしまって、まともな思考など出来やしない。

 焦りや不安、孤独感で今にも殺されそうな気さえする。




 もう一度問いたい。

 一体どうなっている?




 僕はとにかく現状の理解に努めようとして、辺り一帯そこら周辺を隈なく歩き回ることにした。


 しかし、そうやってただがむしゃらに歩き回っているだけで、答えが見つかるわけでもなかった。


 僕は心底困ったように、その場に立ち止まって大きな嘆息を漏らした。

 どうにも、今の僕はとても冷静にはなり切れていないように思える。

 ただ、目の前で少女二人が消えただけではないか。

 それだけにすぎない。

 別に彼らが目の前から消えたところで、目的地ははっきりしているのだ。

 彼らは旅館にいる。

 だから、僕も一度辿ってきた道を戻って旅館に向かえばいいだけだ。


 極めて簡単な話じゃないか。

 それなのに、僕の体にはただならない焦燥感がのしかかっていた。


 それは言葉では上手く言い表せないほどの、はるか巨大な焦燥感だ。

 僕は、かつてこれほどの焦燥感を味わったことはなかった。

 そして、僕のその焦りは正しかった。


 何故なら、状況は目の前から少女二人が消えるだけには留まらなかったからだ。


 すると、ふはははははっ! という筒抜けに大きな笑い声が向こう側から聞こえてくる。


 聞き覚えのある、そのいくらか年老いた声に僕は反応した。


「どうした、小僧? 迷子になって怖くてママの下にでも帰りたいのか?」

 声のする方向を見れば、先日僕らを襲った顔中に髭を生やした筋骨隆々のガタイのいい天使が白馬にまたがっている姿があった。


 酷い発言だ、僕のことを馬鹿にしている。


「先日はお世話になったな、こんな酷いところに打ち落としやがって。こっちは重傷だぞ」

 僕は強く訴えかけるような、明瞭な視線を彼に向けた。


「当然だ! こっちはあの混血児を捕らえねばならないノルマがあったのだからな!」

 彼は堂々とした態度で、僕に指差ししながら言う。


 えらそうな奴だと僕は感じた。


「でも、そう言う割にはこっちまで追いかけてこなかったじゃないか? ここへ来るのが怖かったんだろ?」

 頭に血が上った僕は勢いに任せ、彼を嘲笑し始める。


「そうだ! ここには危険な魔物がそれこそうようよいやがるからなあ!」

 すると、彼は空を見上げて、高笑いしながら、意外なほど素直にそれを認めるのだった。


 威勢はいいが、そう簡単に挑発に乗ってくるようなタイプではないらしい。

 その辺り、彼の指揮官としての優秀さが窺い知れる。

 どうにも、僕にはそのえらそうで余裕ぶった態度が気に入らなかった。


「そんな奴がよくもこんなところにノコノコと入って来れたもんだよ」

 僕は大胆不敵な笑みを浮かべながら言った。


「ふん、そんなことはない! 言ってしまえば、準備が必要だっただけだ! 要するに準備の問題であっただけであって、それさえクリア出来てしまえば、こんなところなどどうとでもなるのだ! いいか、小僧! 耳をかっぽじってよく聴いておけ! 我らは混血児をさらった! 取り返して欲しくば、このハイドラ・ガブリエルを倒してからにせよ! ここから先は主への忠誠に従い、誰一人として、いかなる者も通さんぞ!」


 ハイドラはまたがっていた白馬から降りると、短剣と盾を取り出した。


「面白い! どれだけ強いか試させてもらうぞ! ネコミミは絶対に渡さない!」

 僕は思い切り、その場から飛び出した。 

   

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