癒しの中に這いよる影Ⅳ
「どう、メリー? ここのお湯は疲れにとても効くでしょ?」
「そうね。少し湯に浸かっただけでも、相当な疲労回復になるわ」
ネコミミとメリーは、真っ先に湯船に浸かり、疲れた体を癒していた。
ネコミミはそこまで体を動かしていた訳でもないので、期待されるほどの疲労回復効果を味わえるわけでもないが、メリーは本当に身体が疲労でボロボロだったので、この疲労回復効果は嬉しかった。
「ところで、一つ気になったんだけど、レンくん……彼をほっといて大丈夫なの?」
メリーは心底心配そうな表情でネコミミに尋ねてみた。
「大丈夫よ。レンならちょっと遠くに出かけてるだけよ。レンは、ちょっと困っちゃうほどに冒険好きな一面があってね」
奇妙なことに、ネコミミは不気味な笑みを浮かべながら言った。
まるで、レンのことなど気にも留めていないかのような発言だ。
千河の何かがおかしい……。
メリーはそう感じずにはいられなかった。
何しろ、ネコミミとメリーが一緒に風呂に入っている事だって十分に異常なのだ。
いつもメリーはネコミミに一緒に風呂に入ろうと誘っているが、その度にネコミミは恥ずかしそうにして彼女の誘いを断っているのだから。
「そう……それならいいけれど」
メリーはどこか落ち着きのないような様子で呟く。
「それより今は、こうして二人だけの時間を楽しみましょメリー。こういう機会だって、なかなかないじゃない。こうして、こんな大浴場を二人だけで占領できるのも今のうちなんだから」
ネコミミは気楽な様子で言った。
「千河が言うなら大丈夫そうね、彼は。いつもは一緒に風呂に入ることはなかったから、こうやって一緒に風呂に入れて良かったわ。まさか、大浴場を占領出来るとは夢にも思わなかったけど」
メリーは笑顔を浮かべながら言った。
すると、ネコミミも彼女と同じように笑顔を浮かべた。
「さて、そろそろ温まってきた頃だし、上がろうかしら」
ネコミミは浴槽から立ち上がって、出口に向かおうと試みる。
「そうはさせないわ!」
すると、メリーの手のひらがネコミミの大きな乳房を背後からわしづかみにする。
思わずネコミミは、ひゃっと可愛い悲鳴を上げながら、メリーの方に背中から崩れ落ちるのだった。
ネコミミのふんわりとしたお尻は、メリーの白くムッチリした太ももの上に乗っかり、ネコミミの背中にはメリーのやや控えめな乳房が押し付けられる。
ただ、やや控えめとは言っても、標準よりも少し小さいだけであって、決して片手でつかめそうにないほど小さいわけではない。
推定カップ数はおよそCカップ弱と言ったところで、巨乳のネコミミと比べたら少し小さく見えるだけだ。
「メリー、やったわね!」
すると、ネコミミはやり返しと言わんばかりに、ニヤリと怪しい笑みを浮かべながら、思い切りメリーの乳房をわしづかみにする。
今度はメリーが可愛い悲鳴を上げた。
「だって、そりゃあね。そんだけ大きかったら、誰だってそうやってみたくなるわよ。特に私みたいに少し小さな胸の女の子からしたらね」
メリーは妙にニヤけた表情で言った。
「そう? 別に大したものじゃないわよ。重いし、肩は凝るわで苦労してるのよ」
「でも、そういうのうらやましいわ。少しは分けて欲しいくらいにね」
「まあ、それは無理よ。でも、別にそんなことで悩む必要もないじゃない。案外、男の子って貧乳の方が好きかもしれないわよ」
「そんな大きな胸をしている人に、そんなこと言われても全然説得力が感じられないのが、これまた笑けてくるわね」
「大丈夫よ、メリーの胸だってそこまで小さいわけじゃないのだから」
「それもそうね、こんなことばっかり気にしてても仕方がないだけよね」
メリーは弱々しく笑いながら言った。
「それにしても、本当に申し訳ないわね。こんなところまで来てもらっちゃって」
「いいのよ。私は千河に呼ばれれば、たとえ地の中であろうとマグマの中であろうと、どこでも駆けつけちゃうんだから」
「ありがとう。本当に頼もしいわ、これからもよろしく」
「ええ、任せておきなさい!」
メリーは、胸を張ってその場から勢いよく立ち上がると、拳で自分の胸を軽く叩いた。
すると、ネコミミも立ち上がって、不思議そうな表情でメリーの顔を下から覗き込むのだった。
「あれっ!? どうしたの千河? 私の顔に何か変な物でも付いてる?」
メリーは戸惑いを隠しきれず、赤面しながら恥ずかしそうに尋ねた。
「メリー、ちょっとごめんなさいね。失礼するわ」
ネコミミは控えめに小さく呟くと、メリーの身体に手を回し……
――キスするのだった。
それもほっぺとか、おでことかまだ許容範囲の広い場所ではない。
ピース・トゥ・ピース……。
お互いの唇を合わせ、女の子同士でキスし合っているのだ。
目の覚めるような全裸の美少女同士が互いの唇にキスし合う光景ほど、神秘的な何かを感じさせる光景はないかもしれない。
それほどまでに、その光景はあまりにも衝撃的で芸術的だ。
生命の本来有する普遍的な美しさと同姓同士のキスという宗教的観点においてのタブーとが折り重なって、目の前には想像を絶するカオスな光景が出来上がっている。
メリーは驚いたように両目を見開き、赤面していた頬をさらに赤くさせる。
メリーはもう顔中耳の中まで真っ赤だ。
その驚きようと言ったら、あまりの衝撃的な光景に脳の処理が間に合わず、両目にうずまきを発生させているほどだ。
そして、メリーは蚊の鳴くような小さな呻き声を上げながら、その場で気を失ってしまうのだった。
ネコミミは気を失って倒れてしまうメリーの身体をさっと両腕で支えた。
瞬間、ネコミミの身体から奇妙な白い霧が発生し、彼女をたちまち覆い尽くしてしまう。
「これで私のノルマは達成しました。あとはハイドラだけですね」
すると、そこには気を失ったメリーを抱える先日の女天使の姿があった。
どうやら、彼女は変身魔法を使って、これまでネコミミの振りをしていたようだ。
これで、メリーとレンを切り離した理由も頷けるわけだ。
いつものネコミミなら、レンに対してそこまで放任主義にはなれないはずだ。
そして、先ほどの霧系変身魔法から、レンの目の前に現れた霧も彼女の魔法と推測できる。
だとすると、本物のネコミミは一体どこに?
謎は深まるばかりだ。




